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アスリートの消費カロリー量をどう推定するか

最近見つけたこの論文↓について。

食事にアプローチしたい場合には「自分がどの程度エネルギーを消費するのか」という要素は重要になる。
というのも、それがわからないと「どれだけ食事を摂れば良いか」がわからないからであって、逆に言えばそれが分かればエネルギーバランスの観点から大まかな指針を立てることができる。

例えば体重を増やしたいのであれば推定消費カロリー量よりエネルギーを取る必要があるし、逆に減量したいのであればそれより低くする必要がある(その上でPFCバランスなどが考えられる)。

消費カロリー量自体を実測することは現実的ではないので推定するしかないが、問題はその推定の精度にある。
アスリートであればなおのことその正確性は曖昧である。

この文献は、そのような消費エネルギー推定の問題について、RMR(安静時代謝率)の推定式がアスリートにおいてどの程度の精度をもつのか、ということを分析したものである。

以下は自分が気になった点について。
これを書いてる現在、自分がラグビーとアメフト選手しか見ていないから男性のパワー系アスリートに関する内容が多い。。。


それぞれの推定式に関する分析

図はO'Neill et al. (2023)より。

上の図は、プロットされたRMRの推定式に関するフォレストプロットであり、それぞれがどの程度過小評価するか/過大評価するかを示している。右に振れているものは過大評価、左は過小評価の傾向の程度を示しているという感じ。
とりあえず目につくものを並べるなら、

  • WHOの式では消費カロリー量を過小評価する

  • Harris-Benedict、Cunninghamはやはり安定?

というところだろうか。。他は使ったことないのでわからない。

少なくとも全体の分析としてはTen-Haafの式が良いらしい。
使ったこと無いので調べてみると、ここでのTen-Haafの推定式は、

REE(安静時消費エネルギー量, kcal/日) = 11.936*体重[kg] + 587.728*身長[m] - 8.129*年齢 + 191.027*性別(男性なら1、女性なら0) + 29.279

になる(ten Haaf & Weijs, 2014)。

163cm, 56kg, 年齢24の自分(男)で出してみると、
REE = 11.936*56 + 587.728*1.63 - 9.129*24 + 191.027*1 = 1598.34364[kcal/日]
なので、おおよそ1600kcalが1日の安静時エネルギー消費量になるらしい。

ちなみにHarris-Benedictの推定式では基礎エネルギー消費量(BEE)を推定し、

BEE = 66.47 + 13.75*体重[kg] + 5.00*身長[cm] - 6.76*年齢

なので、BEE = 1489.23[kcal/d]になる。
確か女性だと少し変わるので注意。女性は日本版と国外版でも異なったはず。

Cunninghamの推定式は、

BEE = 376 + 21.6*除脂肪量[kg]

になる。自分の除脂肪量を久しく測っていないので算出できず。

実際は、これらの推定式で出した値に身体活動レベル(physical activity level; PAL)をかけて活動レベルに応じた消費カロリー量を推定することになる。
そもそもこの時点でもどの程度の活動レベルと見積もるかで誤差が出そうではあるので、推定に推定を重ねることになって誤差は当然生じるのだが。。。


体重が重いアスリートでは推定式の精度が変わる?

Harris-Benedictの推定式は一般の非アスリートを対象とした食事療法などでも用いられるが、体重の重いアスリート(ボディビルダーやラグビー選手)に適用した場合、一貫して過小評価する傾向があるようである。

したがって、そのようなアスリートのRMRを推定する場合、CunninghamかTen-Haafの推定式が良いといえるかもしれない。

とりあえず、この文献の筆者らはTen-Haafの式は全体としてほとんどの状況で精度が高くなると結論づけている。


最後に、この文献の最後にはどの推定式を使うべきかという点に関するフローチャートが提案されている。理想的には、推定したアスリートの特性と類似している特性を持つアスリートについて誤差が少ない推定式を使うべきである、ということになる。

図はO'Neill et al. (2023)より。

例えば体重が90kgの男性ボディビルダー選手のRMRを推定したいのであれば、最も誤差の少ないと示されているCunninghamの推定式を使うべきであり、体重が70kgの女性ラグビー選手のRMRを推定したいのであれば、Watsonらの推定式を用いるべきだ、というように利用できる。
逆にそのような適格がないのであれば、とりあえずTen-Haafの推定式を用いることを考慮しよう、とも提案されている。


推定に意味はあるのか?

ここまで誤差を考えてまで推定することに意味があるのかという気がするかもしれないが、やはり「どの程度エネルギーを消費しているか」を把握しておくのは重要だと思われる。

それは身体を大きくしたいアスリートであってもそうだし、減量したいのであれば尚更である。
冒頭にも書いたように、まず全体の枠組みとしてどの程度摂取すべきかを知り、その上でPFCバランスを考えるというのが栄養戦略としては基本になるので、そもそも枠組みとしての枠の大きさが分からないと話にならない。。

指導者としても、例えば食事の状態をフィードバックするためにも基準が無いと「もっと食べないといけないのか」「食べ過ぎなのか」が分からないので、その意味でもある程度の指標は欲しい。


その上で、マメに体組成を計測して体重や除脂肪量の変化を追っていくというのが体型のコントロールでは重要になるのかなー。シランケド


References

  • O'Neill JER, Corish CA, Horner K. Accuracy of Resting Metabolic Rate Prediction Equations in Athletes: A Systematic Review with Meta-analysis [published online ahead of print, 2023 Aug 26]. Sports Med. 2023;10.1007/s40279-023-01896-z. doi:10.1007/s40279-023-01896-z

  • ten Haaf T, Weijs PJ. Resting energy expenditure prediction in recreational athletes of 18-35 years: confirmation of Cunningham equation and an improved weight-based alternative. PLoS One. 2014;9(9):e108460. Published 2014 Oct 2. doi:10.1371/journal.pone.0108460

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