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◎「自由への賛歌」(ヒム・トゥ・フリーダム)~58年前の作品が2020年に有効なメッセージを放つ


(本作・本文は約2600字。「黙読」ゆっくり1分500字、「速読」1分1000字換算すると、5分から3分。いわゆる「音読」(アナウンサー1分300字)だと9分くらいの至福のひと時です。ただしリンク記事を読んだり、音源などを聴きますと、もう少しさらに長いお時間楽しめます。お楽しみください)

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◎「自由への賛歌」(ヒム・トゥ・フリーダム)~58年前の作品が2020年に有効なメッセージを放つ

【Hymn To Freedom】

ヒム。

日曜日(2020年6月21日)のブルーノート東京での小曽根真さんライヴのダブルアンコールで彼がプレイした「ヒム・トゥ・フリーダム(自由への賛歌)」。これは現在の「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大事だ)」のムーヴメント(動き)の中でどんぴしゃの曲でもある。

この曲についてもう少し掘り下げてみよう。

「ヒム・トゥ・フリーダム(自由への賛歌)」は、カナダ・モントリオールに1925年に生まれたジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソンが1962年末、盛り上がりを見せるアメリカの公民権運動に精力的に動いていたマーティン・ルーサー・キング・ジュニアに触発され書き下ろした作品。1963年にリリースされたオスカーのアルバム『ナイト・トレイン』のB面最後に収録された。

1962年は、アメリカでは1961年1月にジョン・F・ケネディーが大統領になって、公民権運動をサポートする政策を打ち出していた時期。特に人種差別撤廃をさらに強固なものにしたり、黒人に参政権や基本的人権などを与えようと言う動きを見せたが、それに反発する旧保守層、白人至上主義者らと衝突もするようになっていた。オスカーはカナダ在住のブラックなので、アメリカほどひどい人種差別は受けてこなかったが、アメリカ・ツアーをするとき、例えば、南部をツアーするときなどはいやおうなくそうした差別を受けた。

そうした人種差別反対をサポートする意味でオスカーは1962年末、この「ヒム・トゥ・フリーダム」(自由への賛歌)を書き下ろした。

ブログ オスカーピーターソン4  ヒム・楽譜

そして、1963年11月22日、衝撃のケネディー大統領暗殺が起こる。その後、1964年に公民権法が成立する。

オスカーの録音ヴァージョン


https://www.youtube.com/watch?v=Uy25C_s288g

このインスト・ヴァージョンを聴いたオスカー所属のヴァーヴ・レコーズのプロデューサー、ノーマン・グランツが気に入り、歌詞をつけるアイデアを出し編曲家のマルコム・ドッズに相談したところ、ゴスペルの歌詞などを書いていたハリエット・ハモンドを紹介され、ハリエットが歌詞をつけた。以後はインストゥルメンタルとしても、またヴァ―カル曲としても知られるようになる。

こちらはライヴ盤。
Oscar Peterson – Hymn To Freedom


https://www.youtube.com/watch?v=tCrrZ1NnCuM
Live in Denmark,1964.
Oscar Peterson on Piano
Ray Brown on Bass
Ed Thigpen on Drums

そしてこの曲はカナダにおけるブラック・ヒストリー(黒人の歴史)を代表する曲になっていく。アメリカでは「リフト・エヴリ・ヴォイス・アンド・シング」がアメリカ黒人のナショナル・アンセムとなっているが、カナダ黒人のナショナル・アンセムとして、この「ヒム・トゥ・フリーダム」が使われるようになっている。

そして、オスカーの友人でもあったピアニスト、オリヴァー・ジョーンズはこの曲を過去2ディケード(20年)ほど自身のテーマ曲にしている、という。

歌詞はこうだ。

Hymn To Freedom
Music by Oscar Peterson
Lyrics by Harriett Hammond

When every heart joins every heart and together yearns for liberty,
That's when we'll be free.
When every hand joins every hand and together moulds our destiny,
That's when we'll be free.
Any hour any day, the time soon will come when men will live in dignity,
That's when we'll be free.
When every man joins in our song and together singing harmony,
That's when we'll be free.

