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アニマルウェルフェア慈善団体に係る報告

こちらは“Animal welfare report”の日本語訳です。


要約[1]

注意:このページが最後に更新されたのは2020年です。私たちの見解の全体像に変わりはありませんが、一部の詳細は現在の状況を反映していないかもしれません。

毎年、少なくとも750億頭の陸生畜産動物と1兆匹以上の魚が食用に屠殺されています。そうした動物のほとんどが、非常に不快な環境で生きていたり、極めて苦痛が多いと思われる方法を使って殺されたりしています。〔例えば豚と魚では判断が変わるかもしれませんが〕平均で見たときに、畜産動物の生命は人間の生命と比べれば遥かに重要さに欠けるとか、道徳との関係が極めて薄いと考える場合でさえ、畜産動物の数と、畜産動物が経験していると考えられる苦境の度合いがあまりに大きなため、集約的な畜産は、この世界に存在する大部分の苦しみが湧き出る源泉となっています。

気が滅入る状況ではありますが、希望がもてる理由もあります。近年、アニマルウェルフェア運動は急速に進展しました。多くの大企業は自産業が行う非常に有害な慣行を徐々に、または一挙に減らすことを宣言してきました。複数の政府がこうした実践の一部を完全に禁止してもいます。また、プラントベース・ミートなどの代替タンパクの商業化に取り組んでいる企業は、投資家から何十億ドルも調達することに成功してきました。それでもまだ、畜産動物のウェルフェアが見過ごされている度合いは極めて高いと言えます。2017年、アメリカの慈善基金の僅か0.03%だけが、この課題領域に費やされました。アジアにおける鶏、魚、そして動物一般のウェルフェアにかかわる問題はとりわけ重要でありながら、そこに提供される資金が不足しています。

この領域で寄付の推薦先を決めるために弊団体〔ファウンダーズ・プレッジ(Founders Pledge)〕は Farmed Animal Funders のスタッフや一部のメンバーと提携を組みました。同団体は資金提供者のための学習コミュニティであると共に、動物保護活動のための助言を行う主要な慈善団体であり、弊団体ともその価値観の多くを共有しています。多くの団体が、畜産動物のアニマルウェルフェアを推進するために優れた仕事を続けています。あらゆる団体を精査できたわけではありませんが、ともかくも弊団体が調べられた範囲で特に推薦するトップの団体はこちらになります(アルファベット順に並べています)。

  • Albert Schweitzer Foundation は、ドイツに拠点を置く動物保護慈善団体です。アニマルウェルフェア運動の内部でも、見過ごされた課題領域に特に力を入れており、企業活動を改善するよう農業企業を相手取って訴訟を提起しています。

  • Compassion in World Farming USA はとりわけ残酷な畜産慣行を排斥するキャンペーンを行う団体で、畜産動物の福祉基準を向上するために企業と協力しています。また、タンパク質源を多様化し、肉の生産と消費を地球規模で減らす企業の取り組みを促しています。

  • グローバルフードパートナーズ(Global Food Partners)は優れたアニマルウェルフェア・ポリシーを実行し、アニマルウェルフェアの取り組みを改善できるよう、アジアの食品企業〔やホスピタリティ企業〕、農家と協働するシンガポールのコンサルティング会社です。

  • The Good Food Institute 世界中の政府や企業、科学者と協働して、プラントベース・ミートや培養肉を使った製品の開発を加速させようとしています。同団体は消費者の要求を満たし、集約畜産による種種の好ましくない帰結を回避することによって、産業動物の肉に置き換わることができるような製品の開発を目指しています。

  • ザ・ヒューメイン・リーグ(The Humane League)は世界中の工場式畜産農場で生きる動物たちの生活条件を向上しようと働きかけています。そのために同団体は地球上の主な市場ごとに存在する国際支部やオープン・ウィング・アライアンス連合のメンバーを通じて、より高いアニマルウェルフェア基準を実装するよう企業に圧力をかける手法をとっています。

諮問委員 

 ファームド・アニマル・ファンダースの以下のスタッフとメンバーが推薦団体の選定に携わりました。同団体の他のメンバーは、この記事の内容を確認していないこと、また、推薦団体の選定に携わったすべてのスタッフとメンバーは個々人の能力の範囲内で参加したことを注記しておきます。

 Kieran Greig は、2018年9月からファームド・アニマル・ファンダースとコンサルティングを行っている唯一のアナリストです。彼はそれ以前には、アニマル・チャリティ・エヴァリュエーターで調査員として働き、またチャリティ・サイエンスでは、世界的貧困への介入策の体系的な分析を行っていました。彼はモナシュ大学の理学士号とラ・トローブ大学の修士号を所有しています。

 Mikaela Saccoccio はファームド・アニマル・ファンダースの事務局長です。同団体は、工場式畜産と戦う慈善団体の取り組みに毎年250,000米ドル以上を寄付する寄付者から成る学習コミュニティです。それ以前、彼女はザ・ヒューメイン・リーグや、West End House Boys & Girls Club で働いた経験があります。またウィリアム・アンド・メアリー大学では女性学の研究に力を注いでいました。

 1. 何が問題なのか?

