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2024.0523-0525 檜枝岐村キャンプ

檜枝岐村まで

 数年前に発売されたスノーボード雑誌に「伝統を滑る」と檜枝岐村の2本しかコースがないスキー場や燧ヶ岳を滑る記事を見たのが檜枝岐村に興味を持ったきっかけ。東北道の那須塩原ICを降りて、下道を90キロ走ったところにある、新潟県、群馬県、栃木県に接する福島県の村。スノボシーズンに滑りに行くには遠いし、でもかなり気になる場所で、一人、キャンプ旅で向かうことにした。
 まるで知識がなかったので、少し調べると、小さいだろう村には7つのキャンプ場があり、温泉も湧いていて、会津駒ヶ岳、燧ヶ岳の登山口で、尾瀬沼にもイージーにアクセスできて、イワナ釣りができる場所であることが分かった。テントと2泊3日の食料を持参して、天気がよければ雪が残る会津駒ケ岳に登ろうと、トレッキングシューズと10本爪アイゼンを持参した。平日ということもありキャンプ場に管理人がいないと面倒なので、村の入口にあり、会津駒の登山口に一番近いという泉キャンプ場を選んで電話をして予約した。
 那須塩原ICを降りたらコンビニで翌日の登山時の行動食(おにぎりとか)を買うつもりでいた。千本松牧場を越したところにセブンがあることは知っていたが、もう少し走ってからと通り過ぎた。驚いたことに、その先(約85キロ)にコンビニはもうなくて、買い出しができたのは檜枝岐村で唯一生鮮食品や冷凍食品を扱っているJAのショップだった。
 高速を降りて塩原温泉を過ぎた頃から、すれ違う車は少ないし、信号もない、北海道の田舎の国道みたいになってきた。対向車を途中から数えたけど、塩原から先は30台程度だった。山と空と川と田植え中の田園、そんな景色が続くが、晴れた午前中ということで、異常に緑がキラキラしていて、カラダ中、心の中までもキラキラが届いて、ただただ気持ちよく、無心で車を走らせた。その後、そんな景色は檜枝岐村までずっと続くのだが、途中で車を停めて、川の写真や川の音をスマホに記録したりした。一人旅、そして車を停めて景色を撮るなんて久しぶりだなとワクワクした。

結局、道中ずっと緑のキラキラに包まれていた。

 思ったより早い時間に到着しそうだなと思ったとき、木賊温泉(とくさおんせん)の看板が目に入った。南会津の秘湯「木賊温泉」。冬に行ったら雪が深すぎて湯船までたどり着けなかった、というようなエピソードを誰かがラジオで話していて、最近知った温泉。グーグルマップで檜枝岐村をチェックした際、この温泉が通り道から5km入ったところにあることが分かり、時間があったら帰りに寄ろかと頭に入れていたが、先に寄ってみることにした。
 失礼だが集落とも言えないような集落の中に、温泉はあった。川岸にある露天風呂へと向かう入口の駐車場にはバイクが1台停まっていた。駐車場から道を挟んだ反対側には、温泉客のために設置したのだろうコカ・コーラの自動販売機があった。コンビニや商店がない中で、ありがたや〜と自動販売機がピカピカと光っている。駐車場には古ぼけた手書きの地図が掛かっていてそれを見てみると、国道から入ってここまできた細い道路が檜枝岐村へ抜けていることになっていた。これは少し近道になるかもだな。ビーサンに履き替え、温泉タオルとスマホだけを持って、温泉がある川岸へと降りる。と、ちょうどバイカーがあがってきた。温泉よりも、檜枝岐村までこの道路が抜けているのかが気になっていて、バイカーに聞いてみた。福島のナンバーをつけているからって林道に近いようなこの道路がどこまで走っているかまでは把握しているわけがないのだが、ストリートビューを見る限りでは舗装された道路があるよということだった。今どきはストリートビューでチェックするのかあ。道路があっても崖崩れで通行止とか、山ではよくあることなので、不安は晴れないままだったがひとまず温泉を楽しむことに。更衣所と岩がくり抜かれたような湯船が一体となっている川岸になるシンプルな浴場。硫黄の匂いが少しして、湯船の床からはぷくぷくと温泉が湧いている!?ような感じだった。目的地につく前から、満喫しちゃっているなぁと、秘湯、そして川の音、鳥の声を体感する。車に戻り自動販売機で梅ファンタを買って飲んでいると、自動販売機を置いている家からおじいさんが出てきたので、檜枝岐村まで道が抜けているか聞いてみた。道の状況を人に聞くなんて久しぶりのこと。問題ないということなので、このまま、ナビには出てこない道を行くことにした。

