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PSVTを超シンプルに解説

 PSVT(発作性上室頻拍)、苦手な人多いですよね。ナローQRSを呈する頻拍であり、若年であったり、なんの持病もない人でも起きうる病気です。結構脈が上がることも多く、問題で見ると心電図とにらめっこする余裕もありますが、実臨床では結構焦ることもあると思います。患者が苦しそうであったり、血圧が下がったりしていると心電図にらめっこしている場合ではありません。適切な検査をしつつ、治療に早急に移らなければなりません。そうこうしているうちに何とか脈が落ち着いてきて循環器にお願いして、後で復習しようと思いつつ一晩寝たらそんなことはすっかり忘れていたというあなた。あー前にもあったから勉強しといたらよかったー、というあなた。勉強するなら今日、今からですよ。まずは超、ちょー、シンプルなこの記事を読んで頭を柔らかくして整理しましょう。どうしてもこの領域は電気生理学的な知識が必要となり、踏み込みすぎると訳が分からなくなって途端についていけなくなります。まずはここまで理解しましょう。ではどうぞ。

問1 65歳、男性。主訴: 軽度息切れ。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動(通常型)

  3. 心房粗動(非通常型)

  4. 心房頻拍

  5. 上室頻拍




解答 心房細動

 心拍は140bpm前後でリズムはイレギュラーです。はっきりしたP波は見られません。これは細動波ですね、RR不整で、細動波を認めるものといえば心房細動以外にはありません。絶対性不整脈とも言われ、実臨床で比較的目にすることが多い頻脈の一つでしょう。細動波は心房の興奮が300bpmより短いレートで興奮し、マイクロリエントリーを形成してしまうために心房がバラバラに興奮している状態です。心房は有効な拍出ができておらず、震えている状態です。幸い心房だけの細動なので、全体の心拍出量の2割程度が減るだけで循環動態自体は保たれています。余談ですが体循環を維持する心室が細動になると、心室細動となり血行動態が破綻し、命に関わります。
上記の通り、基本的にマイクロリエントリーなので規則性はないのが心房細動です。しかし時にオーガナイズされ、一定の回路を一時的に旋回すると一瞬心房粗動のように見えることもあります。実際心房粗細動といって、併発することも多々あります。心房細動や心房粗動を見たら、お互いが隠れていないか確認するようにしましょう。


問2 45歳、男性。主訴: 動悸。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動(通常型)

  3. 心房粗動(非通常型)

  4. 心房頻拍

  5. 上室頻拍




解答 心房粗動(通常型)

 

心拍数自体は頻脈にはなっていませんが、リズムはイレギュラーです。P波、というよりぴょこぴょことRRの間に何か波のようなものを認めます。先ほどの細動波とは少し違っていて、一定の周期があり、はっきりした立ち上がりが確認できます。これを鋸歯状波といいます。鋸歯状波は心房粗動に特徴的な波形で、ノコギリの刃の様であることからこの名がついたと考えられています。なぜ鋸歯状波になるかというと心房粗動はマクロリエントリーによる頻拍のため、常に心房のどこかが興奮し、基線に戻ることがないのです。これが巣状興奮をする普通の心房頻拍との大きな違いです。巣状の興奮であればどこかから興奮が始まってざざーっと広がった後に、次の興奮までは休憩する時間があるので、基線に戻ります。
鋸歯状波はそのレートが250-300bpm程度といわれています。またその極性も重要でとがっている方で陽性か陰性かを判断します。
 心房粗動の本質は房室弁の周囲を異常電気信号が旋回することで起きます。房室弁には右房-右室間に三尖弁、左房-左室間に僧帽弁輪があるのでそのどちらかを(心室側から見て)時計回転か反時計回転するかによって波形が変わります。いわゆる通常型心房粗動の波形は三尖弁輪を反時計回転する波形であり、極性はⅡ、Ⅲ、aVfで陰性、V1で陽性、V6で陰性です。三尖弁輪を時計回転するものをreverse common型といい、極性も逆でⅡ、Ⅲ、aVfで陽性、V1で飲性、V6で陽性とまずは覚えましょう。それ以外の僧帽弁を回るタイプには一定の波形はないため、どちらにも当てはまらない極性の鋸歯状波は非通常型心房粗動としてまとめます。



