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リンゴは口から食べるものだ

≪上に座ったら≫

救急外来はいろんな事が起こる。。延命措置は絶対しないと言っていた90代のおじいさんが、動転した家族が救急車を呼んだばかりに、気管挿管され心臓マッサージを受けている。漫画喫茶を転々としていた若者が倒れて搬送されたが、胸部写真では結核が疑われ大慌てとなる等々。
ある夜、肛門にリンゴが入った若い男性が来院した。取ろうと苦労した末のことだろう。結構あることだが、リンゴが入るとは驚いた。一応「なぜ」と聞かなければならない。「たまたまリンゴの上に座ったら…」。考えた末のことだから、それ以上聞いても無駄なことが多い。病名は「直腸異物」となる。清涼飲料水の瓶、ろうそく、テニスボール、…なんでもありだ。どんなことになり、どんな処置をしたかの論文だったたくさんある。穿孔し手術になることもあるのだから侮ってはいけない。
直腸異物の患者さんは、ほとんど「たまたま、上に座ったら」という。苦痛のなか出した最善の答えがこれかと思うと、少しいじらしくもある。「どれだけ入るか試した」というのもある。リンゴだったら「消化できなかった」もありか。

≪心電図って効くわねぇ≫

入院中の80歳くらいのおばあさんが胸痛を訴えた。いつも身ぎれいにしていて、「…ですわね」「そうでございますか」という言葉使いをする人であった。
狭心症を疑い、「心電図をとりますよ」と言って、急いで心電図を取った。電極を付けているうちに狭心痛は収まってきたらしい。「あら、よくなってきたわ。心電図ってよく効くのね」
この美しい誤解を解くのが惜しくなったので「はい、最新式です。また痛くなったらすぐ呼んで下さい」と説明した。24時間の心電図モニターが必要となったが、胸痛予防装置と思っていただろうか。まあ、そんなもんだ。

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