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ナローQRS頻拍(心房細動、心房粗動、発作性上室頻拍)

問1 65歳、男性。主訴: 軽度息切れ。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動(通常型)

  3. 心房粗動(非通常型)

  4. 心房頻拍

  5. 上室頻拍




正解:1

 心拍は140bpm前後でリズムはイレギュラーです。はっきりしたP波は見られません。これは細動波ですね、RR不整で、細動波を認めるものといえば心房細動以外にはありません。絶対性不整脈とも言われ、実臨床で比較的目にすることが多い頻脈の一つでしょう。細動波は心房の興奮が300bpmより短いレートで興奮し、マイクロリエントリーを形成してしまうために心房がバラバラに興奮している状態です。心房は有効な拍出ができておらず、震えている状態です。幸い心房だけの細動なので、全体の心拍出量の2割程度が減るだけで循環動態自体は保たれています。余談ですが体循環を維持する心室が細動になると、心室細動となり血行動態が破綻し、命に関わります。
 上記の通り、基本的にマイクロリエントリーなので規則性はないのが心房細動です。しかし時にオーガナイズされ、一定の回路を一時的に旋回すると一瞬心房粗動のように見えることもあります。実際心房粗細動といって、併発することも多々あります。心房細動や心房粗動を見たら、お互いが隠れていないか確認するようにしましょう。

問2 74歳、男性。主訴: 動悸。既往:高血圧、糖尿病。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動(通常型)

  3. 心房粗動(非通常型)

  4. 心房粗動(reverse common)

  5. 心房頻拍





正解:3 

 心拍数自体は頻脈にはなっていませんが、リズムはイレギュラーです。P波、というよりぴょこぴょことRRの間に何か波のようなものを認めます。先ほどの細動波とは少し違っていて、一定の周期があり、はっきりした立ち上がりが確認できます。これを鋸歯状波といいます。鋸歯状波は心房粗動に特徴的な波形で、ノコギリの刃の様であることからこの名がついたと考えられています。なぜ鋸歯状波になるかというと心房粗動はマクロリエントリーによる頻拍のため、常に心房のどこかが興奮し、基線に戻ることがないのです。これが巣状興奮をする普通の心房頻拍との大きな違いです。巣状の興奮であればどこかから興奮が始まってざざーっと広がった後に、次の興奮までは休憩する時間があるので、基線に戻ります。
 鋸歯状波はそのレートが250-300bpm程度といわれています。またその極性も重要でとがっている方で陽性か陰性かを判断します。 
 心房粗動の本質は房室弁の周囲を異常電気信号が旋回することで起きます。房室弁には右房-右室間に三尖弁、左房-左室間に僧帽弁輪があるのでそのどちらかを(心室側から見て)時計回転か反時計回転するかによって波形が変わります。いわゆる通常型心房粗動の波形は三尖弁輪を反時計回転する波形であり、極性はⅡ、Ⅲ、aVfで陰性、V1で陽性、V6で陰性です。三尖弁輪を時計回転するものをreverse common型といい、極性も逆でⅡ、Ⅲ、aVfで陽性、V1で飲性、V6で陽性とまずは覚えましょう。それ以外の僧帽弁を回るタイプには一定の波形はないため、どちらにも当てはまらない極性の鋸歯状波は非通常型心房粗動としてまとめます。

(余談)
 通常型を「三尖弁輪反時計回転のみ」にするか「回転によらず三尖弁輪を旋回するもの」とするかに規定はありませんが、私の意見としては「三尖弁輪反時計回転のみ」を通常型としています。Reverse common型が必ずしも極性が逆とは限らないからです。
 決まりはありませんが、特殊な処置後の心房粗動様の波形は心房頻拍とすることがあります。そもそも心房粗動といわれると弁輪を旋回するような不整脈をイメージしてしまいます。最近は心臓手術やアブレーションの技術が発展し、切開線ややけどのせいで本来あり得ないような回路を旋回することもあります。そのような場合、不整脈医としては治療の準備やリスクが異なるので、(巣状興奮であれリエントリー性であれ)術後の心房頻拍とまとめてくれた方が理解しやすいです。


問3 45歳、男性。主訴: 動悸。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動(通常型)

  3. 心房粗動(非通常型)

  4. 心房頻拍

  5. 上室頻拍





正解:2

 RRがイレギュラーで基線が揺れているのは明らかですね。この基線の揺れには規則性があり、大体300bpmであることから心房粗動に間違いはなさそうです。極性の話は下の図を再確認しましょう。極性の見方はとがった方ですよ。ちなみに同じタイミングで見ても、パッチの角度によって極性がタイミングはバラバラなので、タイミングは気にしなくて構いません。極性だけを見てください。Ⅱ、Ⅲ、aVfは陰性、V1は陽性、V6は陰性⇒通常型心房粗動でよさそうです。このThe ノコギリ波形をよく覚えておいて下さい。これが超典型的な通常型です。
(余談)
 私が研修医で心電図が苦手だったころは心房細動や心房粗動は頻脈性不整脈と覚えていました。細動波でRR不整なら心房細動、鋸歯状波でRR整なら心房粗動で覚えていました。これは全然違いましたね。心房粗動でも上の心電図のように伝導周期が変わればRRは容易に変動しますし、伝導能が悪ければそもそも徐脈になったりもします。


