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12.時空を超えた接触

菊子はそわそわしていた。なにやら城内にて大男がつかまったという。いつもならそのような不法侵入者の話が耳に入ることはないが、なぜかこの男は自分に会いたいと言っているという。しかも、この不思議な男は誰も知らないような豊臣家の秘密を知っていたり、ましてや、もうすぐこの大坂城が徳川家康から攻められて落城すると言うのである。

「なんとも薄気味の悪い」

菊子は最初はそう思った。しかし、未来を予想する陰陽師なのかもしれぬと考えるようになり、いくつか人伝いに質問をして、その男の真贋を確かめた。

すると、誰も知らぬことを言うのだ。例えば、方広寺の大仏殿や東寺の金堂を再建しようと考えているのではないか、などと菊子の心の内を言い当てる。これは只者ではないと思うようになっていた。

一方、西郷は頭から記憶を絞り出そうと必死になっていた。今が慶長8年(1603年)であるのなら、関ヶ原が終わって、大坂城はもう政治の中心ではなく、淀殿と秀頼が日々暮らす城になっているはず。

西郷は大坂城にて捕まったものの、その風貌と振る舞い態度から一目置かれる存在になりつつあった。ましてや預言者の如く話す内容の信憑性が高まるや、周囲の者たちもその見識を聞こうと集まってくる始末。

そして、捕縛されてから3ヶ月後のこと、西郷は菊子と面会することとなる。

「茶々から淀殿、そして今はおふくろ様か。なんとも悲劇の人生を送る人よ」

西郷は少し伸びた髭面を手の甲で撫で回しながら、座敷へと続く長い廊下を歩いていた。前には頭を髷で結っている若い男が大股で歩き、その前をまた小柄な女が早歩きをしている。

西郷は長い廊下の先にあった建物の端にある部屋へと通された。

「ここでお待ちになるように」

そういって若い男はいま来た廊下を戻って行った。小柄の女は西郷の左前に座っている。

しばらくして、奥から一人の背の高い女性が入ってきた。菊子であった。まだ誰ともまともに目を合わそうともせず、部屋に入って上座へと座った。

「お目にかかれて嬉しゅうございます」

西郷は頭を下げて型どおりに挨拶をする。が、菊子はまったく反応しなかった。

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