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〇『バービー』と『オッペンハイマー』~「バーベンハイマー」について、簡単な時系列まとめ

〇『バービー』と『オッペンハイマー』~「バーベンハイマー」について、簡単な時系列まとめ

(映画についてほんの少しだけネタバレがあります。映画を見る予定で事前に何も情報をしりたくない方はご注意ください。映画を見ようか見まいか迷っている方はどうぞ)
 
【Timelines of ”Barbie”, “Oppenheimer” and “BarbenHeimer”】
 
バーベンハイマー。

映画『バービー(Barbie)』 (ワーナー映画、日本公開、2023年8月11日)は、全米で2023年7月21日公開。製作予算約1億4500万ドル(約217億円=1ドル150円換算)、宣伝予算は1億5千万ドル(約225億円)で、製作・公開。ハリウッドの典型的な大作。公開後約3週間で世界興行収入が1ビリオン(10億ドル=1500億円)を超えた。女性監督(グレタ・ガーウィグ)による作品が10億ドル超えの興収は史上初。

これと同日全米公開の『Oppenheimer』(オッペンハイマー、日本公開未定)は、ユニヴァーサル映画。原爆を作り「原爆の父」と呼ばれる科学者、Jロバート・オッペンハイマーの生涯を描く。監督、クリストファー・ノーラン。製作予算1億ドル(約150億円)、宣伝予算、1億ドル(約150億円)。これまでの世界興収5億6500万ドル(約848億円)。3時間の超大作で、原爆を作ったことへの悩みなどを描いている。ただし、広島、長崎などの描写はない。
 
クリストファー・ノーランはもともとワーナーでこの映画を配給しようと考えていたが、ワーナーが長引くコロナ禍で2022年公開作品をすべてネットフリックスなど配信で公開することを決めたことに抗議し、同作品の配給をユニヴァーサルに渡した。
 
宣伝キャンペーン。

3年にわたるコロナ禍で映画を劇場で見ることが少なくなってきたときに、アメリカで一部の映画ファンがこの二つの映画を一緒に見て盛り上げようとなったとされる。これは当初は、前記のように自然発生的に起こったものとみられていたが、両映画の超大規模な宣伝予算を見ると、その宣伝予算・戦略の中からこうしたアイデア/マーケティングが考えられ、インフルエンサーにアプローチしていくつかのミーム(画像、イラスト)を展開したとも考えられる。
 
それが「バービー」と「オッペンハイマー」を合体させた「バーベンハイマー」のミームで、これが話題になった。
 
たとえば、それがバービーと原爆のキノコ雲をあわせたようなミームだったり、後ろで炎が燃え盛るミームだった。
 
この2本の映画を一緒にみようという戦略にのったのが、たとえば、トム・クルーズで、トムは両方の映画のチケットを買い、同日に両映画を見たとされる。
 
『バービー』のアメリカ公式がこれらのミーム、ツイッターなどに「いいね」や「忘れられない夏となる」「ケンがスタイリスト」などの肯定的なコメントをつけたために、これに、日本人が否定的に反応、日本の『バービー』の公式配給会社、ワーナーが謝罪を出し、それを追って、アメリカのワーナーも謝罪を出した。

もちろん、映画好きが自然発生的に出したものという見方もできなくはないが、映画会社がこれをしかけたとしても不思議ではない。
 
カウンター・プログラミング。
 
映画会社は、これまでにも同時にまったくタイプの違う映画を公開、それを続けて見ようという、キャンペーン的マーケティングを行っていた。これをアメリカでは「カウンター・プログラミング」(相対するものを組み合わせる手法)というそうだ。
 
まったく違うタイプの映画を同日公開にする手法は、古くは2002年に、コメディの『アバウト・ア・ボーイ』(ニック・ホーンビィの小説を元にした映画)とSF『スター・ウォーズ、エピソード2、アタック・オブ・ザ・クローンズ』をあてた例があり、前者の映画が小規模予算作品にしてはヒットになった。ほかにも、最近では『トップ・ガン・マーヴェリック』に小規模予算の『ザ・ボブズ・バーガーズ・ムーヴィー』をあてた例もある。

ユニヴァーサルが2021年9月に、『オッペンハイマー』を2023年7月21日にリリースと決定。それを受けて、ワーナーは当初同日に『Coyote Vs Acme(コヨーテVSアクメ)』をリリースしようとしたが、2022年4月、『バービー』を同日にリリースすることを決定。ワーナーのこの決定は、ノーランがワーナーを去りユニヴァーサルに移籍したことへの「あてつけ」ではないかとも推測され、一方ワーナーがこの日に『バービー』をあててきたことに、ノーランは激怒したともいわれる。
 
「バーベンハイマー」という言葉を最初に発案したのは、2022年4月15日付けのツイッターで、ウェッブサイトのネクスト・ベスト・ピクチャーの中で、その編集長、マット・ネグリアが使ったものだとされる。ただ本人はあまり記憶にないようで、言葉の浸透が加速化したのは、2023年になって。それにともないマーチャンタイズの動きまででてきた。
 
組合のスト。
 
また、両映画公開直前の2023年7月14日からSAG-AFTRA(映画俳優組合・米国テレビ・ラジオ芸能人組合)のストライキが始まり、出演者、製作者などがアメリカ国内などで宣伝に一切かかわることができなくなり、ツイッターなどSNSでの自然発生的な「宣伝」が、「ひとり歩き」した面もいなめないようだ。

アメリカでは、原爆に関する認識が日本とは圧倒的に違うので、今回のバーベンハイマーの動きは、日本の一部のマニアほど盛り上がっていないようだ。

このあたりの話をコンパクトにまとめて、木曜日の『AOR/Soul To Soul』の『バービー』特集で話そうと思ったが、ちょっと簡単には話せないことと、時間が足りないために、話せなかった。
 
製作費・宣伝費の巨額予算。
 
いずれにせよ、製作費と宣伝費がそれぞれ200億円超という規模に圧倒させられるが、『オッペンハイマー』をまだ見ていないので、なにも評価はできなが、『バービー』は来年のオスカー、監督賞、作品賞、また、サントラがグラミー賞などにノミネートされるような感じがする。
 
『バービー』は、単純にマンガ(あるいは空想世界)が実写映画(現実世界)になったコメディ映画というだけではない。女性視点の女性の歴史、女性やその他のマイノリティ(黒人、LGBTなど)が虐げられてきた歴史とその問題提起、そして、なにより「自分がどう生まれ、どう生きていくか」という根源的な問題を問いかけているようにみえる。ビリー・アイリッシュが歌う「What I Was Made For(私はなんのために作られているのか)」は、まさにこの映画をもっとも象徴するテーマでもある。

映画の冒頭で『2001年宇宙の旅』の最初のシーンを模したシーンがでてくるが、あれは人類の進化・深化の原点を表したものとすれば、『バービー』があそこにあのシーンを設けたのは、女性史の進化・深化の原点を見せようとしたのかもしれない。
 
いずれにせよ、『バービー』は、まったく子供向けの映画ではない。

 
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「『キノコ雲は非人道的』とならないアメリカの原爆観。識者に聞く、映画『バービー』と原爆ミームの背景」 
ハフポスト2023年8月5日付け→

 

映画監督と映画について、ブラジル在住、沢田さんが詳しく書いたブログがあります

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