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『斎藤妙椿・妙純』の読みどころ解説

 戦国時代の美濃(現在の岐阜県)といえば、下克上を起こして主家である土岐氏を追放、戦国大名となった斎藤道三が著名です。

 しかしそれ以前、室町時代に同じく守護土岐氏権力を凌駕した斎藤一族がいたことをご存知でしょうか?
 その斎藤一族こそ、本書の主人公である斎藤(持是院)妙椿・妙純を輩出した美濃守護代家斎藤氏でした。
 この斎藤氏は利仁流藤原氏の流れを汲み、鎌倉前期に斎藤親頼が美濃国目代をつとめたことが縁となって美濃に土着し、力を増していきます。時期は不明ですが美濃守護土岐氏の被官となり、やがて守護代富島氏を逐って守護代の地位を獲得。妙椿・妙純の時代に最盛期を迎えました。

 とくに妙椿は応仁・文明の乱により京都より逃れてきた足利義視・義稙父子を美濃に匿い「東西の運不は持是院(妙椿)の進退によるべし」(『大乗院寺社雑事記』)と評されるなど、中央政治史にも深い爪痕を残しました。また京都の貴族から「無双の福貴、権威の者なり」と評されるなど高い経済力を誇り、主家である土岐氏を凌駕しました。
 妙椿の跡を継いだ養子妙純も積極的に伊勢や近江など他国に出兵し、「美濃に妙純あり」というところを見せつけたほか、土岐氏の家督問題に端を発した「舟田の乱」を引き起こし、美濃国に戦国時代を到来させるなど、室町から戦国時代へと移りゆく美濃の歴史を語る上で外せない人物でした。
 なお、斎藤道三・義龍・龍興を「後斎藤氏」と言うのに対し、室町時代に活躍した斎藤一族は「前斎藤氏」と通称されています。

 そんな斎藤妙椿・妙純父子を中心として、室町・戦国初期に活躍した「前斎藤氏」の歴史・歴代をまとめたのが、このたび刊行する横山住雄著『斎藤妙椿・妙純ー戦国下克上の黎明』(中世武士選書46)になります。

【目次】
第一章 斎藤氏の主家・土岐氏の抬頭と発展
第二章 美濃国守護代・斎藤氏の興隆
第三章 武勇に優れた斎藤利永
第四章 土岐氏を凌駕した持是院妙椿
第五章 持是院妙純と美濃の争乱
第六章 持是院家の衰退
第七章 永正・大永の乱と土岐頼武
第八章 史料にみえる斎藤氏一族
第九章 禅宗に帰依した斎藤氏
第十章 斎藤氏を支えた被官たち

『斎藤妙椿・妙純』解題  木下聡


 史料に見える斎藤氏一族の足跡を網羅し、斎藤氏を支えた被官たちの動向までまとめられており、資料的価値も高い内容になっています。

 著者の横山住雄氏は美濃・尾張の中世地方史ならびに禅宗史を研究し、周辺地域に残された多くの歴史・宗教史の基礎史料を丹念に猟集し執筆されることに定評がありましたが、惜しくも令和3年(2021)に逝去されました。
 本書は平成9年(1997)に刊行された『美濃の土岐・斎藤氏(改訂版) 利永・妙椿と一族』(濃尾歴史研究所発行)を再刊したものですが、再刊にあたっては誤字・脱字の訂正ならびに若干の文章整理を行い、新たに関連する古文書・史跡写真を追加するなど、体裁を一新いたしました。
 さらに、美濃の戦国史研究の第一人者である木下聡氏(東洋大学文学部准教授)に、本書刊行の意義や研究史上の位置、さらには横山住雄氏の研究の特徴をまとめて「解題」を執筆していただきました。

 斎藤妙椿・妙純を中心に室町から戦国へと移りゆく社会の変容を解き明かした本書が広く読まれることを心から願っております。

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