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夏が来た!屍鬼だ!

夏だ。死の季節だとつくづく思う。お盆、お墓、骨。
屍鬼を初めて読んだのは高校1年生の時だった。
分厚すぎる上下2巻。慣れない二段組の文章。
冒頭から続くジジババ村人の紹介。恵ちゃんと夏野。
前知識無しに読んだので、尾崎先生と一緒に何が死の原因か考えた。


ずるいよ、家族が生き返るなんて。
吸血鬼の話であった。貧血から始まる症状。それは吸血によるものだった。
しかも、この村には火葬する習慣がないため、土葬された村人が吸血鬼として蘇り、家族を襲う。

しかし家には招かれないと入れない。
だから、「お母さん、私だよ。帰ってきたよ。」と夜中に網戸で寝ている親に語りかけ、家に入る。
当時の私は死んだ家族を迎え入れてしまう村人の愚かさに首を傾げていたが、今なら分かる。
私だって今でも祖母にお昼ご飯をねだる夢をみる。
そうめん、めんつゆはばあちゃんの作ったのがいいな。って。

尾崎敏夫は最後に負けたと言う。
彼は村唯一の医者であり、村人を救おうと努力したが、村を失った。親友は敵に寝返った。
オマージュ作品のSIRENでは大人気の宮田先生だが、宮田は最後自らの命を捧げることで村人を救う。
敏夫はそれすら出来ず、ただトラックで山火事から発展した村の延焼から逃げて終わる。
この酷く救いがないところが好きだ。
アニメ化もしている。高校生の私はせっせと買い揃えていたのだが、なんとアニメ円盤売り上げワースト候補に輝いていた。
アニメーターの友人にレアすぎると笑われたが、本当に笑える話だった。

原作小説と漫画・アニメでは終盤の展開が違う。
私は漫画で辰巳さんの深掘りをしてくれたので感謝している。(展開が違うのは小野不由美先生の指示である)
どの屍鬼も面白いので、おすすめしたい。
夏のお盆に読んで、秋頃に読了するペースでいい。

私は最初、同じ高校生の夏野くんが不憫だったので推しだったが、歳をとるといつの間にか村唯一の寺の実質的な主人の室井静信に惹かれていた。自殺未遂の件もあるのかもしれない。
最後に親友で幼馴染の敏夫を裏切り、村人を殺して、一連の元凶となった人物と逃げ出す。そして自身が経験した村の出来事を小説化し、暗闇から編集者を見つめる。
一番傍観的で冷たい人物だと思う。
しかしそう彼を形作ったのは周囲の人間で、彼自身ではない。
小さな村の唯一の寺の後継者。
小さな村の唯一の医者の後継者。
静信と敏夫はそんな息苦しい人生を生きて、最後に2人は村から解放される。

私は母に言われるがままに就活し、100社落ちという輝かしいトロフィーを持っている。
興味ないのだ。実験とか、そういうの。解剖は好きだけど。データを集めてうんぬんかんぬんとかしたくない。
就活でバキバキに心が折れて、ようやく絵の勉強が出来た。楽しかった。

今年も屍鬼を読む。
自分を確かめるために。


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