入浴料300円を湯小屋の入金箱にいれる。
数年前、川の増水で壊れた湯小屋は募金によって再建された。

歌舞伎の舞台

 木賊温泉からの道は峠を経て、檜枝岐村のちょうど入口の国道部分に出てきた。途中、木々の間から会津駒ケ岳方面、雪の残る稜線が見えて、テンションがバク上がりした。青空と雪の残る稜線、それだけで自分の心が満たされることが再認識できた。村の入口にはイワナの釣り堀あり、電話で予約したキャンプ場はその隣にある。が、時間もあるのでひとまず村の一番奥、尾瀬側にあるキャンプ場まで国道を走り抜けて村の全体像を頭の中に入れることに。尾瀬を水源とする透明な水が流れる川に沿って道路が走り、その脇を宿や民家が並んでいる。道の駅、そして食堂もぽつぽつあったけど、コンビニや商店はない。ただ、高速を降りて塩原温泉を過ぎた後では、ここが一番村らしい村という感じがする。予約した泉キャンプ場はそれほど広くないようだが、他に広々としているキャンプ場もあり、木漏れ日の中でタープが気持ちよく揺れていた。どのキャンプ場が一番か。まあ、どこでも気持ち良いだろうから、どこに泊まるかなんてどうでも良い気がするがキャンプ場内で釣りができればポテンシャルが高いのかもしれない。ただ、一つずつ歩いて聞くのも面倒なので、それは諦めた。一番奥のキャンプ場でUターンして、檜枝岐歌舞伎の舞台がある村の中心部まで戻る。川岸にある駐車場に車を停め、看板に従って舞台へと続く小道に入る。小道に入ると沢山のハサミが納められている「橋場のばんば」がある。おばあさんの石仏で、その場で初めて知ったのだ、子供を水難から守る水の神様。縁切りや縁結びの神様としても信仰され、ものすごい数のハサミが供えられていた。良縁を切りたくないときは錆びたハサミ、悪縁を切りたいときはよく切れるハサミを供えるそうで、沢山のハサミに囲まれた「ばんば」のインパクトが凄い。そこからもう少しだけ歩くと歌舞伎の舞台がある。歌舞伎は一度も見たことはないが、茅葺き屋根のその舞台はイメージどおりの大きさで、特に幕などもなく、舞台には襖があり風景が書かれていて、正直ボロボロといえばボロボロのとくかく年季が感じられる木造の舞台。その舞台に対面して山の地形を利用した規模は小さいかもしれないがコロッセオのように客席が石で作られている。石には苔に包まれた部分もあり、歴史を感じる。その最上部の祠があり、客席全体を大木が包み込み、雰囲気を醸し出している。セミが鳴き、木々が揺れ、その中で無心になってその舞台を感じた。

