見出し画像

Japan Cup 2023

記事を書こうという気すらなかった。

(CGなんじゃないの?この馬・・・)

2着に4馬身差をつけてゴールしたイクイノックスを見て、
そう思ったからである。

『1000m通過は、57秒台!!』
という実況の叫びも耳に残っていた。

1000m57秒台は明らかなハイペースである。

ハイペースを3番手で追走したイクイノックスの上り3ハロンは、
33.5秒、全出走馬中トップだった。

化け物とかそういうレベルではない。

あり得ないのだ。

ハイペース3番手追走で上がりがトップ、ルドルフやサイレンススズカ
ですらそんな勝ち方をした事はない。

(毎日王冠で、逃げながら上がりがトップに0.1秒差という事を
サイレンススズカはやってのけており、これもき〇がいじみて
いるが、かろうじて上がりタイム2位である)

エクリプス(1764‐1789)
<生涯無敗、”1着はエクリプス、2着以下は姿が見えない”と言われた
サラブレット3大始祖の一頭>

セクレタリアト(1970‐1989)
<25年ぶり史上9頭目のアメリカ三冠馬、その三冠目ベルモントステーク
スで2着に31馬身差をつけて勝った>

の時代とは、サラブレットの生産技術も育成技術も調教技術も、馬場の調整技術も違う。能力差があからさまに開く事は考えにくい。

『ペースは速かった』と、ルメール騎手もモレイラ騎手もレース後の
コメントで言っている。

”もしかしたら、イクイノックスはこのジャパンカップで引退するかも”
という声が一部で上がっていた。

(とっとと引退してくれ、こっちの頭がバグりっぱなしになる)と正直
思っていた。
(元々バグっとるやないかぃ、というのはさておき)

長年競馬をやっていて、直線、”熱狂”とは正反対の”引く”という感覚を
初めてもった。

レース映像を何回見返しても、引いてしまう。

そのうちに、(ん?)と思った。

(なんでパンサラッサが捕まってるのが、残り200m過ぎた所なの?)と。

※トップ画像、すでに先頭に立っているのがイクイノックス。
2番手最内の青い帽子がパンサラッサ

私の大好きな栗東爆走族、パンサラッサはこのレースで引退するという。
種牡馬となって是非とも同系統の爆走息子や爆走娘に会わせて欲しいと
切に願うばかりなのだが、このパンサラッサ、道中”息を入れる”という事
ができない。

逃げ馬というのは普通、レース前半で先頭を取ってそのままできるだけ2番手以下に差をつけつつ、2コーナーを回った向こう正面、あるいは3コーナー
あたりでペースを落とし、スローにして”息を入れ”(呼吸を整え)、直線
で使う為の2の足の力を貯めこむものだ、と私は思う。

要は、逃げ切って勝つ為の戦略としてペース配分を行うわけだが、パンサ
ラッサはこのペース配分ができない。

スタートしたら脚力枯れ果てるまで走り切るしかない、行けるとこまで
行ったれ走法しかできない、昔の(ブライアントがいた頃の)近鉄バフ
ァローズ打線のような馬なのだ。

だからこそ、競馬モノの胸を熱くさせるわけだが、適距離は1800mから
2000m、と私は見ている。

ために、去年の秋の天皇賞(2000m)などは、結局イクイノックスに敗れ
はしたものの、ゴール直前まで”あわや”と思わせるレースを魅せてくれ、
2着に粘った。

しかし、ジャパンカップは2400mなのだ。
パンサラッサには明らかに長い。
という事を当然、レースをしている騎手が念頭におかないわけがない。

いくら大差をつけられようが、直線で脚が止まるのは目に見えている。
なら行くだけ行かせてもさほど危惧する必要はない。
同馬の距離適性からして、恐らく直線残り400mあたりで捕まるだろう。

と思っていたのだが。

(残り200m過ぎてから捕まってる・・・という事は)

