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4.大坂夏の陣

砂煙なのかそれとも霧なのか、しかしこの夏の時期に朝とはいえ霧が晴れぬということもあるまい。そう首を傾げながら、且元は朝の身支度を整えていた。もう鎧を着たまま過ごすこと7日にもなるだろうか。遠くに見えるはずの大坂城は黒光してその威光を保っているはずだが、いまは霧で見えない。しかし、この摩天楼ももはやこれまで。
家康様の本隊が到着されれば、すぐにでも落ちることだろうと目を伏せた。

なにしろ、外堀ばかりか内堀まで埋められてしまい、天守閣がただ聳え立つだけの城郭なのである。

「淀の方様がわかってくださりさえすればの」

なにしろ、徳川方との交渉役を任された身であった自分が、何も平和に終わらすことのできなかったこの状況、自らの力不足をなげくばかりである。

そのとき、物見からの知らせが入ったと大慌てで小姓がかけよってきた。

「どうした、騒がしい」
「申し上げます、物見の報告によりますと、大坂城が見えないとのこと」
「なにを?」
「大坂城の天守が見えぬとのことにござります」

且元は何を馬鹿なことを言っているのかと霧でも晴れればすぐにわかること、季節外れの霧ゆえに、見間違ったのだろうと岡山口の自陣から北北西の方角が見えるところまで進み出た。

「まこと、見えぬな」

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