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「ラインマンのニーブレース」に意味はある?: アメフトにおけるprophylacticなニーブレースの傷害予防効果の話

最近、アメフトのオフェンシブライン(OL)の選手におけるprophylacticな(=予防的に装用する)ニーブレースの装用と主要な膝部外傷の関連性についての研究を見つけた。

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NFLの2014〜2020シーズンを対象としたこの研究では、
・年々ブレースの装用率は低下している
・ブレースを装用している群(n=154)では7シーズンを通じた膝部外傷件数が2件であった一方、ブレースを装用していない群(n=1407)では69件であった(受傷率としては0.013 vs. 0.049, p=0.04)
・ブレース装用群での受傷は単独MCL損傷とACL損傷で1件ずつだった

という結果が示されている。

そういえば日本でもチーム単位でつけてそうな大学があったような気もするし(どこだったかは思い出せず)、自分自身の現場でもたまに聞かれるなーと思い少し調べてみると、これが意外と深かった。

沼にはまり込む内にOLに限定せず「アメフト」という観点でどうか、そして着用することでバイオメカニクス的にどのような変化が生じるのか、という点まで調べてしまったので、今回はその辺のお話を少し。


ざっくりと文献を概観してみる

アメフトに関するprophylacticなニーブレースの効果を調べたものとしては、おそらく1980年代から見られるようである。

Hewsonらによるカレッジフットボールを対象とした研究では、ブレースの装用によってGrade II, IIIのMCL(内側側副靭帯)損傷やACL(前十字靭帯)損傷の受傷率を低減させる傾向が見られたものの、概してブレースの装用が膝部外傷の受傷リスクを低減させるとは考えにくく、また受傷による練習時間の喪失に対しても影響を与えないと結論づけられている(Hewson et al., 1986)。

翌年に発表されたRovereらによる研究もまた、prophylacticaなニーブレースの装用に対する効果に疑問を呈するものであった(Rovere et al., 1987)。
興味深いことに、この研究ではブレースの装用期間には下腿三頭筋の筋けいれんcrampingを訴える頻度が高かったということが指摘されており、これは(少なくとも当時普及していた)ニーブレースがkineticな/kinematicな影響を及ぼすことを示唆している。

これには、被験者のgrade(学年)が関連している可能性も指摘されてきた。例えばRequaとGarrickによる1990年のレビューでは、「高校レベルにおいてはダブルヒンジ型のブレースの装用がある程度支持される」が、大学レベルでは明らかではないとされている(Requa & Garrick, 1990)。

ダブルヒンジ型のニーブレースとは、上図(b)のようなブレースのこと。
図はYan et al. (2022)より。

2008年のsystematic reviewでは、装具がむしろ膝部傷害のリスクを増大させたことを示す研究もあることを指摘しつつ、大学フットボール選手における膝部傷害予防のための装具の使用については推奨も非推奨も結論づけられないとしている(Pietrosimone et al., 2008)。
その後の別のsystematic reviewにおいても、

Prophylactic knee bracing cannot be recommended to prevent or lessen the severity of MCL injuries in American football players.
(予防的な膝装具の装用は、アメリカンフットボール選手のMCL損傷の予防または重篤化リスクの減少に対して推奨されない)

Salata et al. (2010)

というclinical recommendationが出されている(Salata et al., 2010)。

じゃあ意味がないのか、と考える前に

このトピックに関するoriginal articleでは、どうしてもバイアスのリスクが含まれていたりブレースの種類が統一されていなかったりするために、これらの結果を基に「予防的なブレースに意味は無い」と結論づけることは難しい。

おそらく、
・対象者の特性(ポジション、既往歴など)
・競技レベル
・練習か試合か
・装具の特性(MCLのサポートに特化しているのか、それとも別の靭帯か、着用しているものはfunctionalなものか、prophylacticなものか)
など様々な因子を考慮する必要がある。

また、ブレース自体の質的な向上も考慮すべきであるが、少なくともアメフトを対象としたprophylacticなブレースの効果に関する近年の研究はあまり多くないため、その点も注意する必要があると思われる。


ブレースの装用はパフォーマンスに影響を及ぼす?

膝部へのストレスに対する影響

このトピックで興味深い研究として、Hackerらによるin vitro研究がある(Hacker et al., 2018)。
この研究では実際の献体から摘出した膝標本を用いており、それに対して前後内外側方向から衝撃を加えた時のACLのひずみstrainや関節角度の変化を調べている。この研究ではニーブレースとして4titude®(DONJOY社製)が用いられた。

研究で用いられた膝装具。日本でも買えるよ(多分)

結果として特に興味深い点をピックアップすると、

  1. 装具の装用によって、膝屈曲30度の状態で外側から膝関節線上に向かって衝撃が加えられたときの大腿骨・脛骨の回転加速度は低減した

  2. ↑の時にACLのひずみの変化率には影響せず

  3. 膝30度屈曲位で前方からの衝撃が膝関節のやや下方に加えられた時、ブレースの装用条件下ではACLのひずみの変化率がブレース非装用条件に比べて有意に大きくなった

