英語の難しさ5つーー北村一真『英文読解を極める』(NHK出版新書)評

筆者は、まず英語の難しさを次の5つに分類している。英語の難しさというと、文法(短文の文構造)と語彙に注目されがちだ。もちろんこの2つを極めるのも難しいのだが、英語の難しさは複合的で、自分が英語のどの部分に難しさを感じているのか分類するのは英文読解を「極める」上で必須だ。

筆者の分類は次の通り。①文の構造、②文章の構造、③語彙、④言葉の使い方、⑤翻訳に関連するもの。すべて紹介してしまうとネタバレっぽくなるので、ここでは私がとくに参考になったと思う3つに絞り、簡単に紹介したい。もっと知りたい&例題に挑戦してみたい、という人はぜひ本書を手に取ってもらいたい。毎度言っているが、北村氏の本は、読み通すだけでもよいが、問題に自分で取り組む(和訳を書き出してみる)ことで、さらに英語力を鍛えることができる。自分で訳文を作ることで、自分の理解度を確かめることができる。特に⑤は直訳・意訳の関係であり、ぜひ自分で訳を作り、模範解答と照らしあわせると良いのではないか。(大人向けの英語学習本はほとんど読まないのだが、ガッツリ和訳をやることが前提のものって、あまりない気がする。だからこそ北村氏の本が求められるのだろう。)

①文の構造
英文がスラスラ読める人は、次に何が来そうか予測をしながら読んでいる。例えば、日本語にはない後置修飾に注目し、前から読み進めた時に「ん? 一般論すぎないか?」「ん? 筆者の主張と逆のことを言っていないか?」と「変な感じ」がしたら、しめたもの。後ろでさらに情報が加わる(=後置修飾)と、「変な感じ」を「予測」に変換するのだ。

②文章の構造
短文レベルでは読めても、まとまった文章になると読めなくなる。文と文の関係を、大まかに類似・因果・連続にわけて、具体的な表現や注意点を解説していく。文と文の関係というと「接続詞」や「副詞」に注目しがちで、もちろん接続詞・副詞は大事なのだが、個人的には、「語彙的なつながり」の例・解説がおおいのは勉強になる。関連性のある語句がつづいたり、一般と具体をいいかえたり、あるいは前文の内容を名詞化してひきとったり、「接続詞」「副詞」といったわかりやすい接続表現を使っていなくても、前の文と次の文は続いている。この「続き方」が日本語と英語でクセが違うので、その違いに意識をむけることは大事なのだ。

⑤翻訳に関連するもの
日本で英語を学んでいると、直訳・意訳のどちらがよいのかで迷うことがあるだろう。ここでは直訳とは英語の文構造に忠実な訳、意訳とは日本語に直したときに自然な訳とする。訳文が、原文の文法構造に近くても、原文の情報構造を反映していないと、日本語として不自然になることがあると筆者はいう。日本語と英語の文法構造の違い、それを反映した情報構造の違いを考えると、確かにその通りだ。ここでも筆者の豊富な例文がわかりやすい。

言われてみれば確かに、時に教育現場(学校)で直訳が求められるのは、学習者が文法項目を理解しているかどうかチェックするためであり、「文法的にわかってないっぽいが日本語としておさまりの良い文」はバツがつくこともある。実は、日本語を母語とする学習者が、文法理解はあやふやで単語だけからそれっぽい日本語訳を作ることは(勘がよい人ならば)できてしまう。だから、まず文法理解をアピールする直訳が(テストで)求められるのだろう。とはいえ、ある程度、文法がわかり英語ができるようになると、今度は日本語としての不自然さが気になるのは、もっともな話である。学習者が、直訳・意訳のどちらが良いのか迷う場合は、テストであれば出題者が求める基準を事前に提示していないことが多いのではないか。

わかりやすい筆致と、古典から最新ニュースまで豊富な英文は、筆者のこれまでの著作につらなるもので、間違いのないクオリティである。これに加えて、本書の魅力は英語の難しさの分類(腑分け)である。英語は簡単/難しい、という議論はネットをみてもさまざまあるが、英語のどこが簡単/難しいのか噛み合っていないことも多い。(噛み合っていない議論は、不毛である…。)本書を読むと、難しさの分類ができ、具体的な対処法も見えてくる。


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