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第3章 食物繊維を超えるガン抑制効果が証明された

「非水溶性食物の一種フィチン酸(IP6)が、大腸ガン誘発動物モデルにおいて、とくに予防効果に優れていることが証明された。」J・H・ワイスバーガーほか(1993年)


検出可能になる前の初期ガンにも著しい効果がある

IP6のほうが食物繊維よりもガンに対して優れているということはわかりました。

では、なぜ有効なのかということについて、ある実験を考えてみましょう。

すなわち、ラットの乳ガンモデルで、IP6と食物繊維のどちらがより有効にガンを抑制するか、調べてみるのです。

食事と乳ガンに関するほとんどの研究が、食事中の脂肪に焦点を当てているのに、食物繊維のガン抑制効果について論じている研究はほとんどありません。

疫学的研究と研究室での実験的研究によれば、高カロリーで高脂肪かつ低繊維食の典型的な西洋人の食事は乳ガンの危険を増加させることが示唆されています。

しかし、この研究結果を解釈するのは、かなり難しいと考えられます。

なぜなら、高脂肪食は一般に食物繊維の含有量が少なく、ガンの発症頻度が高いのは脂肪の有害な作用によるものなのか、それとも食物繊維の有益な効果が少ないことによるものなのか、あるいは両者の相加作用なのか、はっきりしないからです。

なかでも興味ある例外は、典型的なフィンランド人の食事です。高脂肪であるとともに食物繊維も豊富だからです。

驚いたことに、D・P・ローズ博士の報告(1992年)およびH・アードラークロイツ博士らの報告(1994年)によれば、乳ガンの死亡率は、アメリカ合衆国よりもフィンランドのほうがはるかに低いのです。

また、ザン博士らのもう一つ別の研究によれば、ニューヨーク市の大学生で白人、ヒスパニックおよび黒人を対象に食事に関連した乳ガンの危険因子を調査したところ、それぞれの人種間で重要な違いがあることがわかりました。

白人の大学生は、同学年のヒスパニックおよび黒人の大学生より乳ガンの危険率が高かったのです。

この現象は、少なくとも部分的には、ヒスパニックの学生および黒人の学生の食事のなかには、白人の学生の食事よりもガン防御物質が大量に含まれていることを反映しているということになります(ヒスパニックは豆、黒人は果物と野菜)。

この研究結果ならびに最近のド・ステファニ博士ら(1997年)、ダン博士(1994年)、クリューバー博士とスミス博士(1995年)などの研究によって、脂肪以外の食事中のなんらかの要因が乳ガンの危険因子に影響を及ぼしていることが指摘されました。

シリアル(穀物)をまるごと食べる食習慣で大腸ガンや虫垂炎などの腸疾患のリスクが減るとわかったので、同様の効果が乳ガンにも認められるか否か調べてみようと決心しました。

また、小麦のようなある種の成熟した種子の外被(ふすま)の部分にIP6がとくに豊富に含まれていることがわかりました。

私の初期の研究で、(ふすまを含まない)純粋なIP6がガンを抑制する抗ガン物質であることが示されていました。IP6は、ガンが検出可能になる前のごく初期の段階でもガンを抑制するのです。

さて、このことについてもっと詳しく述べる前に、ガンに関連したいくつかの用語および、ガンの進行病期について理解しておく必要があります。

ガンは体内でどのようにして発生しているのか

腫瘍(しこり)は、非ガン性(良性)であったり、ガン性(悪性)であったりします。

「ガン(cancer)」という言葉は、おそらくラテン語の「蟹」に由来していると思われます。

なぜなら、ガンは体のあらゆる部位に取り付き、蟹のように頑固に冒すからです。

ガンは一晚にしてひょっこり出現するのではありません。

遺伝的な要因と環境因子(たとえば毒性物質にさらされるなど)とのあいだに複雑な相互作用があり、その結果としてガンが生じるのです。

環境要因物質としては、化学物質、放射線(太陽からの放射線および人工線源からの放射線)、ウイルスなどが含まれます。

これらすべての要因が複雑に影響しあってその結果、ガンが発生してくる過程で、食物がたいへん大きな役割を果たすことになるのです。

ガンが芽生え、生体の防御機構を圧倒するに至るまでに、一連の段階的な過程を経ることがわかっています。

たとえば、化学物質による発ガン(研究室での実験ガンや生活環境での曝露による発ガン)の場合には、2つの大きな段階、つまりイニシエーション (ガン原化)とプロモーション(増殖)があります。

