信号無視おじさん

 私は土曜日の朝刊をコンビニに買いに行く習慣がある。いくつかの新聞で書評欄がある日だからだ。
 一番近いコンビニはローソンで、そこのローソンでは大体朝九時前に行けば、目当ての日経と毎日が手に入る。シーツを洗ったり毛布を洗ったりして九時過ぎになってしまう日は、日曜日の読売を狙う。そんな感じでここ二、三年その習慣を続けている。
 ローソンに行くには◎◎街道という別名の付いた道を渡らねばならないが、休みの日の朝は車通りが少ない。ローソンより五十メートル離れたスーパーの前の信号は押しボタン式だが、こんなん赤信号でも渡ってええやろ。
 するとけたたましい声がスーパーの方から聞こえる。
「信号無視! 信号無視!」
 しまった、信号無視おじさんがいた。

 信号無視おじさんは、スーパーの前のベンチを根城にしている。スーパーが開いている時間にいることが多いが、開店前にも陣取っている時がある。そして、目の前の横断歩道をさっとわたる輩に、「信号無視!」と大声で威嚇するのだ。「条例違反!」と付ける時もある。信号無視が本当に条例違反なのかはよく知らない。道交法違反じゃないんだろうかといつも思う。
 信号無視おじさんは冬の日も、最高気温が三十六度の暑い日も、ほとんど毎日かかさずそのベンチに座っている。もちろんずっと居る訳ではないのだが、多分、人が多い時間帯を狙ってそこに居るのだと思う。

 信号無視おじさんは、何を目的として「信号無視!」と言い続けているんだろうか。正直に言って、彼の声は大きすぎ、いくら信号無視をする人が悪いとはいえ、単純に近所迷惑だし、信号無視していない人でもビクッとしてしまうので、やめて欲しい。
 でも、「お父さん、そんなことやめときなよ」と言ってくれる家族が近くにいないのだろうなと思う。とはいえ、もし家族が言っても彼は聞かなそうな気もする。案外、「お父さんはまた『出勤』したよ」と、家では彼の不在を喜んでいるのかもしれないなとも思う。だからこそ彼は『出勤』するのだ。熱中症になる危険をおしてでも。
 そして、彼の言うことは正しいのだ。正しいから、批判できない。彼はそれを分かっているから、不届き者に信号無視と言う仕事(?)を続けているんだろうと思う。正しい所から人に注意するのはさぞかし気持ちがいいんだろう。気持ちいいのかなあ。私がもし真似をしたら、緊張して最初の「し」が震えてしまうだろう。信号無視をした人が、「なんだ? このやろう」とやってきたらどうしようと、おじさんは思わないから言えるんだろうとも思う。

 そんな与太話。

 今週はそんな感じで。

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