糸シリーズファンアート集に寄稿したイラストの話
以前このnoteでも感想を書いたことのある笹鎌愁久さん著、『糸』シリーズのファンアート集に寄稿させて頂きました。人生何があるかわからないものです。
個人的に思い入れの深い案件となったので今回寄稿にあたっての思考プロセス?とかそういうのを纏めておこうと思う。
こういうのあとで読み返した時に自分が楽しいんですよね。喜べ未来の私。
※そんなわけで当記事には『糸』シリーズのネタバレが適度にあります。
『Ito Fanart Collection』
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2080391
というわけで改めて、このイラスト集に寄稿した私のイラストの話をしていきます。手元に現物が無いので本当に私の話しかしません。できません。
これ読んでからイラスト見ると先入観を持ってしまうのでファンアート集を読む予定が少しでもある方は、こちらを読んでから当記事を読み進めて頂けると嬉しい限りです。
◆はじめていきましょう
そんなわけでお誘いを受けました。
こういった合同企画で考えるべきは先方から提示が無かった場合、自分がどういう立ち位置かを自分の中で明確にしておくのが重要である。
『糸』シリーズの感想を書いた流れ、おそらくはファンボーイ枠での起用だろう。つまり真っ当なイラストは高レート絵描きたちが描くだろうから、ある程度遊びが許される立ち位置のはず。
ここまで把握したところで、原作でスプラッタなシーンがあるのですがそのシーンを血飛沫舞うB級ホラーというか丸尾末広テイストっぽい雰囲気で描くところまではすんなりと決まった。赤黒紺のキネマ調もいいかもな……!!
笹「今回のファンアート集は全年齢向けです」
主催からの一言に戦慄走るっ……!!
『糸』シリーズは成年向け作品なのでイラスト集もそうなのかと思っていた。****の人体欠損パーツは当然、血飛沫も控えたほうがいいのかもしれない…………。
◆いきづまる
新たな合同条件の開示により、制作は暗礁に乗り上げていた。個人的な合同誌のセオリーとして、高レート絵描きとまともにやり合うとこちらが消し炭になるため、ある程度『軸をずらす』必要がある。軸をずらしつつ、しっかりと合同が盛り上がるような作品を作る。
歩夢ちゃんと栞子ちゃんのほんわかお買い物シーンみたいな大好きなシーンはあれど、誤魔化しが効かない上に数人とぶつかり合う危険がある。
本当に困っていた。
社会不適合者にも優しい、かなり猶予のあった締切の音はすぐそこまで迫っている。
◆はらをくくる
当時一日中『糸』の事を考えていた。
やはり思い浮かぶのは栞子ちゃんのこと。何日も経った頃、
『栞子ちゃんがペリエの瓶で壊したのはなんだったのか』
ふとこんなことを思いました。
忘れてるだけで誰かの引用かもしれませんが。
なんにせよ、行き詰まりを打破するフックとしてはかなり良いフレーズでした。
これはある程度詰めたラフなんですけど、ペリエの瓶をベースに原作の印象的なアイテムを散りばめてみました。仄暗い感じ。
シリーズ通してのイラストのほうが誰かと被らなそうだな、という目論見もしっかり持っています。
このへんやってて、ふだん自分の絵を描くときにイメージラフなんて描かないのでもうすこし普段から真面目にやるべきだなぁとおもいました(他人事)
◆かいせつする
①メインテーマ
主題は『栞子ちゃんが叩き割ったのはなんだったのか』『栞子ちゃんの未来に光あれ』の二つです。「叩き割ったのは**の*だろ」とかそういう話じゃなくて、概念的なものの話ですね。壊したもの、壊してしまったもの、と言い換えてもいいかもしれない。
最終稿ではラフの時点であった全体的な仄暗い雰囲気は払拭して明度高めに寄せました。『明るい未来を連想』させる目的と、よくよく考えたら殆どのイラスト仄暗い雰囲気になってそうだからカウンター当てた方がいいな、という目的があります。
これで他の参加者の原稿みんな明るめだったら前述したとおり対消滅します。
②二人の腕
原作の栞子ちゃんとかすみん、栞子ちゃんと桜坂さんの友情のようなものがとても大好きで、栞子ちゃんの掴んだ未来はこの二人なくしては掴めなかった未来だと思います。
他にも助力してくれた人たちはいるんですけど一番身を投げ打ってる(ブラックジョーク)のがこの二人ですからね。そんなイミテーションです。
ラフだとかすみんの手は血塗れだったのですが、侑ちゃんと紛らわしいし明るい未来に似つかわしくないのでやめました。血塗れじゃなくてもわかりづらいけどね。
仮に侑ちゃんの手を描くなら首に置いたと思います。
二人のためにも幸せになってくれ栞子ちゃん……!
③逆十字
そんなわけで幸せを勝ち取った栞子ちゃんですけど、起こした行動は決して人道的ではない許されざる行為です。
そんなわけで逆十字、背信のモチーフを入れました。人道に対する背信ですね。
デザイン的には直球すぎてセンスないけど、画面がきゅっと締まるので必要だったと思います。
④指輪
まぁ語るべくもないんですけど。
さすがに血塗れのままじゃないのは理解してますが、栞子ちゃんの緑との対比で赤のリングにしています。
指輪から血が垂れてるようにしたかったけど、全年齢縛りに抵触しそうなのでやめました。
ついでにラフの時にあった風呂場のタイルの話もしておくと、タイルを入れると画面がごちゃつくのでカットしました。見せたいものは絞っていけの精神。
⑤栞子ちゃん
表情は二人への『ありがとう』
髪の毛は『絲』を経ているので少し白髪混じりです。
⑥破片
結論から言うと周りの破片は『ペリエの瓶』です。同時に義務感に囚われていた栞子ちゃんの殻、もしくは心だとも言える。
そして描いた本人的な狙いとしては
「ペリエの瓶がなんで赤茶色なんだ?」
と思ってくれるのを期待しています。思ってくれたかな…………。
ここまでちょくちょく言及したとおり、このファンアートは全年齢向けで、流血表現がそれに抵触する事を私は恐れています。
そんな私の遠回しな流血表現が、『緑+赤』のこの茶色のペリエの瓶。よく見るとペリエの瓶固有の緑色も入ってるんですよ。
そして茶色といえば……秋。
秋といえば……そう、二人の約束の季節ですね。
◆すまぬ
本来こういうお祭りイラスト本ってもっとわかりやすい映えイラストを載せて賑やかにやるべきだと思うんですが、今回は『参加者』ということで自分のやりたい事、原作者公認で描ける『糸』の世界で表現してしまいたい事を優先してしまいました。そこは本当、どうだろ。わからないところなんですが、Twitterで何度も言ったように今回、かつてないほどにこだわり抜いたものを作れた自負があるのでそこは良かったです。
これ実物を目にすると「こうすればよかったああああああ!!!」って延々反省会が始まるんで今だけの感情なんですけどね。
今回、素敵な企画へ参加する機会を与えてくださった主催の笹鎌愁久さん、ありがとうございました!
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