#149_大本営参謀の情報戦記(続き)③

書籍「大本営参謀の情報戦記」の感想続きその③です。
p198~p159となります。

■1. 日本軍の敵は、銃火のみではなく、経済と民心という強力な敵があった

日本が占領しているフィリピンのルソン島(マニラがある島)では、夜間米軍の潜水艦が海岸に接近浮上して、比島人(フィリピン人)へ金銭を渡したり、情報交換をしたり、比島人とパーティをしたりしていたとのこと。

また、米軍があちこちでばら撒く紙幣には、故意に偽札も混入しており、ルソンは急速なインフレになったそう。

その為、日本守備隊の物資の現地調達が、朝は2ドルであったのが、昼には4ドルとなり、次の日は5ドルへ跳ね上がったとのこと。

これは明らかに、米軍の市場撹乱を狙った計画的謀略であったそう。

同じような話に、フィリピンのレイテ等(セブ島の東にある島)も日本が占領していたのだが、ここビサヤ地区という場所の人民が反日親米に傾いてしまった事象があった。

当初日本軍の本間軍司令官は、比島の政治に大きな影響力を持つ、ネグロス島出身の法務大臣A氏を利用する予定であったそう。

これに対し、日本本国の大本営から派遣された辻政信作戦参謀が、A氏は「比島政府の反日分子である」と決めつけ、即刻処刑を命令したそう。

これを受けて、このビサヤ地区の人民は反日親米に傾いてしまった、とのこと。

このように、戦争は銃火器でのドンパチ以外に、「民衆」という敵にも味方にもなり得る要素が存在しており、これをどちらにつけるかが、結果的に勝敗を期する要素になるのだと感じた。


■2. 情報とは目で見たものと、数字的実証以外は確実でない

太平洋戦争中、航空戦での「戦果」を確認する作業は、困難を極めたとのこと。

航空戦の戦果は、パイロットの自己申告制で、第三者が逐一確認したわけではなく、特に夜戦となると、月か星が見えるだけで、戦闘の状況を逐一確認できる訳ではないとのこと。

なお、米軍は常に戦果確認機を出動させて、写真撮影をするのが通例となっていたらしいが、日本の海軍、陸軍ともにそのようなことはしなかったとのこと。

結果として、戦果の大幅な過大評価が発生し、特に台湾沖航空戦の戦果は、顕著であったそう。

その台湾沖航空戦での戦果を誤認してしまった結果、「今こそ海軍の消滅した米陸軍を(フィリピンの)レイテ等で叩きのめす好機である」と大本営陸軍作戦課より急な作戦変更が入り、レイテ決戦で大損害を被ってしまった、とのこと。

堀氏は、「米軍戦力を何ら本質的に理解していなかった、一握りの作戦計画者の大過失であった」と語り、「その過失を第一線部隊が血で償った」としている。

情報を無視した戦略は、いかに大きな犠牲を伴うか、ということを実体験した、とのこと。

戦時中の物資や人的・金銭的制約の下では、限界があったのは事実であるが、この教訓は現代にも生かせるであろう。

特に甚大な被害が発生するかもしれない意思決定をする際には、目で見たもの(実体験・写真・動画など)や、数字的実証を伴わない事象を前提に意思決定することは、大きなリスクをはらむと考える。


■3. 作戦と情報は100年も前から別人でやるように制度ができている

堀氏曰く、作戦担当者が誤るのは、知識は優れているが、判断に感情や期待が入るからだ、と述べている。

一方、情報の仕事は、年間を通じて蓄積・研究してきた各事実(戦法の研究、戦例、日米両軍の戦力の比較、制空制海の戦理、航空機の特性など)を総合して、出たひらめきのようなものである、とのこと。

そこには、決して感情は入れるべきではなく、本質を冷徹にみる使命感が大事である、と述べている。

結果として、作戦を決める人と、情報を提供する人は、100年も前から別人でやるように制度ができている、と述べている。

堀氏曰く、情報の仕事は職人のようなものである、と述べている。つまり自身の経験を元にして、試行錯誤を繰り返し、積み上げてきた知恵と技で、なかなか教えられるものではない、とのこと。

現代に当てはめてみると、職人の情報を元に、意思決定をする経営者や投資家といった立て付けなのかもしれない。

職人(=情報の仕事)が個々の事象を総合し、一定の意見を述べるのには、膨大な量のデータと、移り変わりを見るための一定の時間、さらにそこから一定の法則やその法則から外れた「兆候」を見つけ出す為の労力が必要となる。

そこには、客観的な説明が求められ、前述のように感情や期待が入ってしまうと、主観的になってしまう。

一方で、身銭を切って意思決定をする投資家や、社員の家族の人生を担っている経営者は、期待や感情を元にビジョンを語り、人々を率いる必要があるため、この役割を分割した方が良い、というのは一理あるであろう。

とはいえ、零細不動産投資家としては、1人で役割を担うことが多々あるので、今は職人的業務をしているのか、作戦立案的業務をしているのか、を意識しながら行動することが大事なのであろう、と感じた。

■本日の学び

・1. 日本軍の敵は銃火以外に、民衆という大きな敵があった

→対峙している相手以外に、周りに足元をすくわれることがある。むしろ、そのように仕向けられることがある。また、自らそのように仕向けてしまうこともある。

不動産賃貸業では、近隣の住民や、リフォーム関連業者さん、不動産仲介会社さん、などがそれに当たるかと思う。

彼らを味方につけないと、日本軍が装備を購入できなくなったように、インフレに有ったり、兵糧攻め(?)にあったりする可能性もあるので、軽視してはいけない、と改めて感じた。

・2. 目で見たものや数字的実証されたもの以外を前提に意思決定する際は、注意が必要

→人からの伝聞や噂、現代だと真偽が不明なネット情報を鵜呑みにして、それを前提に大きな意思決定をすると、痛い目に会うリスクがある。

戦時中のように命を落とすことはそうそうないが、身銭を切って大きな意思決定をする際や、膨大な時間を費やして何かを始めようとする際、実際に見たものや写真・動画などで客観的に信頼できる情報や、数字的に実証された情報を元に判断しないと、これらの金や時間を無駄にする可能性がある。

死なない程度の金や時間なら、経験のためにどんどんやるのが大事だが、特に誰かから誘いを受けての投資話や、ダイレクトメールなどで届くお得話など、言葉巧みに騙されることもあるので、この辺のバランスはしっかり取っていきたいと思う。

・3. 情報と作戦は性質が異なるので、あくまで分けて考えるべき

→情報は、多くの客観的事実を元に統合する作業で、その統合した結果、一定の法則や例外的兆候を踏まえて、一つの意見を出すこと。

一方で作戦は、このようにしたいという感情や、こうなったら良いなという期待も込みでビジョンを立て、そのビジョンに共感して人々が動く、という一面がある。

どちらが良い悪いではなく、各々は別々の性格をもつものであるので、これらを一緒くたに考えてしまうと、何を元に決断をしたのかが曖昧になってしまい、その結果成功したとしても、失敗したとしても、次の意思決定に活かせなくなってしまうと考える。

筆者は情報と作戦は人を分けるべきと述べているが、零細不動産投資家としてはそんな余裕はないので、少なくとも今自分がどちら(情報or作戦)を実行しているのか、きちんと把握した上で行動するのが大事だと考える。

以上となります。

Twitter: https://twitter.com/earth76_
StandFM: https://stand.fm/channels/615f0da1afa93b18fc449d1f





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?