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the BEST !!

極上と言わせてもらいたい。

武豊とクリストフルメールの騎乗。

第68回有馬記念。

トップジョッキー2人のパフォーマンスに酔いしれる事が
できた、素晴らしいレースだった。

スタートでやや出遅れた武豊ドウデュース。
そこで慌てず、腹をくくって最後方から、馬を落ち着か
せながらゆっくりと位置を上げていく。

一方、ゲートが開いてポーンと飛び出すと馬の首を押して
押して脱兎のごとくダッシュをかけるピンクの帽子。
(え?黒じゃなくて?)

逃げ馬タイトルホルダーの馬番4が、黒い帽子だ。

(何してんの?こいつ・・・逃げよぉっての?)
破れかぶれに見えたスターズオンアースの鞍上で、ピンクの帽子が
すごい早さで前へと動いていく。

(何つぅ・・・こう来やがんのか?)
激しく腕を上下させていたクリストフ・ルメールは、内からタイト
ルホルダーがくるや、すっと腕を止め馬の行く気に任せつつ、タイ
トルを前に行かせながら、涼しい顔で2番手につける。

(もつのか?いや・・・その自信があるから2番手まで初めから
押し上げたって事か)

有馬記念は、レース半ば過ぎたところで必ずペースが緩む。
そこで息を入れられれば終盤、後ろから差されずに最後まで
もたせる自信がルメールにはある、という事だ。

後ろからでも前からでも競馬ができるスターズオンアースだが、
まさか先行2番手とは考えもしなかった。

(何て事しやがる・・・)

第50回目の有馬記念を思い出す。
2005年の12月25日。
その日、ディープインパクトに初めて土がついた。

ディープを負かした馬は、強かったが、その時まで後ろから
しかレースをした事がなく、終盤の脚に定評があったので、
直線の長い東京なら、と、直線が短く、小回りコースの中山
は厳しいと見られ、人気を落としていた。

4番人気のハーツクライ。

馬番は今日の一番人気、ジャスティンパレスと同じ10番。

その黄色い帽子がスタートしてから1コーナーで、先頭
から3番目を走っているのを見て、ディープインパクト
を応援していた私は目を疑った。

(何でハーツが3番手にいんの?)

見間違えかと思い、一瞬競馬新聞に目を落として確認する。
(間違いない!・・・ハーツクライだ・・・)

ウインズのビジョンに目を戻しながら、背中に悪寒が
走ったのを今でも覚えている。

その時、ハーツクライの背中にいた当時25歳だったか、26歳
だったか、日本の競馬に短期免許で乗りだしてから3年目ぐ
らいの若手だったフランス人が、今、スターズオンアースの
背中に乗ってスタンド前を、2番手で走り抜けていく。

(ほんと、嫌なヤローだね・・・)

さらに驚いたのが、もう一つのピンクの帽子だ。
馬番15番、スルーセブンシーズが、1コーナーで早くも位置を
押し上げていく。
いつも後ろから行く馬が、スタンド前では、中段まで位置を
押し上げながら走っていた。

(これがこの人の出した答えなんだろうな・・・)

どうやら池添さんの頭には、腹をくくって最後方から、という
考えはないらしい。
いつもの3角から4角へ滑るように流れていくスルーセブンシーズ
の走りは、今日は見られないな、と思った。

(ここでこれだけ脚を使ったら、もう・・・)

対する武豊は、ゆっくりと慎重に位置を上げていく。
スタンド前でもまだ後方から2、3番手。
最後方は一番人気の黄色い帽子、馬番10のジャスティンパレスだ。

隊列を先頭で引っ張るタイトルホルダーが、2コーナーを曲がった
所でペースを上げ、後ろを引き離しにかかる。
4馬身・・・5馬身・・・向こう正面でスターズオンアースは単独
2番手になった。池添騎手は馬にやや持っていかれ気味になっている。
半分に差し掛かる頃、武豊の手がほんの少し動くと、後方3番手から、
ドウデュースが2頭・・3頭と抜かしつつ位置を押し上げていく。
半分を過ぎた頃、最後方のジャスティンパレスが動いた。
隊列の外側に馬を持ち出す。
3コーナーに差し掛かる所で、黄色い帽子は前を抜かし始めた。

