こんなレビュワーになりたいーー吉村昭『戦艦武蔵』を紹介する大槻ケンヂ

(シミルボン2018年1月6日投稿)

よし、俺も「大人の文学」を読もう…。

たしかこんな文句で紹介されていたのが、吉村昭『戦艦武蔵』だった。紹介していたのは大槻ケンヂ。(どのエッセイ本かは忘れた)

私と大槻ケンヂの「関係」

小学6年生のときに、宝島社の音楽雑誌に広告が載っていた大槻ケンヂのエッセイ本を買った。近所の図書館を回り、筋肉少女対のCDを借りてはテープダビング(!)し聞いた。中学生になって行動範囲が広がったので、中古CD屋を巡っては筋肉少女帯のCDを集めた。大槻ケンヂのエッセイ、小説、詩集をほぼすべて手に入れ、何度も読み返した。中学3年生のときに、クラスメイトに『グミ・チョコレート・パイン』のグミ編・チョコ編を貸して、せっせと布教活動にいそしんだ。

大槻ケンヂは私にとってサブカルの入り口だった。

大槻ケンヂが影響を受けたものは、積極的に手を伸ばしていった。インターネット初期の「ホームページ」にあった「リンク集」のような存在。大槻ケンヂの歌詞に埋め込まれたさまざまなアイテム(人物、映画、トンデモなど)は、エッセイで「ネタバレ」をしている。大槻ケンヂが読んだ本・見た映画・面白いものが紹介されていて、これらを知ると大槻ケンヂの世界が、また違う側面を見せる。その世界は、森のように複雑に木々が絡まりどこまでも奥に進んでいけるのだ。

江戸川乱歩と中島らもは大槻ケンヂが熱く語っていたので、私も読んだ。江戸川乱歩や中島らもは、もちろん作品そのものが面白かったのだが、しかし同時に、それを紹介した大槻ケンヂを理解したいという強烈な「憧れ」が私の中にあった。この「憧れ」に突き動かされて、本を手にしたと思う。

大槻ケンヂがこのレビューを書いたのは20年以上前。ずっと気になっていたが、手にしたことをなかった本書を、ようやくこの年末に読んだ。

『戦艦武蔵』は「記録文学」の名手・吉村昭の代表作

物語の前半は、武蔵を建造した長崎造船所の様子だ。途方もないプロジェクトであること。国家機密であること。変化し続ける戦局に間に合わせるために相当の無理を現場に強いたこと。「ものつくり」という「プロジェクトX」的な視点で見れば、とてつもない大事業であることが良くわかる。問題はつくった「もの」が何かだ。完成した武蔵がどうなっていくかは後半で語られる。

一番艦・大和と同じ型から作られた二番艦・武蔵。当時の戦艦としては世界最大級。ただし、海戦が艦隊同士の大砲の打ち合いから航空兵力を中心とした戦い方へと変化した時でもある。大和と武蔵が完成するころには、日本は完全に時流に遅れていた。巨大戦艦であるため燃料の重油を大量に消費するが、日本にはその備蓄がない。味方の航空兵力(戦闘機)からの援護も得られず、結局、本来の働きをすることなく無惨にも武蔵は撃沈する。

見るものに畏敬の念と共に浮沈艦と信じさせる圧倒的な存在感が武蔵にはあった。それはもはや信仰のレベルなのだ。歴史上の権力者が、無意味で巨大なものを作ることで自らの力を誇示したように、兵器という究極的に合目的的(使うために作る)なものが、いつのまにか無意味で、かつ信仰の対象になっている。武蔵には、徹底的に無意味だったからこそ意味があったのでは、とひねくれた見方すらしたくなる

このひねくれたものの見方は、大槻ケンヂの世の中に対する距離のとり方と繋がっているのだと気がついた。レビューした人への興味からレビューされたものを読む。レビューされたものを10年も20年も覚えていて、ふと手にとってみる。大槻ケンヂは、私にとってはそんなレビュワーだった。そんな彼は、レビュワーの1つの理想の姿かもしれない。

(追記 2024年5月17日)

吉村昭は面白い。面白いのだが、半分ぐらい大槻ケンヂについて話している…。実は、昨年、生まれて初めて筋肉少女帯のライブに行ったのだった。『UFOと恋人』30周年記念再現ライブというやつで、川崎に行ってきた。『UFOと恋人』は「ドルバッキー」や「君よ俺で変われ」など入っている名盤で、個人的には筋肉少女帯のアルバムでもかなりの傑作だと思っている。このアルバムを1曲目から順にやっていく再現ライブがあると聞いたので、行ってきたのだ。ライブはやっぱりすごかった。30年とまではいかないが、28年ぐらい?聞き続けてきたバンドの曲は、かだらにしみこんでいて、ふとした瞬間に出てくるのだ。ライブの前にはもっていないCDを手に入れて聞いたし、ライブの後にもせっせと聞くようになった。一度、活動を休止していたこともあったが、いまは仲良くやっているようで、やはり不安になったのは、ファンも含めて高齢化しているから、行けるうちに行かないと、行けなくなるかもしれない、と思ったのだ。と、追記記事もまた大槻ケンヂというか筋肉少女帯について書いてしまい、この書評はいったいなんの書評なのか!? 吉村昭『戦艦武蔵』について、である。


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