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『STEVE McQUEEN』 Prefab Sprout

【私の音楽履歴書】#14 Prefab Sprout

さて、今回は(満を持して) Prefab Sprout / プリファブ・スプラウトを取り上げたい。

80年代のUKロックシーンは名だたるグループがリードしてきた。
私は(ポリスやU2は最早別格扱いだが)ニュー・オーダー 、ザ・スミス、 アズテック・カメラ、 ティアーズフォーフィヤーズ、 エコー&ザ・バニーメン、XTC辺りをよく聴いてきた。
そしてそれらは主にポストパンク、オルタナティブロック、ネオ・アコースティックなどと評された。

そんな中で私が一番好きなアーティスト(グループ)はプリファブ・スプラウトである。
プリファブ・スプラウトは、イギリスのニューカッスルで結成されたバンドだ。
ヘッダー画像の4人はフロントメンバーのパディ・マクアルーンと彼の弟のマーティン・マクアルーン、ウェンディ・スミス、ニール・コンティだ。
今は、パディ・マクアルーンのソロプロジェクトとなっているが、メンバーの変遷はありながらも、この4人が共に活動した期間がグループにとって最も輝いた時期であろうと思っている。

『STEVE McQUEEN』(85.6)

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彼らの2ndアルバム『STEVE McQueen』(85.6)のジャケット写真だ。霧の中でイギリス製バイクのトライアンフに跨ったパディ・マクアルーンを中心に、ごくごく一般的なイギリスの青年達の姿と映る4人。
スティーヴ・マックイーン主演の映画『大脱走』で使用されたバイクもトライアンフだった。ただ個人名のストレートなアルバムタイトルは何とも微妙だな…と当時は思った。
案の定、北米では発売当初登録商標の関係で別のタイトルに変わっていたという。

そして日本でも、彼らの名が知れ渡ることになる作品が、このアルバムにも収録されている「When Love Breaks Down」である。

このアルバムで一番好きな楽曲。イギリス北部の冷たい風が吹き荒ぶかのようなアコースティックギターとエレキギターが重なり合うアレンジ、パディの吠える様なボーカルが印象的な「Bonny」

名手トーマス・ドルビーと出逢い、彼のプロデュースを受けた2nd アルバムは、デビューアルバム『スウーン』の雑然とした素材感剥き出しの雰囲気から一変し、トータルとしてまとまりのある作品に仕上がっている。
自己流で音楽の基礎的知識や技量を持ち合わせていなかったパディらの、不自然なメロディやコード進行、譜割りを生み出すアプローチが新鮮に映り、彼のプロデュース欲を逆に掻き立てたという。

「西洋」の文化に触れるとは…



トム・ハンクス主演の『ダ・ヴィンチ・コード』という映画作品がある。いわゆるキリスト教文化の深い歴史的背景を把握した上でないと、様々な伏線やストーリーが理解出来ないと言われている。
クリスチャンでない限り、多くの日本人には到底わかり得ない決定的な文化的側面である。予備知識として学習することは出来る。しかし、あくまで「頭に入れた」だけのことである。
幼い時分からの生活に密着した肌感覚のものではないのだ。そして、洋楽を聴く場合もその要素は多分にある。
神学校に通っていたパディの作品は、キリスト教的宗教的要素の強い表現が多いとされる。教会音楽、賛美歌やゴスペル等の影響など当然にして、私には表面的な意訳でしか理解し得ない部分がある。
ただ、そこをある意味割り切っても、敢えてそこを楽しむ作品群であるとも言える。それだけ不思議で魅力的な作品を生み出してきたのだと言える。

皮肉屋としてのイングランド人


スティングが87年10月に発表した『…Nothing Like The Sun』の中に「Englishman in NewYork」という有名な楽曲がある。
異邦人(英国人) である一人の男がニューヨークでの暮らしの中で、誇り高くアイデンティティを持ち続けると宣言した歌といえる。
まぁアメリカの音楽マーケットは無視出来ないが、イギリス人としての意地はあるわな…と思わせる作品をプリファブ・スプラウトも作っている。『From Langley Park to Memphis』(ラングレーパークからの挨拶状/88年3月) がそうだ。エルビス・プレスリー、ブルース・スプリングスティーン、プリンス等を題材に(ツマに⁉) した作品は「皮肉屋」パディ・マクアルーンの面目躍如だ。