化学物質は、イニシエーションを起こさせるものとして作用します。

化学物質は細胞内にガン化の可能性を秘めたある種の変化を起こさせます。

しかし、イニシエーションだけではガンはできません。

化学物質は、DNAと呼ばれる細胞核内遺伝物質に恒久的な傷害を残すだけです。

イニシエーションで変化した細胞がガンに進展するには、プロモーターが必要です。

プロモーターは、別の化学物質の場合もありますし、X線や太陽からの紫外線などの放射線の場合もあり、またウイルスの場合もあります。

もちろん、プロモーターそのものだけではガンはできません。

イニシエーターの傷害とあいまってガンができるのです。

プロモーターは、イニシエーションが起こった直後にその場所に存在する必要はありません。

このようにして、ある種のガンはそれが発生するのに何年もの歳月を要するのです。

たとえば、アスベスト(イニシエーター)に曝露される場合です。タバコ(プロモーター)を吸うと、何年もの歳月の後、肺ガンになりやすくなります。

しかし、イニシエーターにさらされ、それに続いてプロモーターが作用しても必ずしもガンが発生しないという事実は、生体の免疫防御系の強さやDNA修復機構がいかにうまく働いているかを示唆しています。

私たちの体は、酵素をつくり、それによって傷ついたDNAを切り取り、細胞の治癒を促します。

これらの酵素の生体内合成は、私たちの摂取する食物から供給される素材(原料)に大きく依存しています。

そして、酵素はタンパク質からなり、酵素が正常に働くためにはビタミンと微量元素が補完因子(補酵素)として必要です。

ここまで見てくると、ガン発生の筋書きがわかりましたから、ガンの発生を阻止する研究に立ち返ることができそうです。

ふすまを食べれば食べるほど効果があるというものではない

私の研究室で行った研究では、繊維質(ふすま)の豊富な飼料(IP6を高レベルに含む)を投与し、ラットの乳ガン発生を抑制するか否か、とくに投与量に依存するか否かを調べました。

投与量に依存するということは、試験物質(ここでは、ふすま)を投与した場合に、その量に応じてガンの発生率が変化するということを意味しています。

一般的に、投与量が多ければ多いほど、ある一定のレベルまで抑制効果が上がります。

私の研究室では、高繊維質の飼料を3段階の濃度に分けて3グループのラットに与えました。

それぞれ5パーセント、10パーセント、20パーセントのふすまを含む飼料です。飼育(投与)開始後2週間してから、発ガン物質を投与しはじめました。

発ガン物質はジメチルベンゾアントラセン(7,12dimethylbenz[a]anthracene :DMBA) という物質です。

IP6を豊富に含むシリアルのふすまが純粋なIP6単独投与と同様な抗ガン効果を有するか否かを検証するため、もう一つ別のグループのラットには対照飼料(ふすまを含まない飼料)のみを投与し、飲料水のなかにIP6を溶かして与えました。

飲料水中のIP6の濃度は、ふすま投与群の飼料中のふすまの最高濃度と等量になるように調整しました。

すなわち、この群のラットの飲料水には、0.4パーセントのIP6が含まれています。

これは20パーセントのふすまの飼料中に含まれるIP6に等しい濃度です。

この濃度のIP6は、150ポンド(約68キログラム)のヒトが、500ミリグラムから1000ミリグラムのIP6を錠剤にして服用する量に相当します。

発ガン物質の投与終了後、実験ラットは29週間、上記に設定した飼料と飲料水で、それぞれ飼育されました。

29週目に、ガンの抑制率を比較してみると、5パーセント、10パーセント、20パーセントのふすまを含む飼料で飼育したラットは、16.7パーセント、14.6パーセント、11.4パーセントのガン抑制効果が認められました。