内外側からの衝撃が大腿骨と脛骨の骨運動加速度やACLのひずみの変化率などに与える影響を示した図(Hacker et al. (2018)による)。ブレースは内外方向の力に対して骨の加速度を低減させるのには有効なようである(最左図)
前後からの衝撃が大腿骨と脛骨の骨運動加速度やACLのひずみの変化率などに与える影響を示した図(Hacker et al. (2018)による)。

これは特にアメフトのようなコンタクトスポーツにおいて、MCLの損傷を予防する上では潜在的に有益である可能性があるが、特に前方からのコンタクトによるACL損傷においては逆にリスクを高める可能性があると考えられる結果であるといえる。
このような装具が外反ストレスを低減させる可能性は、膝OA患者を対象としたMoyerらによるメタ分析においても示されており、この意味で内外方向へのストレスに対するサポートとしては有効であるかもしれない(Moyer et al., 2015)。

kinetics/kinematicsな影響

一方で、ランディングに伴うkinematics/kineticsな影響としてはACL損傷リスクを低減させるような変化が見られたとする研究もあるが(Ewing et al., 2016)、これに関しては装用したブレースの条件も関係していると考えられる(この研究では上述のDONJOY社のものよりも強固と思われるブレースを用いている)。
女性ネットボール選手を対象とした研究では、非ヒンジタイプのブレースを用いたところ主観的な安定感は向上したものの、膝関節の運動学的に有意な影響をもたらさなかったことが示されている(Sinclair et al., 2017)。

ブレースの装用は筋活動にも変化をもたらすようである。
これについて、例えばBorsaらによる研究では、ブレースの装用によって膝伸展のピークトルクを減少させ、40ヤード走のタイムスコアを悪化させたことが示されている(Borsa et al, 1993)。

Haddaraらの研究では、ブレースの装用が歩行時の摂動に対するACLの「アゴニスト」筋(=ACLと協働して脛骨の前方偏位を抑制する筋)と「アンタゴニスト」筋(=脛骨の前方偏位をもたらす筋=ACLのひずみストレスを増大させる要因となる筋)の反応にどのような影響を及ぼすかが調べられた(Haddara et al., 2021)。

この研究では、ブレースを装用している条件では、歩行での摂動が加えられた時に、
・大腿四頭筋(ACLアンタゴニスト)→ピーク力の低下
・ハムストリング(ACLアゴニスト)→有意な変化なし
・腓腹筋(ACLアゴニスト)→歩行周期最終3%におけるピーク力の低下
・ヒラメ筋(ACLアゴニスト)→力発揮のピークポイントの遅延
といった変化が見られたとしている。

ブレース装用・非装用の二条件で摂動に対するQuadの筋活動を比較すると、ブレース装用時には大腿四頭筋による発揮筋力が特に歩行周期49~60%の間に有意に小さくなるようである。図はHaddara et al. (2021)による。

これはブレースの装用が外乱に対する四頭筋の活動を抑え、結果としてそれが脛骨の前方並進を抑制してACLへのストレスを低減する、ということにつながる可能性を示唆する。しかし、研究でも指摘されている通りこれを結論づけるためには異なる外乱条件なども考慮する必要がある。

その他パフォーマンス的な影響

functionalな動作のパフォーマンスに対するブレースの効果は、健常な成人などを対象としても研究されている。

KaminskiとPerrinの研究では、ニーブレースの装用はバランス能力を改善するものの、間接位置覚joint position senseには影響を与えないと指摘されている(Kaminski & Perrin, 1996)。

MortazaらによるRCTでは、
・非ブレース装用群
・ネオプレン素材のブレース装用群
・ネオプレン素材のブレース+金属製の支柱で内外方向をサポートする群
・ヒンジ型のprophylacticなブレース
の4群において、機能的パフォーマンス(垂直跳び、片脚ホップの距離)に差が生じるかが調べられている(Mortaza et al., 2012)。

この結果、全群において機能的パフォーマンステストのスコアに有意な差は生じず、筆者らはブレースは機能的パフォーマンスを阻害することはないと結論づけている。

Bodendorferらの研究においても、ネオプレン製のスリーブやヒンジ型のブレースは成人な被験者においてカッティングメカニクスに負の影響を与えることなく、神経筋制御にポジティブな効果を与える可能性が指摘されている(Bodendorfer et al., 2019)。

概して、ニーブレースの装用は客観的にはパフォーマンスを阻害することはほとんどないと考えられるが、それがアメフトに特異的な動作においても当てはまるかに関しては注意が必要であるといえる。


結局ブレースは着けておくべきなのか

という問題に立ち返ると、現時点では選手個人の好みや経済的負担などの観点から考えるのが良いと思われる。

また、ACL損傷の既往があり、再建術などを行っている選手であれば、リハビリとしてトレーニングをするのはもちろんだが、競技復帰の際にブレースを装用することは膝の安定性をさらに向上させるうえで必要になるかもしれない(Giotis et al., 2013)。

ちなみに、リハビリのプロセスにおけるブレースの装用に関しては、非装用下での訓練と装用下での訓練において転帰に差は生じない可能性が指摘されている(Schoepp et al., 2023)。したがって、競技復帰前のトレーニングにおいては必ずしもブレースを装用する必要はないかもしれない。


References

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