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植込み型心臓電気デバイス完全攻略

内容


本書への想いと内容の説明

 心電図に関する発信していると、ペースメーカの心電図が苦手、そもそもペースメーカの正常波形がわからない、という声がたくさん届きました。おそらくデバイスに関わる不整脈医や臨床工学技士じゃなければ、深くペースメーカに精通している人はそれほど多くはないと思います。本書ではそんなペースメーカの基礎中の基礎から、わかりやすく問題を解きながら学習できるように工夫しました。それだけではなく専門医とマイスター資格のある私だからこそ語れる、植え込み型心臓電気デバイスの深淵をお見せ致します。「ペーシングが入っているからペースメーカ」だけじゃないんです。原疾患、植え込み機種、適切な設定、術者が決めるべきことは極めてたくさんあるのです。心電図を見るだけでここまでわかるんだという驚きをぜひ感じてほしいです。

  • こんな本が欲しかった!ペースメーカ心電図苦手という声に答えて作成

  • ペースメーカに関する厳選した心電図10問(検定に準じた5択)

  • マイスターによるシンプル読影テクニック満載

  • 全ての問題に基礎からわかる詳細解説付き(1万6千文字越え)

  • もはや心電図本ではなく、初学者向けペースメーカの教科書

  • 問題を解きながら楽しく理解できる

  • プログラマー波形問題あり&詳細解説

問1 75歳女性。高血圧などの多数の既往にて近医循環器科かかりつけ。定期受診時の心電図。

正しい所見を一つ選べ。

  1. 洞調律

  2. 心室ペーシング

  3. 完全左脚ブロック

  4. 異所性心房調律

  5. 心室調律

 







正解:2

ワイドQRSの調律になっています。脚ブロックに飛びつきそうになりますが、よく見るとP波の直前にもQRS波の直前にも小さなスパイクを認めます。これは心房も心室もペーシングをしている証拠であり、P波の前にあれば心房を、QRS波の前にあれば心室をペーシングしている証拠になります。

~植え込み型心臓電気デバイスとは~

 植え込み型心臓電気デバイスとは、体に植え込んで不整脈の治療を行う機械のことです。代表的なもので言うと、恒久的ペースメーカや植え込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法(CRT)などがあります。さらに近年では、リードを血管の中にいれず皮下に植え込むタイプの除細動器(S-ICD)や、心室に機械そのものを留置してリードが存在しないリードレスペースメーカなんてものも存在します。ペースメーカは脈を担保するためのデバイスであり、主に徐脈性不整脈に対して植え込まれます。ICDは致死性不整脈の患者に対して突然死予防目的に植え込まれます。ペースメーカに除細動機能が付いたものとお考え下さい。CRTは心不全や心機能低下に対して右室と左室から同時にペーシングをすることで、心臓を効率的に収縮させることを目的としたデバイスです。ペースメーカやICDとの大きな違いは冠静脈洞に対してリードが1本追加され、左室を後ろ側からペーシングすることが可能となっている点です。これによって右室と左室を同時にペーシングすることで収縮を同期させ、効率よく心臓を動かす手助けをします。除細動機能があるものをCRT-D、除細動機能がないものをCRT-Pと言います。

 これらのデバイスが入っていてペーシングが入っている場合、スパイクという小さい突起がついています。スパイクの後にP波が出ていれば、心房ペーシング、QRS波が出ていれば心室ペーシングとなります。これらの波形がついてこなければペーシングができていないということになります。

~ペースメーカの作動様式~


 ペースメーカの作動様式はアルファベット3文字あるいは4文字で表記されます。
1文字目はペーシング部位で心房か心室かその両方かです。
2文字目はセンシング部位で心房か心室かその両方かです。
3文字目はセンシングに対してどう作動するかでセンシングしたものに同期するか、抑制するか、両方かです。
4文字目はレートレスポンス機能が入っているかを見ます。Rが入っていればレートレスポンス機能はオンになっています。機能については後述します。
 ペースメーカにはリード1本だけ入ったシングルチャンバと2本入ったデュアルチャンバがあります。シングルなら心房心室、デュアルなら両方に入っていることになります。そしてその部屋で機械から刺激を与えて興奮させる場合をペーシング、自己の興奮があるならばそれを検知することをセンシングといいます。基本的にペーシングとセンシングはセットになっていて、シングルチャンバのペースメーカであれば代表的なものはAAIVVIとなります。リードが入っている部屋のペーシング、センシングのみを行い、そこの自己脈を検出すれば刺激を抑制する(I)というモードになります。



 一方デュアルチャンバペースメーカの場合、主にDDDが用いられます。こちらでも当然その部屋の自己脈が検知されればペーシングは抑制されますが、心房をセンシングした際に心室の刺激を同期(T)させることもできますので、3文字目はDとなることが普通です。要するに何でもありです。心房も心室も自己脈をセンシングしたら抑制し、出なければペーシングします。

~特殊なパターンの設定~

 さらに特殊なケースとしてVDD、AOO、VOOがあります。VDDは心室にリードが一本だけ入っているのですが、途中に心房をセンシングのみできる特殊なリードが使われています。つまりリード一本で心房をセンシングして、心室を同期してペーシングさせることができます。リードが一本で済むという反面、心房に関してはセンシングしかできないという中途半端さがあり、昨今あまり使われません。
 AOO、VOOは心房あるいは心室を強制的にペーシングさせるモードです。手術や検査でノイズが入る可能性がある時に使われます。抑制モード(I)が入っていると、ノイズを誤センシングしてしまった場合、ペーシングが入らないことになってしまいます。これを入れておくとノイズがあったとしても、それを無視して強制的にペーシングが持続します。注意が必要なのは特に心室に自己脈がある場合です。自己脈のT波にペーシング乗っかってしまった時にR on Tとなって心室細動を起こす可能性があります。