これらの数値は、統計学的に有意差はありませんでした。

すなわち、ふすまの投与を受けなかったラットに比べて、飼料中のふすまが本当にガンの発生を抑制していると結論することはできないと考えられます。

統計学的に有意差があるということを認めてもらうためには、実験結果の数値がすべての科学者によって受け入れられるべき数学的公式(確率論)に適合するものでなければなりません。

さて、0.4パーセントのIP6を飲料水中に溶かして投与されたグループのラット(これは飼料中の20パーセントのふすま、あるいは前記のごとくヒトが500ミリグラムから1000ミリグラムのIP6を錠剤で服用した場合の量に相当する)は、33.5パーセントのガン発生抑制率を示しました。

ラット1匹当たりの担ガン率(その実験群において被検動物1匹当たりに発生したガンの個数)で見ると、48.8パーセントの抑制率でした。

これは、明らかに統計学的に有意な差でした。

この実験結果によれば、ふすまのかたちで食物繊維を補っても、ガンの抑制効果はたいへん控え目で、統計学的にも有意差はないということになります。

投与量に依存した抑制率増大も見られませんでした。

別の言い方をすれば、ふすまを多く与えれば与えるほど、ガン抑制効果がそれに比例して大きくなるというものではないということです。

IP6の投与でガンの発生率が半分以下に抑えられたふすまを投与されたラットに比べて、飲料水中にIP6を溶かして投与されたラットは、統計学的に有意差をもって、ガンの総発生数、発生率、ラット1匹当たりの担ガン率に抑制効果がありました。

触診によって計測されうる腫瘍の個数は、飲料水中にIP6を含まず飼料中のふすまも投与されない、発ガン物質のみを投与された対照群のラットでは73個でした。

これに対して、IP6を投与されたグループのラットでは、触知しうる腫瘍の数は31個でした。

IP6を飲料水中に投与されたラットでは、統計学的に有意な57.2パーセントの腫瘍抑制効果が認められたということになります。

担ガンラット1匹当たりの腫瘍の数についても、純粋なIP6は強い抑制率を示しました。

IP6を飲料水に溶かして摂取したグループに比べて、発ガン物質のみ、あるいは発ガン物質+食物繊維のみを摂取したグループでは、ラット1匹当たり、明らかに多くのガンが生じていました。

DMBAを投与し、さらに純粋なIP6と飼料を摂取したグループのラットにもガンは生じていました(表3参照)。

しかし、このグループの大多数のラットは、わずか1〜2個のガンができていただけでした。

発ガン物質DMBAを投与され、ほかに何の処置も受けなかったグループでは、47パーセントのラットに3個以上のガンができていました。

一方、発ガン物質DMBAとともにふすまを投与されたグループでは、25〜42パーセントのラットに3個以上のガンができていました。

このことは、飲料水に溶かして投与した純粋なIP6のみが、ラット1匹当たりのガンの発生数を減らす効果を有するということを意味します。

発ガン物質DMBAを投与されず、ふすまもIP6も投与されなかった対照群のラットでは、4匹に触知しうる腫瘍が認められ、病理組織学的に非ガン性良性腫瘍(繊維腺腫)であることが確認されました。

このような自然発生腫瘍は、高繊維質の飼料を投与された10匹中2匹のラットにも認められましたが、IP6を飲料水に溶かして投与されたグループのラットには1匹も認められませんでした。

私たちが以前に行った実験でも示されていましたが、このことはIP6がラットの自然発生乳ガンをも予防したということを意味します。

表3に示したように、発ガン物質DMBAのみを投与されたグループに比べ、DMBAに0.4パーセントのIP6を飲料水に溶かして投与されたグループのラットだけに、統計学的に有意な腫瘍発生率抑制効果が認められました。