 このレポートでは、ファウンダーズ・プレッジの会員が畜産動物の苦しみを減らす取り組みを支援するための最善の方法をお伝えします。最初に、現代の集約畜産産業の規模と、この産業がどれほど動物たちを苦しめているのかを説明します。次に、さまざまな団体が動物たちの苦しみを減らすためにしていることと、どのアプローチが最も見込みのあるものなのかを述べます。最後に、寄付が大きなインパクトを生みだす可能性の高い5つの団体を紹介します。これらの団体は、資金提供者のための学習コミュニティであり、動物保護分野の慈善活動に助言を行う主要な団体、ファームド・アニマル・ファンダース(Farmed Animal Funders, FAF)の諮問委員からの推薦によるものです。 

1.1. 工業的畜産の規模

 毎年、少なくとも750億頭の陸生畜産動物1 と1兆匹以上の魚が屠殺されています。2それほどの数になると、その大きさを把握するのは困難です。その数字が意味しているのは、毎年、毎日、毎秒毎に2000頭以上の陸生動物と25,000匹以上の魚が殺されているということです3  750億という数は、現在の地球人口よりも10倍大きな数ですし、これまで生まれてきた人間の総数とほぼ同数です。4
畜産業がこれほどまでに巨大化できたのは、技術発展と産業集中に後押しされた集約化のおかげです。5 新しい道具や手法のおかげで農家は多くの作業を自動化し、動物を屋内で飼養する収容システムの利用を拡大することができました。農家の数は減る一方で、個々の農場の規模は遥かに大きくなっています。この傾向が生産コストを引き下げ、農家がさらに多くの動物を育成することができるようになりました。その間、世界的な所得の増加により、肉への需要も増えています。結果、世界全体の肉の生産量は1961年から400%増えました。6

世界の食肉生産量(1961-2021年)

種ごとの内訳

一部の種は他の種よりも大きく集約化による影響を被っています。食用に殺される動物のほとんどは魚です。1兆匹以上の魚が毎年殺され、そのうち1,000億匹が養殖場で育てられています。7 毎年殺されている陸生の畜産動物のうち、90%が肉用か卵用の鶏です。ある任意の時点で生きている鶏の数は237億羽で、そのうち75億が採卵鶏、140億が肉用鶏です。8,9 年間の屠殺数がとりわけ大きな畜産動物には他に牛(3億頭)、豚(15億頭)、羊とヤギ(10億5千万頭)がいます。

いま挙げた中から四種類の畜産動物について、推定される毎年の屠殺数を以下のグラフにまとめました。次節では、何兆何億頭ものこうした畜産動物たちがどのような環境で生き、死んでいくのかを述べます。

図1:(取り上げる四種の)畜産動物の年間屠殺数

出典:FAOSTATのデータから著者作成

1.2.畜産動物の生活条件

地球上の90%以上の畜産動物と、米国の99%以上の畜産動物が集約システムに収容されています。10,11 集約システムが動物の福祉に与える影響はとりわけ悪いものです。この節では、集約畜産農場で動物たちがどう扱われているのかを説明します。それぞれの種を別個に取り上げるのは、集約化がもたらす影響が種ごとに異なるからです。一般的な傾向として、集約化が肉用鶏や豚、仔牛、採卵鶏に与えた影響が最悪であるのに対して、牛のように牧草や飼葉を主な餌として育てられる動物への影響は、比較的小さいものに留まっています。12

魚の状況

魚の生活条件には不確かな部分が多いものの、魚の健康とウェルフェアには様々な懸念が掲げられてきました。養殖場での高い収容密度と汚染された水は、酸素欠乏や魚の健康への悪影響につながると考えられています。13 毎年1,100億匹の養殖魚が殺されていることを考えると、養殖場での高い死亡率は極めて懸念すべき事項です。14

 図2:養殖場の過密飼育  

出典:Marian Swain, "Plenty of Fish on the Farm," The Breakthrough Institute, April 13, 2017, https://thebreakthrough.org/articles/plenty-of-fish-on-the-farm

