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P波をこれでもかってくらい極める

問1 67歳男性。糖尿病にて定期受診中の心電図。

正しい病名を一つ選べ。

  1. 洞調律

  2. 異所性心房調律

  3. 接合部調律

  4. 心室調律

  5. 心室補充調律








~解答解説~

正解:1

P波の極性に注目です。洞結節は右房の上外側にありますので、心房興奮伝播は右上から左下に流れます。よってP波はⅠ誘導陽性、Ⅱ誘導陽性の緑の部分になります。Ⅰ誘導のベクトルは右から左に陽性なので青の部分、Ⅱ誘導のベクトルは右上から左下に陽性なので黄色の部分です。これが重なるところがの領域となるわけです。さらに右房から興奮し、心房中隔に沿って心房が興奮するため、V1ではプラスマイナスの極性になります。

 これらを抑えておけば十分ですが、後のポイントとして、aVfはまっすぐ下向きに陽性のため洞調律では基本陽性、aVrは逆向きなので基本陰性、V3-6から見ると向かってくる興奮のため陽性となります。基本的な流れがわかっていれば細かく覚えなくても当然といえば当然です ね。ただし、P波は極性が見にくいので、近辺の右房上部からの起源であったり、右上肺静脈周囲の中隔が起源であったりするとほぼ洞調律と同じ波形になるため、判別は困難です。また、心臓の向きによって多少高さが変わったり、洞結節自体にも幅があるといわれているので、心拍数によって形が変わったりします。基本はこの極性で合っていますが、極端な話、心臓がすごく寝ていて、洞結節が下の方にあるとaVfで陰性になったりする可能性はあります。このあたりは総合的に判断するしかないでしょう。ただし、一番極性に一致するⅡ誘導が陰転化している場合は明らかに洞調律ではないと考えます。普段何気なく、心電図を異常なしと診断していますが、意外と洞調律というものをきちんと定義すると難しいですね。あなたが昨日読んだ心電図、本当に洞調律でしたか。

問2 70歳、女性。脂質異常症にて定期通院中の心電図。

正しい病名を一つ選べ。

  1. 洞調律

  2. 異所性心房調律

  3. 接合部調律

  4. 心室調律

  5. 心室補充調律








~解答解説~

正解:1

 どうでしょうか。正しく解答できましたか。洞調律の心電図に見える、、でも問題にするからにはまさか違うのか、、と疑心暗鬼になっていませんか。そんな時にきちんとロジックを持っておくと自分の診断を助けてくれます。これはⅠ、Ⅱ誘導で陽性であり、aVfも陽性、aVr陰性、V3-6でも陽性であり洞調律と言って差し支えないと考えます。これはちゃんとしたP波があるので接合部調律ではありませんし、ワイドQRSになっているわけでもないので心室が調律していることもありません。ちなみにP波の極性はあくまで心房の興奮であり、洞結節の興奮ではありません。しかし、洞結節の興奮は捉えることができないので、P波で代用しているのです。


問3 65歳、女性。健診の心電図。

正しい病名を一つ選べ。

  1. 洞調律

  2. 異所性心房調律

  3. 接合部調律

  4. 心室調律

  5. 心室補充調律








~解答解説~

正解:2

 そろそろ洞調律以外が欲しいところですよね。これはどうでしょうか。明らかにⅡ誘導で陰性のP波であることが確認できます。QRS波やT波には異常がないので、単純に心房調律個所は洞調律ではないのでしょう(QRS-T波ごとひっくり返っていれば付け間違えを考えなければなりません)。Ⅰ誘導も陰性、aVrも陽性、V1は洞調律でもプラスマイナスがわかりにくいこともありますが、強陽性となっているので洞調律というにはさすがに違和感があります。V5-6で陰性P波なのも変ですね。さすがにここまで所見が異なっていれば、洞調律とは明らかに異なります。P-QRSの連続性はあるため、異所性に心房から調律されている状態です。


