ゲームとポルノの依存性ーーフィリップ・ジンバルドー、ニキータ・クーロン『男子劣化社会』(晶文社)

身もふたもないタイトルである。日本語サブタイトルは「ネットに繋がりっぱなしで繋がれない」とあり、サブタイトルのほうが原題Men (Dis)connected: How Technology has sabotaged what it means to be maleの(Dis)connectedの意味を表現している。テクノロジーが男性であるということをどのように「破壊」してしまったのか? 各種データが示すとおり、男性は女性と比べて「遅れて」しまっている。学力、労働、人間関係(パートナーや親子、家族)。複雑・不安定な社会から溢れてしまう男たちはどこへ行くのか? テクノロジー=インターネットである。筆者が特に警告するのが、ゲームとポルノへの依存(筆者はこれを興奮依存症と呼ぶ)だ。

ゲームは確かに難しい。難しいが、あくまで管理された難しさであり、訓練によって克服できる。管理された挑戦は現実社会のイミテーションであるが、イミテーションはイミテーションであって、現実に代わり得ない。それなりの達成感すら得られるので、タチが悪い。ポルノはどうか。あまりにも簡単にあまりにも大量のポルトのが、オンラインで無料で手に入る現在、快感を得ることは歴史上もっとも容易になっているだろう。ポルノの見過ぎで日常生活に支障をきたし、パートナーとの性行為を行えなくなった男たちの声も紹介されている。オンラインポルノの問題点はさまざまあるが、ポルノは基本的に部屋で1人で観るものであるので、ポルノの「過度な視聴」がいったいどれくらいなのか、またある人がポルノ依存かどうかを、判断するのが非常に難しい。

さらに筆者が指摘するのは、アメリカにおける離婚率の高さ、母親が親権をもち、父親と交流と断たれる子供(息子)が多い点だ。学校の教員も男性より女性のほうが多く、男子が成長する過程で模範となる男性が身近にいないのだ。女子と比べ発達が遅い男子は、落ち着くことが苦手なため、学校ではADHDと診断され投薬治療の対象となることもある。

ゲームを減らしポルノをやめて、現実世界に出てこい、という話なのだが、言って出てくるなら事態はこんなにややこしくない。そもそも現実のストレスへのコーピング(対処法)としてゲームやポルノがあるのだ。(斉藤章佳『男が痴漢になる理由』は、痴漢という犯罪も一種のストレスコーピングであると指摘する。)依存症というと、酒からドラッグまである薬物依存がすぐに浮かぶが、過食、万引き、盗撮、痴漢、ゲーム、ポルノ、ギャンブル、SNSなどの行為・過程も依存症になりうる。薬物を使おうと、ある行為にハマろうと、脳内では快楽を期待するときにでる物質=ドーパミンが大量放出されているのだ。脳内物質という水準で見れば、薬物も行為も同じ現象を引き起こしている。「ポルノを絶て」とメンフルエンサー(男性+インフルエンサー)は言う。しかし、多くのメンフルエンサーはミソジニーを内包していて、結局は、ある物質から別の物質へと崇拝対象を変えているだけではないか。いずれの場合も人とやりとりしているのではなく、物とやりとりしている。人を物として扱うことが依存症の特徴である、とはデイミアン・トンプソン『依存症ビジネス』の教えだ。

しかし、ほんとうに、難しい時代だ。


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