魚の屠殺方法に対する懸念も高まっています。他のほとんどの動物とは異なって、魚について人道的な屠殺方法の使用を要求し、保護する規制は存在しません。15 養殖魚や人間に捕獲された魚のほとんどが窒息死し、長時間に渡る苦痛と、おそらくは痛みに満ちた死を経験している可能性が高いです。16 毎年、何兆何億の魚が捕獲されていることを鑑みると、これは極めて懸念すべき事柄です。 

鶏の状況

現在生きている240億匹の鶏の70%以上が集約畜産システムに収容され、過密で不快で、不健康な状況下で生きています。
経済効率を上げるために、肉用鶏は人為的な選択により最大限早く成長するよう品種改変されてきました。17これが、以下のような様々な問題を引き起こしています:

  • 加速的な成長がもたらす臓器不全。Compassion in World Farming の推定によると、ヨーロッパの0.1パーセントから3パーセントの肉用鶏が屠殺体重に達する前に突然死症候群(Sudden Death Syndrome)と呼ばれる心臓病により死んでいます。18

  • 異常骨格形成のために一部の鶏は歩行困難にもなります。19 約1%の肉用鶏の死亡要因は足の奇形です。足の傷害から直接死ぬこともあれば、食事や水にたどり着くことができないために、飢えて死ぬこともあります。20

  • 16の亜種を含む7,500羽の肉用鶏の研究が明らかにしたのは、成長が速い鳥の活動量が少ないことです。なぜこれを懸念すべきかと言えば、活動の少なさは鶏が動けないことの兆候かもしれないですし、あるいは皮膚の状態や足の疾病などの健康問題を引き起こすかもしれないからです。21この研究では、北アメリカで最も広く育成されている「従来型の」育種75%が足に疾病を抱えていることが明らかになっています。22

  • 肉用鶏も大規模かつ密集した群れで飼われています。肉用鶏も互いに傷つけ合ったり、共食いすることもあります。これを防ぐために、肉用鶏の嘴の一部を生後早い段階で取り除くのが一般的です。23

図3:集約農場で育成中のヒヨコ

出典:ウィキメディア・コモンズ

普及している鶏のもう一方は、卵用に育てられている雌鶏です。採卵鶏は通常、その一生のほとんどをバタリーケージと呼ばれる個別の囲いのなかで飼われています。バタリーケージは鋼のワイヤーで作られ、500㎠ほどの大きさしかありません。A4紙一枚よりも小さいサイズです[2]。24バタリーケージが、鶏のウェルフェアに極めて悪い影響を与えていることは確からしい事実です。バタリーケージでは、鶏は動き回ることもできなければ、餌の探索や羽の手入れ、社会的行動をとることもできません。25

図4:バタリーケージ内の採卵鶏

出典:ウィキメディア・コモンズ


その他の畜産動物の状況

他の幾種類かの陸生畜産動物も、農業の集約化によりネガティブな影響を受けてきました。例えば、集約的な養豚場があまりに過密であるために、豚たちは互いに噛みついたり、互いを傷つけたりするのが一般的です。こうした損傷を防ぐために子豚はたいていの場合、歯を根こそぎ除去されるか、切断され、尾を切り取られます。26 雄豚は攻撃性を減らすために去勢されることがしばしばです。27 世界で最も豚の数が多いのは、畜産業の工業化が急速に進展する中国です。28しかしすべての種が同程度に影響を受けてきたわけではありません。北米の多くの肉用牛はその生の大半を牧草地で過ごし、集約的な肥育場に移されるのは、屠殺までの数週間だけです。29牧草地で育てられた乳牛の産業は森林破壊と気候変動を促進しますが、30 肉用牛や乳牛は集約畜産場の鶏よりは遥かによい状況にあるというのが私たちの受けた印象です。

 図5:牛の肥育場を撮影したドローンからの映像

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/transcoded/f/f1/ANZCO_Wakanui_feedlot_drone_footage.webm/ANZCO_Wakanui_feedlot_drone_footage.webm.360p.vp9.webm
出典;ウィキペディア・コモンズ

以上の事実が描き出す全体像は気の滅入るものではありますが、工場式畜産のこのような慣行が地球の隅々で行われているのかどうかはまだ不確かです。特にヨーロッパと北アメリカ以外の地域での信頼のおける体系的なデータが欠けています。加えて、こうした慣行が動物の幸福(wellbeing)に与える影響を推定する作業も困難を極めます。