4コーナーへと向かう馬群を6馬身ほど引き離しつつ、タイトルホル
ダーがじっくりと脚をためながらコーナーを曲がっていく。
ドウデュースはゆっくりと位置を押し上げながら、それでも前半丁寧
に進んだ分の余力が推進力となって、4コーナーでは間に2頭挟んで
早くもスターズオンアースと同じ位置に並びかける所まできた。
武騎手は必要以上に腕を動かさず、なるべく馬の行く気に手綱を預け
るかのように、過度な負荷をかけずに馬を前へと進ませる。
その後ろで、黄色い帽子の腕が激しく上下していた。
前へ前へと逸るようにジャスティンパレスが追いかける。
スルーセブンシーズがどうだったのか、見ていない。
直線に入った。タイトルホルダーが必死に追ってさらに後ろを引き離
そうとする。同時にスターズオンアースが追い始める。
ルメールが全開で両腕を前後に振ると、武も追い始める。
それに応えてドウデュースの地面を蹴るスピードが上がる。
スターズオンアースに並びかけながら、武騎手はまだ全開では
追っていない。追いながら半分はなお手綱を馬にゆだねている。
そう映った。ターフの魔術師と呼ばれ、絹糸一本で馬を操ると言わ
れたのは、親父の武邦彦だったか。
追うタイトルホルダーとスターズオンアースの差は開かない。
そのスターズオンアースに並びかけていくドウデュースの斜め
後ろ、もう一つのピンクの帽子が下がっていく姿が一瞬視界の隅
をかすめる。ジャスティンパレスがどこにいるか、もう探す気も
無かった。

タイトルホルダーとスターズオンアース、それに並びかけようと
するドウデュース、それらの差が縮まっていく。
タイトルホルダー鞍上の横山和生が必死に追う。
が、差はどんどん縮まった。
直線半ば、タイトルホルダーを捕まえたスターズオンアースが
やや前、その横にドウデュースが並びかけていく。
18年前の有馬記念の時とそっくりに見えた。
前を行くハーツクライ、追うディープインパクト。
早めスパートに入ったハーツクライを全力で追いながらディープ
インパクトはとらえられなかった。
直線半ば過ぎ、全力で追うスターズオンアースに並びかけながら、
ドウデュースの背でようやく武は強く追った。
が、まだ全開で追っていない。
並びかける。
まだ全開ではない。
ゴール50m手前。
並んでいた位置からスターズオンアースがやや前に出た。
初めて武は全開で追った。
並ぶ。
交わす。
突き放す。
追いすがるのを半馬身、離した所がゴール板前だった。

中山競馬場の観衆の弾けぶりや”ユタカ・コール”などは、
youtube等で確認できると思う。

終わってみれば、やはりこの男は千両役者なのだと思った。
勝利ジョッキーインタビューの最後。

「・・・いやぁ・・やっぱり競馬はいいな、と思います。
えぇ、今後も皆さん、応援してください、メリー・クリスマス!」

湧き上がる観衆。

いいものを見させてもらったと思えた。

私が今回、推していたスルーセブンシーズは16頭中12着だった。
軸で買おうか迷いに迷った末、やはり大外枠が気になって買うなら
ヒモでだ、という思いに至った。
が、もう一頭推していた馬も絶好の枠とは言え、百パーセント
信じきれるかといえば、微妙だった。

鞍上がケガで戦線離脱していた状態から復帰して、2週間ほど。
本調子にあるとはいいがたい。
この馬もヒモと考えると、軸にする馬がいなくなる。

そうなると点数を絞ってBOXで買うしかなくなるわけだが、
それだと6点に絞らなければならない。
(7点以上だと元が取れないばかりか、赤字にしかならない。
6点でも組合せによっては赤字だが、赤字になる割合が6点だ
とぐっと下がる)

その6点に絞る事ができなかった。

仕方ない、見送ろう、という気持ちを変えたのは、戦線離脱
していたその騎手がweb日記に書いていた一文である。

”もしドウデュースがいなければ、復帰を来年にしていたかも知れない”

(わかったよ、武さん)

1点100円までなら、負けても年末までお茶漬けとカップ麺とコンビニ
おにぎりなら、何とかそれでしのげそうだから・・・
やりゃいいんでしょ?やりゃ・・・。

おかげでオリジン弁当とおかずもう一品ぐらいはいけそうである。











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