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また春に会いましょう

桜の季節になると思い出すエピソードがある。

このエピソードを知ったのは、おそらく自分が小学校高学年の頃だったと思う。
随分前の記憶なので、あいまいな部分も多いと思うが、こんな話だ。

山桜の染め物

山桜の染め物と聞くと、桜の花びらをつかって染め上げることを想像するかも知れない。

実際は、花が咲くまえの蕾をいっぱいにつけた枝を使って染め上げるのだ。

不思議なもので、花が咲いてしまうとうまく発色しないらしい。

春になるといっせいに咲き誇る桜に魅了される人は多い。

だが、桜は花を散らすと葉桜となり、枝葉を広げ、もう翌年の春に向けて準備を始めるのだ。

やがて秋になり葉を落としたあとも、厳しい寒さに耐えながら、やがて来る春に、色鮮やかに咲き誇れるよう準備しているのだ。

山桜の染め物は、そうして一年かけて準備をしてきた山桜の枝を、少しだけ頂戴して染めあげる。

だからこそ、染め物を鮮やかに染め上げる。
だからこそ、人々は咲き誇る桜に魅了される。

小学生ながらに、感じるものがあったのだと思う。
春のわずかな期間、咲き誇るために、花を散らす頃から準備を始めていること。
そのわずかな期間しか人は見ていないこと。
儚いと感じたのかも知れない。

10年前、大きな震災を経験した。いまだ辛い思いをしている人もいるだろう。

そしていま、ウイルスの大流行を経験している。

だけど、季節はめぐる。

春は必ずやってくる。

その瞬間に、咲き誇れるよう、今から準備しておこう。

また春に会いましょう





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