問4 70歳、女性。主訴: 動悸。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動

  3. 心室頻拍

  4. 房室結節リエントリー頻拍

  5. 房室回帰頻拍





正解:4

 心拍数は150bpm、リズムはレギュラーなナローQRS頻拍です。P波は、、、目を凝らしてもないですかね。特にPSVTを疑ってのⅡ、V1でのST-T部分に注目してみましょう。ちょっとP波のありかはわからないですね。わからないというのも大事な所見です。70歳女性とやや高齢ですね。これは房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の心電図です。細動波や鋸歯状波ではないので心房細動や心房粗動波除外されます。ナローQRSなので心室頻拍でもないです。房室回帰頻拍(AVRT)とのポイントはいくつかあるのでまとめましょう。


教科書的にはこのような所見を手繰り寄せて判断します。


赤がAVRTのシェーマ、青がAVNRTのシェーマです。AVNRTは言葉の通り、房室結節を異常電気信号が回ることで起きます。房室結節は遅く通れる伝導路と早く通れる伝導路があり、遅伝導路を上から下(順伝導↓)、速伝導路を下から上(逆伝導↑)に伝導することで頻拍になります。こうしてみると回路が小さく、頻拍レートが早くなりそうですが、遅伝導路を順伝導するには時間がかかるため、電気的な頻拍にかかる時間が長くなり、頻拍レートとしては150bpm前後になります。
 

  また、頻拍中に遅伝導路を順行し(青矢印)、心室興奮するまでの時間(黄色矢印)と速伝導路を逆行し心房興奮するまでの時間(緑矢印)において黄色と緑の時間がほぼ同じくらいであるためにAVNRTではP波が見えないか、あってもQRSの終わりにわずかに見える程度になります。これがⅡ誘導でのpseudo s’やV1でのpseudo r’と呼ばれるものです。そしてこれは房室結節という刺激伝導系で起きるために逆行P波は小さくて幅の狭いものになります。ただし、これはほぼ判定不可能です。

 
問5 80歳、女性

。主訴: 息切れ。基礎心疾患なし。最も疑われる診断を一つ選べ。


  1. 心房頻拍(巣状興奮)

  2. 心房粗動(三尖弁輪を反時計回転)

  3. 心房粗動(三尖弁輪を時計回転)

  4. 心房粗動(僧帽弁輪を回転)

  5. 心房細動





正解:3

 RRは頻拍とは呼べないくらいで、リズムはレギュラーです。P波は見えず、基線の揺れを認めます。心房レートは300bpm程度であり、鋸歯状波ですね。では極性を確認です。
 V1は陰性、V6は陽性です。Ⅱ、Ⅲ、aVfはどちらがとがっているかちょっとわかりにくいですかね。ここは陽性としてreverse common型ととりました。通常型と比して極性が逆とは言いましたが、形が真逆にはなってないのがわかりますか。問3と比較してみてください。問3のⅡ、Ⅲ、aVfで明らかに下向きの鋸歯状波が通常型です。それに比べるとわかりにくくて、型になっています。わかりにくいということそのものが、通常型とはちょっと違うことを暗示しているともいえるかもしれません。この違いが分かるようになればもう心房粗動に惑わされることはきっとありません。

 


問6 30歳、男性。主訴: 動悸。最も疑われる診断を一つ選べ。

  1. 心房細動

  2. 心房粗動

  3. 心房頻拍

  4. 房室結節リエントリー頻拍

  5. 房室回帰頻拍






正解:5

 ナローQRSレギュラー頻拍です。PQ部分は平坦なので心房細動/粗動はなさそうです。比較的若いですね。ここにP波らしきものが見えますのでshortRP’頻拍といえます(矢印)。ちなみにこのQRSの後ろのP’波が次のQRSに近づくくらい遅れていたらlongRP’頻拍といいます。

 問4でも提示した図で再確認しましょう。

 本症例は房室回帰頻拍(AVRT)をまずは疑います。当てはまるのは若年であることとST部分にP‘波が見えることです。頻拍レートは150bpm程度とそれほど早くはありません。洞調律時の波形は提示しませんでしたが、本症例ではデルタ波はありませんでした。ケント束に順行性伝導はなく、逆行性伝導のみ存在するパターンであると考えます。心電図検定においては洞調律時にデルタ波を認める波形を出してくれていれば、出題者の意図を組んで房室回帰頻拍と判断していいと思います。もちろん、デルタ波はあれども房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)という可能性もありますがそれを言い出すときりがありません。極論、12誘導心電図のみでAVRTとAVNRTを100%判断するのは不可能です。
 ちょっと姑息的ではありますが、出題者の意図を理解するのも重要で

す。ケント束は多くの場合、刺激伝導系から離れたところにあるので、逆行性の心房興奮も刺激伝導系ではない心房筋から興奮するため、興奮伝播が遅く少しはっきりした幅広なP波を呈するといわれています。ただし、ST部分にかかるので波形の判定を肉眼で行うのはほぼ無理でしょう。


 AVRTにおいてPSVTとして鑑別が必要なのはこの図のように房室結節を行し、ケント束を行するオルソドロミックAVRTです(ちなみにケント束を行し、房室結節を行する場合をアンチドロミックAVRTといい、ワイドQRS頻拍になるため、心室頻拍との鑑別が必要になります)。オルソドロミックAVRTにおいては房室結節→心室興奮→ケント束→心房興奮を順番に興奮するため、先ほどのAVNRTと異なり、逆伝導したP波はQRSから少し離れたところに見えます。これがAVRTにおいてST部分にP波が見える理由です。
 


問7 71歳、女性。主訴: 動悸。最も疑われる診断を一つ選べ。

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