問4 65歳、女性。健診の心電図。

調律個所の起源として最も疑わしいものを一つ選べ。

  1. 洞結節

  2. 右心耳

  3. 左下肺静脈

  4. 右下肺静脈

  5. 冠静脈洞入口部








~解答解説~

正解:3

 実は先ほどと同じ波形です。心電図検定も1級レベルになってくるとここまで問われます。そんなの考えたこともなかったという人は一緒に解いてみましょう。これは先ほども出た図です。これがすべてと言っても過言ではありません。2023年12月の心電図検定でも起源問題として左心耳が選択肢に登場に波紋を呼びました。そもそも左心耳が何でどこにあるのか知らなければ解けません。

 P波がどこから出ているかはP波の極性を見て判断していきます。まずⅡ、Ⅲ、aVfを判断するのがわかりやすいです。Ⅱ、Ⅲ、aVfは陰性なので心房の下の方から出ていることがわかります。なぜならⅡ、Ⅲ、aVfは下向きに陽性となる誘導だからです。さらにV1を確認します。V1は体の正面から見る誘導で奥から手前に向かってくる方向に陽性となります。左右心房前後の関係になっており、前に右房、後ろに左房があります。ここではがっつり陽性となっているため、おそらくは左房に起源が疑われます。最後にⅠ、aVlを確認します。これらは右から左に陽性となります。aVlは判定が難しいですが、Ⅰは少なくとも陰性です。つまり、左側に起源を疑います。まとめるとこの調律は左房の左下の方=左下肺静脈を起源として疑います。



問7 68歳、女性。先天性心疾患にて小児科受診中の心電図。

間違っている所見を一つ選べ。

  1. 右房負荷

  2. 右軸偏位

  3. 右脚ブロック

  4. 洞調律

  5. 右胸心






~解答解説~

正解:5

 まずはいつも通りP波から見ていきましょう。P波はⅠ誘導で陽性、Ⅱ誘導でも陽性であり、洞調律で問題なさそうです。Ⅰ誘導のQRSは陰性成分が大きく、右軸偏位を来しています。V1でrsR’、V6でS波のスラーがあることから右脚ブロックになっています。右胸心であれば左右逆なため、Ⅰ誘導でP,QRS波ごと全部逆になり、V6に行くにつれて心尖部が離れるのでR波が低くなっていくというのが通常です。本症例ではⅠ誘導は反対にはなっておらず、右胸心は疑いません。

 

正常なP波はⅡ誘導で高さ2.5mm以内、幅0.12msec以内の陽性P波であることが基準です。右心系に負荷がかかると、右房負荷がかかり、右房が拡大します。するとⅡ誘導のP波が2.5mm以上高くなります。これを肺性P波といいます。さらにV1においてはP波の前半成分が尖鋭化します(右心性P波)。右房は主に上下に拡大するため、このような変化をきたします。多少の伝導障害を来すこともありますが、後半は左房成分と重なるため、P波として伝導遅延を起こすことはありません

 左心系に異常があり左房負荷がかかると左房拡大をきたします。左房は横長であるため、拡大すると横に長くなります。結果左房成分であるP波の後半部分の伝導が遅延し、Ⅱ誘導で120ミリ秒以上の遅延を認め、2峰性のP波となります。さらにV1においてはP波の後半部分である左房成分が、離れていく陰性成分のため、これが深い陰性P波を認めます。これをP terminal forceの増大といいます。モーリスインデックスで計算され、V1P波の陰性部分の、幅(秒)×深さ(mm)が0.04以上あれば左房負荷ととります。

 本症例はEbstein奇形の心電図です。右房に負荷がかかる疾患であり、Ⅱ、Ⅲ、aVfで2.5mm以上のP波高の上昇があれば右房負荷と診断します。三尖弁が右室に落ち込むことによって右室が機能しなくなり(右房化右室)、三尖弁閉鎖不全症やタイプBのWPW症候群を合併することもあります。重症例では下壁誘導で5mm以上の著明な右房負荷を示唆するP波を認めることがあります。これをヒマラヤンP波と言います。



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Dr. 藤澤
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