初めて見た歌舞伎の舞台。
舞台に対面した、石段で作られた客席もインパクトがある。

会津駒ケ岳登山

 夜、キャンプ場には一組の老夫婦がやってきた。テントを張ると同時に酔っぱらいのように気持ちよく歌い始め、楽しそうに食事をし、とても仲の良い夫婦だ。「昨年は駒ケ岳に登ったので、今回は燧ヶ岳に登る」とのこと。登山者って、酒が好きで、元気な印象があっていいなあ、なんて思いながらこちらも簡単に自炊した食事、普段は買わないタイカレーの缶詰を楽しんだりして翌日に備えて早めに寝る。夜は雲があり、星は見えなかった。静かで、一人ストレスもないテントなのに、ぐっすり眠ることはできなかった。
 朝、晴れ渡るというほどではなかったが、まあ予報どおり晴れていた。6時間程度は歩くことになるので、ガツンと朝食を食べたいところだが、そう都合よいカラダではないので、普段どおり食パンとカフェオレで済ませてキャンプ場を出発する。登山口の駐車場にはすでに5台の車が停まっていて、丁度準備を終え、出発していくパーティーもいた。人のことを言える年齢ではないけど、いつものように山には年配の人が多い。静かで済んだ空気の中を出発。少し歩いた所に登山口の階段があり、そのにあるポストに登山届けを入れて登り始めた。
 コースマップだと「ややキツい登り」が2時間続く。一人ということで完全マイペースで歩けるので、登りでも疲れることはない。今回、物置から引っ張り出してきた20才前後のときに買ったトレッキングシューズ(スカルパ made in italy)が加水分解で壊れないか、それだけが不安だった。実際には汗をかいているが、汗をかかない程度の負荷と気持ちで歩く。尾根を登り続けているが、景色は開けない。近くの緑、向こうの尾根の緑、とにかく緑に包まれて、カラダに優しい。途中、単独の若者が抜いていく。コースタイムの2時間で登りの中間地点の水くみ場に到着、カラダも調子よいのでそのままのペースで歩き続ける。ぼちぼち残っている雪が出てくる。雪が残っているので、夏山コースをショートカットするようなコースを取ることもあるが、初めての山ということもあり、時には止まってルートファインディングをしてみたり。下山時、違う尾根や沢に迷い込まないようにとアナウンスがあったが、雪まじりの山道、これは確かに気持ち悪い。
 残雪オンリーになってきたが、ベチャ雪でアイゼンの必要性はなし。ショートスパッツを装着して、ぐちゃぐちゃと雪の中に靴を突っ込んで歩く。気がつけば木がなくなり、景色が開けてきた。隣の尾根が雪と土のまだらになっていて、このような景色のタイミングで山を歩くのも初めてで、美しいとはいえないが、季節がかわっていくタイミングの登山を体感できる。小屋の方、見える景色の一番上の方は雲が多くなり、山頂は景色がないかもしれない、そして、風が強そうだ。歩いている人もぼちぼち目に入る。
 小屋に到着。まだ、雲はかかってないが、風は結構強い。小屋前で休憩している人に、風が強いとか、雲が多いとか話したら、山だからしょうがないと言われてしまった。100パーセント快晴を期待して山に来ちゃいけないのかもしれないが、いつも期待している。山小屋でゆっくりコーヒーでも飲みたかったが、宿泊者含め食事のサービスは行っていないとのことで、水筒の水と行動食の菓子パンを食べて山頂へ向かう。小屋からすぐの山頂は平たく、緑に囲まれて景色も見えないということだが、その通りだった。そして、雲の中。この先、中門岳への尾根歩きも天気がよければ最高なのだろうが、ガスの中、そして、サンショウウオがいるらしい池もまだ残雪の中で見ることはできなさそうで、10分ほど歩いたところで先を行くのをやめ、下山を決めた。小屋前では何人かが休憩していたが、プラブーツで登っていた人が靴擦れをしているらしく、テーピングで処置をしていたが、この距離を下山するのは辛いだろうなと思う。この年齢になると靴擦れだけでも相当なストレスになる。休憩していても天気が良くなることはなさそうなので、さっさと下山。こうなったら、帰りたい気持ちがとても大きくなって、とにかく下山するのみ。ルートミスしないように、少しだけ気をつけて、あとはドサドサと降りていく。途中、軽くルートミスをしたが、気をつけながら 1時間半歩く。にしても、1000メートルの高度差を疲れずに登れるとは自分の山歩きの体力は意味不明だ。もうほとんど下りきったところで、雪が残る山をハーフパンツで歩くおっさんを自撮りした。川の音が聞こえてきて、駐車場が見えてきた。登山口の階段を慎重に下り無事下山。下山届けに名前と時間を記入し、木のポストに入れて登山は終了。

村の温泉とイワナの釣り堀

 下山後は食堂に向かい、名産のそばとはっとう、タンパク質補充のために唐揚げを食べた。はっとうは福島県の郷土料理で、そば粉と米粉を練ったもので檜枝岐にある食堂ならどこでも食べられるようだ。お腹も満たされたところで、温泉に向かう。村にはなんと3つの公共浴場がある。今回の旅では「駒の湯」と「燧の湯」に入った。燧の湯は川に面した露天風呂があり、そのロケーション、そして川の音や風の音、もちろんお湯も最高で、ひと山登ってきた満足感を忘れてしまうところだった。平日だから空いているのか、山奥にあるから空いているのか、とても居心地がよい。
 二日目もキャンプ場には翌日登山に行くという人が泊まっていた。登山口から一番近いということで、このキャンプ場は登山者が泊まりに来るところなのかもしれない。夜は雲が広がり星は見えず。快晴だとしても、山に囲まれているから、星を見るにはいまいちかもしれない。
 三日目は帰る前に、村の入口にあるイワナの釣り堀に行ってみた。釣ったらその場で炭焼きして食べられるということで、イワナってもしかすると食べたことないかもしれないし、釣り堀でもいいので魚釣りもしてみたかった。すぐに釣れると思ったがコツが分からず、情けないが釣り堀のおっちゃんに一匹釣ってもらった。その場で20分かけて焼いてもらい、焼き立てを頂く。とても香ばしく、今度は川魚が好きな子供と一緒にまた来ようと思った。
 山の奥の奥、尾瀬の北側にある小さい村、檜枝岐村。キャンプでも温泉宿でもスノーボードでもいい、また行きたいと思う。この山奥の村になぜ人が集まるのか。歌舞伎は年に数回しかやっていないので、山やイワナとか自然のが理由か、それ以外に見えない理由があるような気もする、そのなにかをまた来たときに考えようと思う。


釣り堀で人に釣ってもらったイワナ。塩焼き。