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【Her Odyssey】27日目

『ダイヤの7』

 ボクは改めて鯨の怪我と向き合う。応急ではなくちゃんとした処置をするためだ。
 幸いにも海の上は魔術の使いやすい環境だ。水の精霊も風の精霊も、手助けをしてくれる。
 消毒の薬草を塗り直し丁寧に魔術を施せば、海水が滲みない程度に治療を完了することができた。
 鯨も嬉しそうに鳴き声を返してくれるようになる。ボクはほっと方を撫で下ろした。

 引き抜いた槍を綺麗にして改めて観察をしてみる。指先に触れる感触から、隣国の紋章が彫り込まれていることがわかる。どういう経緯で槍が彼を傷つけたのはいまいちわからないが。
 少しだけ不吉な気配がして、ボクは槍を自分のリュックに括り付けた。捨ててしまいたかったけど、海に沈めるのは少しだけ気が引けた。

 嬉しそうに周囲を旋回していた鯨が、ボクの方へ甲高い声で鳴いてみせる。
 次の瞬間、彼はボク達を背に乗せたまま海へと潜り始めた。
 キィ君がボクの腕に飛び込んでくる。楽しそうに鳴いているから、きっと大丈夫なんだろう。
 鯨がぶくぶくとあぶくを吐く音がして、ボク達は海の中でも息ができた。触れたら服も濡れていない。
 どうやら、何か魔法めいたものを鯨が使ってくれたのかもしれない。

 ボクに見る力があれば、美しい海中風景が拝めたのだろうか。
 海上とは違う穏やかな静けさと、時折聞こえるあぶくの昇るような音が心地よい。鯨はどこに連れて行ってくれるのだろう。