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アイチャク

あらイヤだ!!気が付けばこんなところにシミが…
最近多くなった… 年齢のせいかしら。 
今更何しても取れないわね…

「あきらめないで!」
6箇所もあった年代物のシミが6,490円で取れるわよ。

誇大広告はJAROへ

お気に入りの洋服を着ている時に限って付着する忌々しいシミ。

とりわけ白い洋服を着ている時ほど、跳ねシミを誘発する危険性が高い麺類や汁物を食べたくなるのは何故だろうか。

自傷行為に近いその行動は、根本に心理的な問題を抱えているのか、跳ねシミに挑むことで冒険心や刺激欲を満たそうとしているのか自分でもよく分からない。

分かっているのはそのシミはすぐに処置をしないとなかなか取れないということと、染み抜きは高くつくということだ。


昔に比べ、年代物のバッグや洋服の汚れ落とし、リフォームに特化した専門店が増えてきた。
独自の技術や知識を駆使し、特別に配合した薬剤で、大切な商品に傷をつけずに仕上げるには相応の対価が必要となる。

結果的に「買った方が早いじゃん!」となることの方が多い。
しかし、お金では代えられないものが世の中にはある。愛着を持ったものだ。

私は白い洋服が好きである。

着ると清々しく背筋が伸びるような緊張感があり、パッと人目を惹く。
小さな汚れも目立ちやすいのが難だが、何にでも合わせやすい。
お気に入りの白いスカートとパンツを着るたび「このシミをどうにかしたい」としみじみ感じていた。(シミだけに)

そんなある日「3㎝×3㎝四方のシミ抜き500円」という染み抜き専門店を見つけた。
6箇所ならば3,000円以内に収まる。
その価格ならもっと早くに頼めばよかった。

家から車で30分程の小さなお店。
店内に入り挨拶をするも返事がなく、愛想の良いとは言えない女性がいぶかしげに奥から出てきた。

私はそそくさと衣類を出し「このシミは恐らくボールペンで、こっちは食べ物の油系です」と染み抜きをしてほしい箇所の説明を始めた。
無表情でおし黙っていた彼女が口を開いた。

「このシミは今シーズンのものですか?」

今シーズン…?
シミにシーズンがあるのだろうか。
野球なら3月から10月までがシーズンなのでとりあえず「今が旬の汚れ」という意味で「今シーズンです」と答えた。

「こっちは?」鋭い目つきで聞いてくる。
なんだろう、この尋問されているような感覚。ドキドキしながら
「これはかなり前の物でおそらく1年は経っているかと…」
「じゃあ1箇所1,000円ですね」

じゃあ全部今シーズンって言っておけば良かった!!! しみったれた私は激しく後悔した。

結局1㎝にも満たないシミが6箇所、2着のシミ取りで6,490円。

想定外の高額にたじろいだが、覚悟を決めた。
「この洋服は形が好きで着心地が良く愛着があるので…、お願いします」と頭を下げた。

女性は「この生地、張りがあって良い素材ですもんね」と初めて笑顔を見せた。
「こっちのスカートもシルエットが良さそう」と丁寧に衣類を掲げる。
その眼差しは本当に洋服を愛している人の顔だった。

「きっとこの人は私が洋服に愛着を示したことで、共感してくれたんだな」と感じた。
話を聞けば女性はこのお店のオーナー。

洋服が大好きでテキスタイルを学ぶ為イギリスに留学し、洋裁や染色の知識を一から学んだそう。
今はオーダーメイドのドレス製作からリフォームまで手掛ける職人さんであった。

今までにたくさんの人の「愛着」を預かり、綺麗にして渡すことに喜びを感じてきたのだろう。

1人で切り盛りしている為時間がかかると、3週間後の仕上がりを約束され店を後にした。

顔のシミ取りに比べれば安いもの…


大変気に入っていたが、失くしてしまったり壊してしまったもの。
もう二度と手に入らないもの。
「いくら払ってもいいから同じものを手に入れたい」
そんなものが貴方にもないだろうか。

学生の頃、父から譲り受けた「鹿の頭」がモチーフのシルバーリング。
父が若い頃に海外出張先で購入し、小指にはめていたらしい。
私の人差し指にぴったりだった。

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日本にはない渋い色味と緻密なデザインが格好よく、身に付けると自分が強くなったような、守られているような気さえした。

毎日肌身離さず付けていたが、かくかくしかじか(鹿だけに)気づいた時には何処を探しても見つからなかった。

失くした時のショックは相当なもので、数か月間、鹿の怨霊に取り憑かれたかのように似た物をネットで探し続けては意気消沈する日々…。

ある日オーストラリアでシルバークラフトをしている青年のウェブサイトを見ていると、似たような指輪を発見した。
期待に胸を躍らせ翻訳サイトを使い、素性も知らない青年にコンタクトを取り、指輪を購入したい意思を伝えた。

イーベイ経由で代金を支払い、送料を合わせると結構な額面になったが、その時はどんな値段を払ってもいいから手に入れたいと思っていたのだ。
もう同じ物は手に入らないことは分かっていたのに。

今思うと代替品を探すという行為で、愛するものを失くしてしまった喪失感や罪悪感を和らげようとしていたのだろう。

結局届いた商品は気に入らず、身に付けることもなくお蔵入りになった。
「替えはない」とはっきり認識することでようやく諦めがついたように思う。仕方がない。シカだけに…


禅の教えでは「放下着(ほうげじゃく)」という言葉がある。
所有している物だけでなく、過去の経歴や成功体験、思い込みや決めつけといった思慮分別をも棄て去ることで、楽に生きられるという考え方だ。

愛着心が執着心に変わるのであれば、形が変わる前に手から離れて正解なのかもしれない。

日本の様式美のひとつの「金継ぎ」手法。
欠けたり割れた漆器を修復すると同時に、金による装飾で美しさを表現するアートの役割も果たす。
壊れたら手をかけて修理し、また使用する。
補修した部分も自然のものの為、絶えず微妙に変化していくという。

形を変えながら、手をかけた分だけ愛着が深まっていく様子は長年寄り添い続ける夫婦の形にもどこか似ている。

人や物に対し過度の執着をするのは良くないが、自分の持ち物に愛着を持つ方が生活はずっと楽しくなるだろう。
持ち物全てを「目的の為の手段やツール」と捉えるのは何だか味気ない。

お気に入りのカップでお気に入りのコーヒーを飲む。それだけで暮らしが豊かに感じる。
身の周り、全てのものが自分の愛着のあるもので満たされる。
そんな暮らしは理想的だ。

そしてそれが壊れたり劣化した時は、手直ししながら変化さえも愛しく受け止めることが出来たらいい。

今日、6,490円で生まれ変わったスカートが戻って来る。
買った時と同じ白さにはならないが、これからは汚さないようもっと大切にしていきたい。

お気に入りを着て何を食べに行こう。

やっぱりカレーうどんかなぁ(笑)


🍀あとがき🍀
カレーうどんもいいが今は紅虎餃子房の「四川黒胡麻担々麺」が食べたい。

ここの担々麺よりも美味しい黒胡麻担々麺を私は知らない。
マー辣油と山椒の痺れ具合と黒胡麻のまろやかさが絶妙すぎる。
〆めはスカートのように真っ白な杏仁豆腐で決まり👍💖


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エバ@エグくて優しいエッセイスト🖋

📷https://www.instagram.com/kurione1223/






















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