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覗く女。

覗く女。

旦那さまと食事へ。
今日のメニューは和食。お腹いっぱい食べて、お会計を済ませる。

車に乗る前にトイレに行きたくなったので、旦那さまにそのことを伝え、先に車に戻ってもらった。
そこのトイレは最近、見かけることが少なくなった和式タイプ。
用を済ませ、立ち上がろうとするが動けない。なぜか足に力が入らない。

直感的に何かに足を掴まれていると感じた。
足元を見ると、便器の中から白い手が伸びていて、私の右足首をガッツリ掴んでいる。

さらに個室のドアの上から異様な視線を感じたので、恐る恐る見上げる。そこには生気のない真っ白い顔をした髪の長い女がいて、私のことを見下ろしていた。驚いて声が出ない。

すると今度は個室の前の壁からもこちらを見下ろしてくる女が現れた。さらに後ろの壁からも見下ろしてくる女。真っ白い顔をした髪の長い女が3人、個室に入って動けない私を三方向から囲むように見下ろしている。

女たちは言葉にならない低いうめき声をあげて、こちらを凝視している。
とにかくこの場所から一刻も早く離れなくては。
右足首を掴んでいた白い手を必死に払い、個室の外へ飛び出す。

女たちは低いうめき声をあげながらこちらを見ている。
ここであちら側の世界に引き込まれたら2度と帰ってこられない。そう感じた私は何とかしてあちら側に引き込まれないよう、大声を出す。

「うるさーーーーい!!」

そこで目が覚めた。いや、正確には隣で寝ていた旦那さまが私の異変に気付き、慌てて叩き起こしたのだ。
「どうした!?」こんなことは滅多にないので、旦那さまやや焦り気味。

「ト、ト、ト…。トイレの夢を見た…」意識がまだはっきりせず、そう返すのがやっとだった。

体は金縛り的な状態になっていたのかもしれない。意識がはっきりしたあとも体には強張っている感覚と疲労感が残っていた。


翌日。起きてきた私は夜中の出来事を改めて旦那さまに話した。

私は「うるさい!」とはっきり叫んだつもりだったけど、ちゃんとした言葉は喋っていなかったらしい。旦那さまは「うめき声のような、宇宙と交信しているような、不思議な言語だったよ」と言っていた。

右足首には夢の中で強く掴まれた跡が……。






無かった。


以上、ある夜に見た夢の話。

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