これを”ミス”と言ってはジョッキーには酷かも知れない。
動いた結果、惨敗したら責任を負わなければならないのだから。

それでももしうまく嵌れば、もしかしたら2着はあったのではないか?
そういう馬が一頭いた。

リバティアイランドではない。
スターズオンアースでもない。
ドウデューズでもディープボンドでもダノンベルーガでもない。

これは私の見解だが、東京競馬場の2400mで1000mが58.5秒以上早ければ
ハイペース、58.5~59秒で平均ペース、59秒以上かかればスローペース
と考える。

パンサラッサの1000m通過は57秒台。
これだけ見れば、このレースは明らかなハイペースだと思える。
だが、2番手以下もハイペースで流れたならば、パンサラッサは直線残り
400m、遅くとも残り300mあたりで捕まっていたはずである。

それが、残り200m過ぎで捕まっているという事は、パンサラッサだけが
ハイペースで、2番手以下はスローで流れたのではないか。

2番手を追走していたのは、逃げ脚質ながら、2番手からも競馬ができ、
ペース配分も自在にこなせる、昨年春の天皇賞で2着ディープボンド
に7馬身差をつけて圧勝したタイトルホルダー。

同馬の1000m通過は、60秒フラットだった。

良かった。
イクイノックスはCGではなかった。
生身の馬だったのだ。

スローなら、3番手追走からの上がり3ハロントップで勝つというの
は、現実的にあり得ない事ではない。
(にしても、とんでもなく強い勝ち方という事に変わりはないが)

直線の”熱狂”が蘇る。

それにしても、もしも、タイトルホルダーが、1000m通過後、
3コーナー途中からでもペースを上げていたら、もしかしたら、
イクイノックス以外の馬は、直線、同馬を捉えるのが難しかっ
たのではなかろうか、と感じた。

そうしなかった事をミスといっては、やはりジョッキーには酷
なのだろうが、観戦している方は夢をみたくなる。

このレース、タイトルホルダーは5着だった。
復調傾向といえる。
有馬に出走した場合、馬券内を狙える状態と見る。

さて、恐らく来年の競馬界をリードしていく存在になるであろう
リバティアイランド。
向こう正面で、3、4回、頭が上がっていた。
折り合いを欠いて、消耗しながらの古馬相手の2着は立派だと思う。
無茶を承知で勝ちにいった川田騎手の厳しい騎乗によくあそこまで
応えて走ったと思う。
それでいて、3着のスターズオンアースに1馬身差つけているのだ。

文句無しに強い。

ただ・・・・・。

斤量差4キロあって(イクイノックス58kg、リバティアイランド54kg、
スターズオンアースは56kg)、4馬身差つけられている。

このあたりをどう見るかだと思う。
少なくとも私は、(アーモンドアイ級ではない)という判断を現時点
ではしている。

最後に、日本の競馬文化は成熟したと感じる。

”イクイノックスに凱旋門賞に出て欲しい”、という声もあるが、皆が
そう言っているわけではなく、”別に出なくてもよくね?”という声も
同数程度あるのを見てそう思った。

実際に出るとしたら来年秋になるわけで、1つレースをすると消耗が
激しく、回復に手間と時間を要するイクイノックスに、来年まで競馬
をやれというのは、あまり現実的ではないとも思えるし、出なくても
出たら勝つだろう、とも思えるし、そもそも凱旋門賞ってどうしても
勝たなきゃならないレースなの?というのもあるし、世界最高峰の
レースっていつ、誰が言い出したんだっけ?という感じもする。

もちろん、日本馬が勝つところを見てみたい気持ちはあるにせよ、
そこまで拘らなきゃならんものかね?という気もするのである。

何より、イクイノックスが現在世界ランキング1位という事に対して、
凱旋門賞に出ていなくても、世界最強という事にほとんどの人が疑問
を持つ事なく納得している。
(また納得させる走りをイクイノックスがしている)

どんなレースに勝ったか、ではなく、レースでの走りを見て世界最強
を感じ取り、その醍醐味を味わう事ができる。

そこに成熟を感じた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?