世界を新しくしてみたら

酒鬼薔薇聖斗と名乗った中学2年生の14歳の少年がどうしてあんな事件を起こしたのか?

もちろん友人も自分も精神分析の勉強をしたこともなければ、心理学の勉強をしたこともない。だから、いわゆる専門家的なことを喋るわけではない。でも、考えることくらいはできるものだ。

本を読んだ限りというか、酒鬼薔薇聖斗の視点で見る限り、彼の家族に問題はなさそうなんだけど、本当にそうかね?
本の中に山地悠紀夫の話が出ていたけど、あれも、本人の資質だけの問題なのかね?

ー快楽殺人ー

酒鬼薔薇も死っていうことに対して性的に興奮するものがあったみたいだけど、あれだよね。フロイト?的な感じでしょ。
デストルドーとエロスの関係性。
そういう精神的な部分っていうのは、誰でも持っているものかもしれないじゃないか。だけど、すべての人間がそれに拘泥するわけじゃない。
それはなんでなんだろうな?
むしろ、嫌悪感すら感じるわけなんだけどね。

友人はそんなことを話しながらビールを飲んだ。
本の内容は知らないけれど、僕のほうもそれなりに意見を言った。

確かに、山地悠紀夫に関して言えば、さらにアスペルガー症候群という疾患と言っていいのかな?そういう障害のようなものも抱えていたわけだけど、酒鬼薔薇はアスペルガーじゃないよな?
ということは、後天性の性質ってことになるわけだから、やっぱり育った環境が悪いってことになるのかねぇ。

当時の事件の報道を逐一覚えているわけではないけれど、やはり報道では家族、特に酒鬼薔薇の両親への辛辣な報道はかなりされていた。

あれ?そういえば、酒鬼薔薇の親って、医者なんじゃなかったっけ?

と、自分はふと浮かんできた疑問を友人に投げかけた。

いや、医者じゃない。普通の会社員。
努力して家族を守っているどこにでもいるお父さん。
みたいだなぁ。
家庭環境によって後天的にそういう性質っていうのは身につくものなのかね?
人間が生きる上で持っている本能みたいなものの一つに支配欲みたいなのってあるんじゃないのかなぁ。それを抑止できるかどうかっていうのが、育った環境によるといえばそうなのかもしれないな。

そういえば、アメリカでヘイトクライムがあったじゃないか。
あれって、やっぱり後天的に生まれてくる感情だよな。
おぎゃーって生まれたときに、隣に黒人がいたからって泣き止まない赤ん坊はいないだろうからな。

友人のペースに巻き込まれないように、自分は自分なりの考えを頭にまとめながらそう言ってみた。

酒鬼薔薇事件はヘイトクライムではないだろう。
残酷で猟奇的、衝撃的な事件だけど、被害者の小学生を酒鬼薔薇が恨んでいたわけでも差別していたわけでもないからな。
どっちかっていうと・・・。

そこで友人はちょっと考えて、思い出すように話をした。

ジュン君のことは好きだったみたいだよ。
とても純粋で、綺麗だと思っていたと書いてあったような気がする。
弟(酒鬼薔薇には弟が二人いるらしい)も、確かすぐ下の弟のことを嫌いでもないのに殴ることがよくあったらしい。

そういう感情は、よくわからないよな。
そう返事をしながら自分は、
「そもそも、家庭内でそんな暴力が日常的にあったのだとしたら、それを黙認していた両親には、責任があると言ってもいいのかもしれない。」
と、考えていた。

少々酒が入ってきたので、友人の意見を詳細に覚えてはいないのだけど、大体のことを書くと、

なんていうのかな?好きだからこそ汚したいっていうそういう性衝動のようなものってあるだろう?
それって、たぶんどんな男でも持っているものじゃないのか?
それがエスカレートしたのがあの事件のような気がしないでもない。
ということであれば、酒鬼薔薇は山地悠紀夫とは全然違う。
まともだってことだよな。
生物の三大欲求って、食欲・性欲・睡眠欲って言うけどさ。そもそも生きるっていうことは子孫を残すためなんだから、性欲を発揮するために食欲と睡眠欲が付いてきているようなものだとしたら、やっぱり誰でも酒鬼薔薇になり得る素質を持っているってことになるんじゃないのか?

両親とかそういうものは関係なく、性そのものをコントロールする力があるかないかで結果として事件を起こすか起こさないかっていうだけなんじゃないか?

そのとき、なんとなくラジオで聞いた芸人の会話を思い出した。

そういえばさ、前にラジオで『もし自分が絶世の美女だったら?』っていうのをおっさんが話していたんだよな。
そうしたら、一人のおっさんが、
『俺だったら、誰にでもやらせてあげちゃうよ。そりゃそうでしょ。せっかく美人に生まれてきてんだよ。』
って言っていたんだよなぁ。
それって、男の脳で考えるとそうなるよね。むしろ、男の願望がそこにあるから、そういうことを考えられるっていうか・・・。

友人は大笑いして、「わかる!それわかる!」と言っていた。
確かに変な理屈かもしれないけれど、そういう考え方もあると思うところもあるし、理解ができるかどうかと言われたら理解できることになる。

友人は笑いながら言う。
「つまりさ、性のイニシアチブは女性が持つ方がいいんだよ。」

それって、「私としたいんでしょ?だったらやらせてあげるわよ。」っていうことか?
なんか、男のロマンというか、ポルノ的展開じゃないのか?

普段そんなことを話さない友人がいきなりそんなことを言うので面食らってしまった。いきなり下ネタか?

というかね。女性の方が、そういうイニシアチブをとって、男の性欲のようなものをコントロールできれば、そういう犯罪は起こらないんじゃないかって思うんだよ。そういうのが、倫理的に問題があったり、精神的に受け入れられないからそういう社会じゃないけど、そうじゃない社会だったら、ありだろう?
あれだよあれ。ボノボの社会ってそうじゃなかったっけ?

確かに、アフリカに生息する類人猿のボノボはチンパンジーの社会とはまったく違う社会を持って生息しているっていうのは聞いたことがある。

それって、『新世界より』で出てきた社会じゃないのか?

あぁ、そうそう!
友人は手を叩いて自分を指差した。

あの小説の設定は、土台に無理があったし、結果は理想とは全然違ったってことなんだろうけど、暴力をコントロールするっていうのは、そういうところから学ぶべきところもあるんじゃないかって考えることがあるよ。

そんなことをいきなり言われても、今の社会がそうなるなんてまったく想像できない。
それに、確かボノボの社会では、性のイニシアチブを女性がとっているわけでもなかったような気がしていた。

女性男性の話ではなく、要は、性の解放ってことか?
それで、暴力は無くなるのかねぇ。

酒鬼薔薇の話からとんでもない方に向かって話は進んでいった。
友人は、「そもそも、女を男が所有している的な社会構造がよくない。」
「何かを所有する。私有財産なんて、社会から見ればものすごく非合理的で、さらに、それが暴力を産むのに、どうして人は私有財産を放棄しないんだろうな?」
「あの小説は、酒鬼薔薇にとっては本当のことかもしれないけど、それが真実だと思わないで読めばいい。」
そんなことを言いながら、結果酔いつぶれてしまった。

いい夜だった。
そして、男っていうのは、つまらん生き物だとつくづく思った。

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