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『時の流れ』 伊勢正三

【私の音楽履歴書】#5 伊勢正三

岩井俊二監督、中山美穂主演の『Love Letter』(1995) という映画作品がある。この作品のコンセプトというか、インスピレーションを得たのは、風の楽曲『あいつ』(1975)ではないか⁉とSNS上では以前から言われている。
私も初見で、「あぁこれ、“あいつ”のアイデア持ってきてんじゃん…」と思った。
作品中でも、中山美穂と豊川悦司が喫茶店で向かい合うシーンで店内に流れるBGMという演出で、風の『アフタヌーン通り25』(1976) が使われている。岩井俊二、自ら告白している様なものだ。
有名な「お元気ですか〜?私は元気で〜す」のシーンも指摘するまでもない。

さて今回は、伊勢正三について語りたい。今や、時代と世代を超えた名作『なごり雪』の作者であるのは言うまでもない。
南こうせつは、かつて、この作品について、「きれい」という表現をいかにして別の言葉にするかをみんな悩んでいるのに正やん(伊勢の愛称)はそのままストレートに「きれいになった」と書くところが凄い…と語っていた。


その彼の作品のテーマとしてあるのは“時の流れ”だろう。
〈全ては時の流れ…〉そんな彼の作り出してきた楽曲は、常に私の中にあるといっても過言ではない。


以下、彼の作品の一部(フレーズ)を紹介し、私の想いも記していきたい。

まるで昨日と同じ海に波を残して
あなたをのせた船が小さくなっていく
             風『海岸通』 (1975)

いつかあなたのポケットにあったあの店のマッチ箱ひとつ
今でも 時々とりだしてひとつ つけてはすぐに消します 
あなたの香りがしないうちに
   風『あの唄はもう唄わないのですか』 (1975)

かつて、喫茶店やスナック、ホテルのアメニティにはマッチがつきものであった。時代の変遷を感じますね…

君が窓を開けてぼくを呼べばやっぱり振り向いてしまう
君の涙が雪に変わって僕の肩に落ちた
            風『暦の上では』(1976)

立春の時期に、よく「暦の上では」との表現が使われる。趣のある言葉です。

夜空の星がとても美しいのはほんのすこし光っているから
         風『ほおづえをつく女』(1976)

何事も過ぎたるは…ということか…「男の心にまで、ほおづえをついてしまった…」男と女の間の不可思議さ。

写真に写るときの君はいつも目をつぶっていたね
きれいなものだけを見てたかったんだね
          風『3号線を左に折れ』(1976)

当初は第三京浜かと思っていたが、モデルは福岡の国道3号、海の中道に向かう光景らしい。

君と歩いた青春が幕を閉じた
君はなぜ男に生まれてこなかったのか
          風『君と歩いた青春』(1976)

男と女の間に愛情と友情は同時に成立しない…永遠のテーマ。

誰もが物語その1ページには胸はずませて入ってゆく
ぼくの部屋のドアに書かれていたはずさ「とても悲しい物語」だと
             風『雨の物語』(1977)

「いく筋もの雨が君の心のくもりガラスに…」情景が浮かび上がるほどの詞とメロディー。

ひとりの人生はいくつかの絆で結ばれている
その美しすぎるほどの絆をほどきながら汽車はゆく
ああ 遠ざかるほど君は近づく
ぼくの心のレールを走って
           風『夜汽車は南へ』(1977)

ぼくの胸に顔をうずめて潮の香りがすると故郷のない君だからわかるのだろう
               風『冬京』(1977)

東京を「冬京」と置きかえることの凄さ…

アスファルトのすき間にも花は咲いてる
          風『歴史と季節の国』(1977)

日本と四季を意識した楽曲が、彼の作品の底流にあった。

時計の針が時を流しているわけでもなく
明日の朝 新聞の日付がただ変わっているだけのこと
        風『そんな暮らしの中で』(1977)

2センチ足らずの雪が科学の街 東京を一日でぬりかえる
〜大阪のコンサートでは「東京」を大阪に替えて謳う洒落っ気もありました。

あぁ僕の心の中に寂しい椅子がある
そう昔 君もそこにすわっていたんだね
                               かぐや姫『わかれ道』(1978)

湘南へ帰る人達の顔がとてもやさしい
すこし心が落ち着いた鎌倉すぎたあたり
なぜ海がみたいのだろう もう若くもないのに
もしも沈む夕陽に 間に合えばただそれだけのこと
                               かぐや姫『湘南 夏』(1978)

悲しみなんて幸せの前触れ
月が出るまでこのひとときを君に
                風『曙』(1978)


そして、この稿の最後に、スティーリー・ダンの影響も見受けられる名曲『あいつが生まれた朝』(1977) を…

                                                                                 № 009

【追記】

今回は「風」(期間限定再結成のかぐや姫も含む)の時代の楽曲を取りあげました。

ソロ活動の作品については、また日をあらためて…

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