~数字の意味するもの~

作動様式のアルファベットは理解できましたね。次は数字について説明します。VVI60とかDDD60/130とかの数値付きの表記を見たことはありますよね。これは基本的に下限レートが書かれています。VVI60ならVVI作動で、少なくとも60bpmは切らないように作動します。DDDに関しては心房レートに同期することができるため、上限の設定も付いています。つまり、DDD60/130であれば下限は60bpmになり、心室同期の上限レートは130bpmになります。下限は心房であれ、心室であれ60bpmとなります。上限に関してですが心房ペーシングレートは上がりません。あくまで自己の心房波があったときに、心室波がそれに追従して130bpmまではペーシングします。

~ペーシングの閾値~

 ペーシングをするためにはどれくらいの出力でペーシングするかということを決めなければなりません。どれだけの出力ならば心筋を補足して有効なペーシングができるのかを定めたものをペーシング閾値、出力の閾値などと言い、ボルト(V)で表記されます。当然出力は小さくて済めば電池の消耗が抑えられますので、植え込むときになるべく低出力でペーシングできるところを探してリードを留置します。ただし、ギリギリの出力だと体動や心筋の障害によって容易にペーシングできなくなってしまうことがあり、大変危険です。なので、基本的にはペーシングできるぎりぎりの出力から2倍のマージンを取って設定します。元の出力が高くどうしても2倍マージンを取れない時は、自動閾値調整を入れて自動で出力を調整してくれるような機能を設定することもあります。


~センシングの閾値~

 センシングとは感度、波高値とも言われ、ペースメーカが自己脈をどれくらいきちんと認識できているかという数値(ミリボルト;mV)になります。自己脈をどれくらいはっきりと捉えられているかは、センシングの閾値を設定する上でとても重要です。当然ながら正しい自己脈はより高い波高値で捉えられているほど、閾値の設定はしやすくなります。基本的には自己脈の波高値の1/2で閾値を設定します。センシングの閾値の設定は壁や塀のイメージを持ってください。壁の設定が高すぎたり、自己脈の波高値が低すぎたりすると自己脈を機械が検出できず、ペーシングしてしまう可能性があります。不要なペーシングは電池の消耗だけでなく、不整脈を引き起こす原因になります。

 一方でセンシングの設定が低すぎると、ノイズや別の部屋の電位を感知してしまい、本来ペーシングをしなければいけないところでペーシングが入らなくなる可能性があります。これが続くと心停止になるため、低すぎるセンシング設定も危険です。

~センシングの経験談~

 個人的な意見ですが、研修医のころ感度のことを理解するのに非常に苦労しました。ペーシングもセンシングも閾値という言葉を使いますし、出力の閾値はなんとなくイメージできますが、感度の閾値というものがあまりピンときませんでした。壁のイメージが教わってからは見えるべきものを見て、見なくていいものは見ない高さを設定するということで理解できました。最後に言葉が混乱を生むので説明しておきます。感度を上げるということは壁の向こうを見やすくするということであり、センシングの閾値を下げるということです。感度を下げるということは壁の向こうを見にくくするということであり、センシングの閾値を上げるということです。非常にややこしいので繰り返し読んでみてください。

~ペースメーカ適応疾患について~

 ペースメーカの適応となる疾患は洞不全症候群徐脈性心房細動房室ブロックの3つです。病気に関しては他項に譲ります。それぞれに対してどのような設定でペースメーカを植え込めばいいか考えましょう。 

洞不全症候群は洞結節の異常であり、それ以下の刺激伝導系には異常はありません。心房ペーシングだけすれば自己脈が出るはずですので、適切な設定はAAIということになります。しかし、実臨床では後々の房室ブロックの合併が一定数あること、植え込み手技そのものに一定のリスクがあることからデュアルチャンバとして心室にもリードを入れることがよくあります。もし、心房リード1本しか入っていない人に房室ブロックが合併すると、心室をペーシングできないため結局命に関わってしまうことがあります。心室ペーシングは不要であれば使わないで構いませんし、近年は(各社モードの名前は異なりますが)AAIとDDDが自動で切り替わるという非常に便利なモードがあるため、これにしておくと安心です。このモードを設定しておくと、房室伝導がある場合に普段はAAIとして作動しつつ、万が一に備えて心室もセンシ ングしています。そしてもし心室興奮を確認できなければ、自動でDDDに切り替わり心停止を防ぐことができます。

徐脈性心房細動は多くの場合、長期持続型の心房細動に房室伝導能の低下を合併することで起きます。心房細動に完全房室ブロックを合併することもあります。どちらにしても心房はすでに細動しており、ペーシングできませんし、センシングしても意味がありません。つまり、心房にリードを入れる必要はなく心室リードのみを挿入する、VVIが適切な設定ということになります。

房室ブロックは房室結節の伝導障害です。2度以上の高度房室ブロックが治療適応となります。心房と心室の伝導が遮断されているため、少なくとも心室リードは必要です。また、心房もセンシングすれば同期させることができ、より効率の良い収縮を得ることができるため、心房リードも挿入してのDDDが適切な設定となります。


問2 75歳女性。ペースメーカ植え込み後にて近医循環器科かかりつけ。定期受診時の心電図。

正しいペースメーカ設定を一つ選べ。

  1. AAI

  2. VVI

  3. VDI

  4. DDD

  5. VOO

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