(余談)
通常型を「三尖弁輪反時計回転のみ」にするか「回転によらず三尖弁輪を旋回するもの」とするかに規定はありませんが、私の意見としては「三尖弁輪反時計回転のみ」を通常型としています。Reverse common型が必ずしも極性が逆とは限らないからです。
決まりはありませんが、特殊な処置後の心房粗動様の波形は心房頻拍とすることがあります。そもそも心房粗動といわれると弁輪を旋回するような不整脈をイメージしてしまいます。最近は心臓手術やアブレーションの技術が発展し、切開線ややけどのせいで本来あり得ないような回路を旋回することもあります。そのような場合、不整脈医としては治療の準備やリスクが異なるので、(巣状興奮であれリエントリー性であれ)術後の心房頻拍とまとめてくれた方が理解しやすいです。


問3 42歳、女性。主訴: 動悸。最も疑われる診断を一つ選べ。


  1. 心房細動

  2. 心房粗動

  3. 心室頻拍

  4. 房室結節リエントリー頻拍

  5. 房室回帰頻拍




解答 房室結節リエントリー頻拍
 

 心拍数は150bpm、リズムはレギュラーなナローQRS頻拍です。P波は、、、目を凝らしてもないですかね。特にPSVTを疑ってのⅡ、V1でのST-T部分に注目してみましょう。

 

ちょっとP波のありかはわからないですね。わからないというのも大事な所見です。42歳の中年女性ですね。これは房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の心電図です。細動波や鋸歯状波ではないので心房細動や心房粗動波除外されます。ナローQRSなので心室頻拍でもないです。房室回帰頻拍(AVRT)とのポイントはいくつかあるのでまとめましょう。
 

教科書的にはこのような所見を手繰り寄せて判断します。

 

赤がAVRTのシェーマ、青がAVNRTのシェーマです。AVNRTは言葉の通り、房室結節を異常電気信号が回ることで起きます。房室結節は遅く通れる伝導路と早く通れる伝導路があり、遅伝導路を上から下(順伝導↓)、速伝導路を下から上(逆伝導↑)に伝導することで頻拍になります。こうしてみると回路が小さく、頻拍レートが早くなりそうですが、遅伝導路を順伝導するには時間がかかるため、電気的な頻拍にかかる時間が長くなり、頻拍レートとしては150bpm前後になります。
 

 また、頻拍中に遅伝導路を順行し(青矢印)、心室興奮するまでの時間(黄色矢印)と速伝導路を逆行し心房興奮するまでの時間(緑矢印)において黄色と緑の時間がほぼ同じくらいであるためにAVNRTではP波が見えないか、あってもQRSの終わりにわずかに見える程度になります。これがⅡ誘導でのpseudo s’やV1でのpseudo r’と呼ばれるものです。
そしてこれは房室結節という刺激伝導系で起きるために逆行P波は小さくて幅の狭いものになります。ただし、これはほぼ判定不可能です。房室回帰頻拍に関しては後述します。


問4 79歳、男性。症状なし。COPD,高血圧にて近位かかりつけ。最も疑われる診断を一つ選べ。
 

  1. 心房細動

  2. 心房粗動

  3. 房室結節リエントリー頻拍

  4. 房室回帰頻拍

  5. 洞調律

 頭が頻拍脳になっていますよね。深読みしすぎて思考が頭の中を旋回していませんか。臨床でだろうと検定だろうと、心電図を見てぱっと頭を切り替えて鑑別を上げていかないと混乱します。切り替えるコツとしてはまず見るべきものを見ていくことが重要です。


1:年齢、性別、主訴を確認
2:❶、❷:リズム、心拍数を確認、頻拍や徐脈はないか
3:❸、❹:洞性Pか、軸偏位はないか、移行帯は正常化、ST-T変化はないか、QT延長/短縮ないか
見落としなく見てもらえれば特に決まりはありませんが、私の視線はこのように順番に動いています。最後に頭の中も言語化しました。参考にしてください。
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1:79歳、男性、COPD⇒年齢高めだなあ、COPD関係あるのかなあ
2:心拍数は100前後でレギュラーだなあ、ワイドQRSというほどではないけど少し伝導障害があるのかなあ、
3:左房負荷の基準まではギリギリ満たさない、移行帯はV4-5だなあ、下壁誘導のP波はちょっととがっている感じがあるな、2.5mmまではいかないがCOPDによる肺性Pの要素はあるかもしれない。ちょっと頻脈気味なのも肺気腫のせいかもしれないなあ、P波の極性は正常だから洞性Pだろうなあ、陰性T波はあるけど異常Q波ないし、虚血性の変化ではなさそうだなあ
選択肢としてはしかないなあ。
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最後は頭をリセットする意味もこめてこの問題にしました。選択肢が簡単なので、設問としては難しくはないと思いますが、ちらっと出てきた左房負荷や右房負荷に関しても基準があるので、知らない方は調べてみてくださいね。

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Dr. 藤澤
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