限定、生涯

 「限定 クリームソーダサワーいちご」の文字を見て、言いようもなく虚しくなる。

 いちごが好き。フルーツ界の中でというより、(果実的野菜なのでフルーツではない、みたいな話じゃなく)あらゆるものの中でもいちごが好きだ。ついでにクリームソーダも。

 そんなわけで、「クリームソーダサワーいちご」の文字を見た時は流石に心が踊った。かわいらしい、鮮やかなパッケージ。好きなものしか書かれてないフレーバー。遊園地? すごいや。こんなのつい見ちゃうし手に取りたくなっちゃう。初めてテーマパークのパレードを見た時みたい。見たことないけど。ついでに言えば、「限定」なんて言葉も良い。限定と言われると買いたくなってしまう。この性質をもとに、血液型占いから逆算すると、私はO型ということになるだろう。

 しかし、ここで我に返る。「サワー」。商品名を、そこで初めて確かめる。フレーバーに目を奪われて見えていなかったそれは、間違いなく酒の名前である。伸ばしかけた手を額に当てて、天を仰いだ。

 なにがって、私、お酒が飲めない。飲んだらまずいことになっちゃうから。飲めない。こんなに美味しそうなフレーバーしてるのに。しかもこいつ、限定なのに。何限定とか書いてないけど、こういうのって多分期間限定。時が来ると終わってしまう、余命宣告済みの味。今買わないと味わえないもの……でも今も味わえないもの……。絶対に好きな味をしているのに、この瞬間に、別れが確定してしまったいちごクリームソーダサワー……。

 なんだか、この売り場にいては行けないような気がした。これ以上居たら泣いちゃいそう。脳みその裏でぱちぱち弾ける炭酸の音から意識をそらし、お買い物を進める。

 カゴにコーヒー牛乳を入れて、レジに通してもらった。持参のエコバッグにそれを詰めて、とぼとぼ家路をあるく。ときどき、一度と味わえないいちごクリームソーダサワーに思いを馳せながら。

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