(大意)
あらゆる心と心が手をつなぎ自由のために声を上げれば、その時こそ、我々は自由になるだろう

あらゆる心と心が手をつなぎ尊厳のために声を上げれば、その時こそ、我々は自由になるだろう

いつでも、どんな瞬間でも、人類が尊厳を持って生きられる時は必ず来る
その時こそ、我々が自由になるときだ

あらゆる人々が歌でハーモニーを奏でれば、その時こそ我々は自由になるだろう

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オスカーはご存じの通り、カナダ出身でカナダをベースに活動をしていた。それでも、アメリカにおける奴隷制度や人種差別問題には心を痛めていた。アメリカ黒人と同様の気持ちを持っていただろう。そこで、マーティン・ルーサー・キング師の考え方を支持した。

歌入りヴァージョンではこちらがまとまっている。これを歌うディオンヌ・テイラーらはみなカナダ在住だという。

Hymn to Freedom: Oliver Jones, Dave Young, & Dione Taylor


https://www.youtube.com/watch?v=YTAzDaAOtmI

もちろん、ゴスペル界でも歌われる。クララ・ワードのヴァージョン (1971)
Clara Ward – Hymn To Freedom


https://www.youtube.com/watch?v=OcBhXwgSmVA

ジャズ界でもジーン・ハリス。
ジーン・ハリス (1973)


https://www.youtube.com/watch?v=e9pZ1X5e5mU


Oscar Peterson: Hymn To Freedom (Golden Jubilee Gala, 2002)


https://www.youtube.com/watch?v=0b99Ct9CSCc


この曲を1962年に書いた後、オスカー・ピーターソンは、1978年、カナダのインディ・ドキュメンタリー映画『フィールズ・オブ・エンドレス・デイ』という作品に音楽をつける。17世紀から20世紀にかけてカナダの奴隷の物語だ。

Fields Of Endless Day (1978) (約58分)


https://www.youtube.com/watch?v=Drt1qvTOZIU

カナダは、かつてアメリカ南部にいた奴隷たちが自由を求めて北部に逃亡してきたが、その中の目的地のひとつとしてカナダがあった。そして、南部の奴隷を秘密裏に北部へ逃がすのが「地下鉄道」というもので、それについて描かれているのが、現在日本でも公開されている映画『ハリエット』だ。

映画『ハリエット』について~


https://note.com/ebs/n/nc7f05be405c9

「ヒム・トゥ・フリーダム」はアルバム『ナイト・トレイン』(1963年)の最後に入っている。この『ナイト・トレイン』の最後を飾るということは、「いつか自由になる」ことを示唆する。そして、『夜の列車』がある意味、この「地下鉄道」を示唆しているようにも受け取れる。

HYMN TO FREEDOM - MUSIC MONDAY ANTHEM
75,338 回視聴•2019/04/11


https://www.youtube.com/watch?v=4ztIR5spwmQ&feature=emb_logo

アルバム『ナイト・トレイン』から50周年、2013年3月にモントリオールのヴィクトリア・ホールで行われたイヴェントでの「ヒム・トゥ・フリーダム」。
Oscar Peterson's 'Hymn To Freedom' - Robi Botos, piano, Dave Young, Bass, and Alvin Queen, Drums.
114,130 回視聴•2013/03/13


https://www.youtube.com/watch?v=J7urBrJUXwU


2013年10月にトロントのハーバーフロント・センター・シアターで行われた「アート・オブ・タイム・アンサンブルの『ホワット・イズ・スケアード』というショーでのもの。ピアノはコーリー・バトラー、ヴォーカルはジャッキー・リチャードソン。
"Hymn to Freedom" by Oscar Peterson, lyrics by Harriette Hamilton (8分40秒)
49 回視聴•2020/06/18


https://www.youtube.com/watch?v=kSrFOAY-MCM

そして、2020年、「ヒム・トゥ・フリーダム」が1962年に書かれてから58年。今、急速に世界的な動きとなっている「ブラック・ライヴズ・マター」を応援する賛歌にもなった。まさかこれを書いたオスカー・ピーターソン本人も50年以上も後に、この曲が大きな意味を持って世界中でプレイされるとは思ってもみなかっただろう。音楽が持つメッセージ性の重要さを改めて感じさせられた。

ブログ オスカーピーターソン2  銅像

オスカーは、2007年12月23日、カナダ・トロントで82歳で逝去した。

ちなみに、東京・赤坂にあるカナダ大使館に200人程度が入るコンサート・ホールがあるが、そこは「オスカー・ピーターソン・ホール」と名付けられている。

ブログ オスカーピーターソン3  カナダ大使館 シアター

(オスカー・ピーターソン・シアター、カナダ大使館)

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