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1匹当たり3個以上の腫瘍が発生したラットの頭数の抑制効果も同様にIP6グループで有意でした。

ここで、純粋なIP6を飲料水に溶かして投与されたグループと、同量(0.4パーセント)のIP6を飼料中に含む20パーセントのふすまで飼育された場合には先に示したような有意な腫瘍抑制効果が見られなかったということを記憶にとどめてください。

IP6の単独投与がガン抑制にもっとも効果があった

これらの結果から、一つの結論が明らかになります。

すなわち、IP6は他の物質とは関連なく単独に摂取された場合にもっとも効果があります。

ガンの予防目的のために純粋なかたちでIP6を摂取すればいいということは、莫大な量の食物繊維を腹いっぱい食べるのに比べて、より賢明な方法です。

このことは、ワシントンポスト紙(1998年3月14日付)の記事(それ以前に、医学専門雑誌「Carcinogenesis(カーシノジェネシス)」に掲載された私の研究に関する報告記事)に述べられている内容そのものです。

ワシントンポスト紙の記者、ラリー・トンプソン女史は、こう述べています。

「アメリカ国民は、いずれガンを予防するために食物繊維を腹いっぱい食べなくてもよくなるでしょう」ふすまよりも純粋なIP6を摂取することのほうがなぜ賢明なのでしょうか?

その答えは簡単です。

食物繊維やふすまあるいは穀物のなかでは、IP6はタンパクと結合しているからです。

IP6が腸管から吸収されて血流に乗り、体のさまざまな器官、病気やガンが起こっている場所、これらの病変が起こるかもしれない場所に運ばれていくためには、IP6はまずタンパクとの結合から解き放たれなければなりません。

フィチン酸分解酵素と呼ばれる酵素が食べ物や腸管内に存在しています。

この酵素は、IP6を分解し、これに結合したリン酸基をはずします。

その結果、IP6のガンに対する抑制効果が失われます。

IP6が食物繊維から消化されて分離されるのに時間がかかればかかるほど、そのあいだに何回もこの酵素が利用され、IP6が分解されることになります。

したがって、高繊維質の食物が多量のIP6を含んでいるとしても、食物繊維で摂取する限り、IP6の効果をフルに活用することはできないのです。

これに対して、純粋なIP6は、フィチン酸分解酵素がこれを壊す前に腸管から吸収されてしまうので、その効果をもっと多く期待できるのです。

IP6の考えられる副作用に関して、私たちは実験に用いたすべての動物の体重をチェックしました(もちろん、投与した飼料のカロリーは、みな等しくなるように配慮しました)。

その結果、体重はどの実験グループでも同様で、飼料中にふすまを混ぜたり、飲料水中にIP6を混入しても、影響はありませんでした。

食物繊維やIP6を長期にわたって投与すると、必須微量元素の欠乏を起こすかもしれないという危惧があり、この問題に対する関心があったので、私たちは被検動物の血中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄(イオン)のレベルを測定しました。

その結果、これら微量元素の血中レベルは、飼料に食物繊維を混入して投与したり、飲料水にIP6を溶かして投与しても、統計学的に有意差はないということがわかりました。

私たちと同様の研究を、乳ガンについて名古屋市立大学の広瀬教授とその共同研究者が1994年に行っていました。

この研究にもラットが用いられ、発ガン物質DMBAを投与し、IP6投与グループと、IP6を投与しないグループを比較しています。

この研究では、IP6は飼料に混ぜて投与していますが、それでもやはり腫瘍の発生率、ラット1匹当たりの腫瘍数は少なく、被検ラットの生存期間はIP6投与群で長くなっています。

IP6を豊富に含ませた飼料で飼育したラットは、長生きし、副作用は実際ありませんでした。

IP6を飼料に補って投与するという方法は、有効であることが示されたのです。

*天然抗ガン物質IP6の驚異(アブルカラム・M・シャムディン著)より出典

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