「Cars and Girls」「Hey Manhattan!」は、よりポップな楽曲だが、彼らから見たアメリカを特徴的に表現している。
また、ザ・フーのピート・タウンゼントが「Hey Manhattan!」でアコースティックギターを弾いているし、「Nightingales」ではスティーヴィー・ワンダーが参加しているのは特筆ものである。

『PROTEST SONGS』(89.6)



『STEVE McQUEEN』が予想以上に商業的に成功を修めたが故に、イレギュラーな出来事が起ってしまう。
次回作として録音済だったアルバム『PROTEST SONGS』が、いわゆる「大人の事情」で発売延期になり、先に『From Langley Park to Memphis』が発売される逆転事象が発生したのだった。
孤高のサウンドが売り出すべき時期として相応しくないとして…
確かに生々しいほどに研ぎ澄まされたサウンドは一言で言えば「地味」だ。しかし、順番は違ってしまったが、この作品に通底する静かな世界観は私は好きであった。

剥き出しの反戦歌、反体制歌ではない。人生の基軸をどう定めるかをパディは歌っていると思う。ただ、例外的に「Dublin」は北アイルランド問題を扱っている。静かな詩で…
〜We drow a line the ink is fear  you stay that side   we'll stay here〜
“僕らは不安というインクで境界線を引く 君たちは線の向こう側 僕たちはこちら側”
静謐かつ朴訥としたパディの歌声は、当時から強く胸に響いていた。

Jordan: The Comeback (90.8)



収録時間約64分余りというアルバムは当時のCDでも一枚の容量一杯だったのではあるまいか⁉初見(初聴)でもそれだけ長く感じた。タイトルからしてキリスト教色が濃く出ている、まさに一大叙事詩である。名盤ではあるがコンセプトの幅が余りに広いため評価に苦しんだ作品でもある。

上記三曲は、まさに彼らの代表的ラブソングと言える楽曲である。しかし、こんなある意味解りやすい楽曲構成でないのが、このアルバムの真骨頂でもある。前述した宗教的色彩の濃い一曲も紹介しておこう。「GOD」という概念は我々日本人には解りづらい。その「神」が呼びかけるという破格の名曲だ。



『Andoromeda Heights』(97.5)

この『アンドロメダ・ハイツ』が発売されるまでの間、ベストアルバム『A Life of Surprises』が92年7月に発売されている。その中での新曲として「The Sound of Crying」という佳曲が入っている。


そして彼らのファンを公言する吉本ばななが、自身の小説のタイトルにまで取り上げ、冒頭の歌詞の引用ということまでやってのけた「王国その1 アンドロメダ・ハイツ」(当時は、よしもとばなな)
そんな思い入れもあるこのアルバムが4人としての最後の作品になり、私には実質的に「プリファブ・スプラウトとしての」最後の作品と言えなくもない位置づけになっている。

そして、ガガーリンを題材にした「Weightless」という楽曲が異彩を放っていた。


Andoromeda Heights 以降…


『The Gunman and Other Storys』(01.6) より
「Cornfield Ablaze」


『Let's Change the World with  Music』(09.9) より
「Earth,The Story So Far」
何を隠そう私のスマホの目覚まし音楽はこれ。いや、日本では他にいないでしょ⁉と思っている。

『Crimson/Red』(13.10) より
「The  Best Jewel Thief in the  World」


私にとって、青春の瑞々しさとほろ苦さを、何時も感じさせてくれるグループこそが、プリファブ・スプラウトに他ならない。
パディ・マクアルーンのメロディは、その時々の記憶を引き戻す力を持っている。これからも節々で聴き続けることになるであろう唯一無二の音楽だ。





【追記】
本稿は時系列や時代背景等、正確を期すために、プリファブ・スプラウト研究の第一人者、渡辺亨氏の「プリファブ・スプラウトの音楽 永遠のポップミュージックを求めて」を参考にさせていただきました。


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