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海の発酵生ハム = 豚と醤油とオリーブと [vol.2 / ham]

「小豆島が薫る生ハムの作り方」

海の生ハムという小豆島らしいワードがさっそく飛び出し、これが小豆島発酵ハムのポイントなんだなーと思いきや、まだまだ出てくるこだわりの作り方や考え方。今回は実際に小豆島発酵ハムがどのようにして作られているのかを伺っていきたいと思います。

--- 石川
生ハムって僕にとって非日常感のあるちょっと特別な存在で、特別がゆえにどうやって作られているのか詳しく知らないのですがその辺りを簡単に教えていただけますか?

--- 三好さん
まず生ハムに使っている豚なんですけど、こちらは小豆島の鈴木農場の放牧豚と、オリーブの残渣を与えたオリーブ夢豚という香川県産の銘柄豚の2種類を使ってます。肉そのものが持っている酵素でタンパク質を分解して旨味のある肉に熟成していくわけなんですけど、特に鈴木さんの放牧豚はその運動量の多さから身が引き締まっていて、力強い肉質なんですね。筋肉が多いということはタンパク質も多いのでそこから作られる生ハムは旨味が強いものになっていくので助かってますね。

小豆島の鈴木農園の豚たち 豚舎ではなく放牧にて養豚。
生きている姿を知っている分、命をいただく意味を考える。
紐をつけ、骨を切り取ったり、余分な肉を削ぎ、整肉していきます

それでそのお肉を10月から2月ぐらいの秋から冬にかけて塩漬けにしていきます。瀬戸内産の粗塩を肉の奥まで行き渡るように擦り込み、40日ほどかけて冷蔵庫で保管します。

瀬戸内海産の塩を肉の厚さを見ながらすり込んでいく

その後、塩を洗い流して乾燥の工程に入ります。中国山脈からの乾いた季節風が吹く冬から春にかけて乾燥させることで気温が上がっても腐敗しない肉質に持っていくのですが、正直この行程が生ハムを作る上で一番気を使います。というのも気候の突然の変化や暖冬で気温が高くなってしまったりすると腐敗につながるので。

--- 石川
腐敗してしまったらそこで終わりですもんね。温度管理とかはどうされてるんですか?

--- 三好さん
温度管理は塩漬け工程以外では窓の開け閉め以外ではしないですね。基本的には小豆島の気候にお任せする形でやっているんですけど、そういった形でやる工房としては日本最南端かもしれません。

これは後からわかったことなんですけど、作り方のベースにしているスペインのハモンセラーノは標高の高いところで作ってるところが多いんですが、実は小豆島より暑いところで作っている工房も多いんですよ。乾燥という一番気を使う期間を比べてみるとスペインの気温の高い工房よりも実は小豆島は気温が低かったりします。

だから生ハムは標高の高いところで作るもの、1年を通して気温の低いところで作るもの。っていうのは実はイメージの話で、結果論として小豆島の気候はあっていたんですね。ちなみにこの期間に低温で育つ白カビが生えてきます。この白カビはチーズのようなコクのある香りを生み出してくれるんです。

乾燥のスピードや品質のチェックを行います

--- 石川
なるほど、小豆島は自然乾燥という意味では日本最南端なんですね。とはいえこの期間は毎日天気予報やお肉の状態と睨めっこしながら毎日ハラハラしそうですね。乾燥した後はひたすら熟成ですか?

--- 三好さん
乾燥を終えたら肉の表面に油をコーティングしていきます。これは小豆島産の無濾過のオリーブオイルとラードを混ぜ合わせて作ったもので、乾燥しすぎるのを防ぎ肉質を均一にする役割があります。

その後4月から5月ごろに醤油の麹菌を菌づけします。小豆島の醤油蔵から製麹(せいぎく)が終わった麹をもらってきて、室内に吊るすことで浮遊した胞子が肉に付着する形をとってます。

小豆島の醤油蔵から譲っていただいた醤油麹

夏はその麹がちゃんと育ってきて肉の全体が麹菌に覆われるぐらいに育つ。それが発酵ですね。この麹菌は生ハムの風味を作る重要な要素で8月をピークに発酵が進んでいきます。

最初フワッと麹カビが生えてくるんですけど、毎年それがいつかなって楽しみで。それと、その麹カビがブワーっと肉全体を表面を覆う時期が来ると今年もこの時期が来たなと嬉しくなりますね。

白カビと醤油麹の麹カビが生ハムを発酵させていく
発酵熟成中

作り始めてから最低14ヶ月熟成させた生ハムは最終的にこのカビを洗い落として、小豆島産の無濾過オリーブオイルでコーティングし、お客様のもとに届けられます。

--- 石川
小豆島の伝統産業の一つの醤油ですが、その醤油麹を生ハムに使うなんて面白いですね!またなぜ醤油麹を使おうと思ったんですか?

--- 三好さん
先ほども少し話したんですけど、肉が持っている酵素がタンパク質を分解して旨味に変えていく、そのタンパク質を旨味に変えていくのはまさに醤油がそうじゃないですか、それで麹菌が使えるんじゃないかなと思ったのが一つですね。そこで調べてみたら実際にやってらっしゃる方がいて、その方が多分初めて醤油麹を使ったんたんじゃないかなと思いますね。

--- 石川
ちなみに醤油麹を使うことで味はやっぱり通常の生ハムとの違いは出るんですか?

--- 三好さん
醤油麹を使うとやっぱりどこか香ばしい感じで、強いていうと和風っぽい感じがしますね。ヨーロッパの生ハムとはまた違う感じの生ハムになってます。ちなみに一般的にはあえてカビ付しないところが多く、するとしてもカマンベールなどのチーズや発酵サラミに使用する白カビと同じ種類を使用することが多いです。

--- 石川
オリーブオイルには小豆島産を使っているっていうのもこだわりを感じますね。ちなみにオリーブオイルを使うと味に変化はあるんですか?

--- 三好さん
オリーブオイルの風味っていうのが生ハムには少し出ますね。それと豚の油とオリーブオイル、どちらもメインの成分がオレイン酸なので相性もいいです。

小豆島産の無濾過のオリーブオイル

--- 石川
小豆島の環境をフル活用しているのが素晴らしいですね。

--- 三好さん
狙って作ろうと思ったわけではないので偶然なんですが、環境に本当恵まれているなと思いますね。材料の豚も菌付けの醤油麹もコーティングのオリーブオイルも全て小豆島で手に入ったもので、小豆島らしい生ハムになっていったと思います。

14ヶ月熟成というのは他のハムと比べると少し短い期間かもしれないんですけど、小豆島の潮風の吹く冬と湿度が高い猛暑が続く夏のダイナミックな高低差の中で、力強く旺盛な発酵力を見せてくれる醤油麹菌と白カビの存在が、短い期間であることを感じさせない独特の香りと深い味わいを醸してくれていると思いますね。

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スペインのハモンセラーノをベースにしながらも、独自の考えや小豆島の環境を利用して作られた生ハムは小豆島発酵ハムという小豆島だからできるオリジナルのハムになっていきました。最初から小豆島の醤油麹や小豆島産の無濾過オリーブオイルを使おうと思ってたわけではなく、いろいろなトライアンドエラーを経験していくうちにこの作り方に辿り着き、そして今もなお工夫し続けているとのこと。この姿勢こそが美味しい生ハムを作る秘訣なのではと思い、三好さんご本人がどういうお方なのかとても興味が湧いてきました。

次回はインタビュー最終回。

どうして生ハムを作るようになったのか、なぜ小豆島に戻ってきたのか、そして、これからのことについても伺いたいと思います。

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