1.3.動物の苦しみをどう測るのか。

世界中の多くの畜産動物が劣悪な環境下で生活し、苦痛に満ちた扱いを受けているのは明白です。しかし、人類を含む異なる種類の動物たちの苦境を互いにどう比較すべきかは全く明らかではありません。31 畜産農場にいる動物たちの意識、あるいは感じ、知覚し、主観的経験をもつ能力が、重要な考慮事項になりうる、と考えるのは理にかなっています。様々な文献から受けた全体的な印象では、畜産動物が意識をもつのは確からしい一方で、他の生物の経験が人間のそれと比べてどれくらい重要かという問いは、開かれたままです。32 この問題を体系的に解決したという試みを私たちは知りませんが、一部の倫理学者たちは、人類の経験を〔他の種類の動物の経験よりも〕ほんの少しでも多く重みづけすることさえも誤っていると考えています。33

複数の重要なパラメーターに関して、私たちが合理的だと考える範囲の見積もりを使って、インパクトの大きなアニマルウェルフェア慈善団体をグローバル・ヘルス関連のインパクトの大きい慈善団体と直接、比較する予備研究を実施しました。ここに発表した研究結果によれば、一般的な道徳的諸見解のうち、一部を前提すれば一方の慈善活動が優越し、他の見解を前提すれば他方が優越するという具合になっています。動物のウェルフェアには不確実性が多く、意思決定過程でどれほど重要視されるべきかもあまりに不確かです。34 つまり動物の苦しみをどれほど重要視すべきかという問いに対して、もっともらしい複数の回答があるということです。個々人は自分自身の価値観に沿った仕方で、十分な情報に基づいた選択を行うためには、自分自身で決断を下す必要があるということです。

1.4.集約畜産の他の影響

アニマルウェルフェアに加えて、研究者と活動家たちは集約畜産の他の影響にも懸念を抱いてきました。その中で主なものは、温室効果ガスの排出と、動物と人間の間で伝染する細菌、「人獣共通感染症」が引き起こすパンデミックのリスクが高まることです。家畜のサプライチェーンから排出される温室効果ガスは、世界全体の排出量の凡そ14.5%を占めます。35 加えて、国連環境プログラムの最近の報告では人獣共通感染症を誘発する7つの重要な要素の中のふたつとして「人類の動物性たんぱく質への需要の増加」と「持続不可能な農業の集約化」が挙げられています。36 しかし本報告では、集約畜産がアニマルウェルフェアに与える影響だけを取り上げます。その主な理由は、動物たちへの影響はあまりに大きく、それ単独で考慮に値するように思われるからです。気候変動や、グローバル・パンデミックのリスクに特に取り組みたい場合には、また別の推奨団体があります。関心のある寄付者は、そうした問題に特化したそちらの報告をご参照ください。

1.5. この課題領域はどの程度見過ごされているのか。 

歴史的には、畜産動物のアニマルウェルフェアは、その問題の規模と比較してあまりに見過ごされてきた分野です。2017年、米国で慈善事業に投入された資金全体のうち畜産動物分野に向かったのはたったの0.03%でした。37 広い意味でのアニマルウェルフェアの分野でも、畜産動物はとりわけ見過ごされています。アニマルシェルターはアニマルウェルフェアの分野に投入される資金の66%を受け取りますが、アニマルシェルターで1匹の動物が死ぬたびに3,000頭の畜産動物が死んでいます。38 近年、畜産動物の分野に投入される慈善的資金の量には大幅な増加がみられました。最新の推定では、畜産動物のアニマルウェルフェアに携わる活動団体に提供された資金は年間1億5千万ドルを超えます。39重大なのは、一部の種と地域、ある特定の問題は、その他の種40、地域41、問題よりも見過ごされたままであることです。また、1億5千万ドルはまだ、決して多いとは言えません。実際、毎年殺されている陸生畜産動物の一頭ごとに費やされている金額はたったの0.2セントに過ぎません。それに、基金や個人が教育支援の目的で寄付する600億ドルや42、個人慈善家が開発イニシアチブに提供している寄付金の年額80億ドルと比べれば、畜産動物の分野に投入されている額はずっと遥かに少ないものです。43

動物保護活動の分野内でも、地球上における資金の分布は、畜産動物の分布を反映できていません。例えば北アメリカやヨーロッパでは、一頭ごとに費やされる保護活動資金は、東南アジアや中国の140倍にのぼります。44資金提供者は、相対的に見過ごされている地域での取り組みを支援することで自らのインパクトを高めることができるかもしれません。

 図6:動物保護はアジアで特に見過ごされた課題領域だ。

Source: 出典:様々な情報源から著者作成45

代替たんぱくの開発に資金を提供する

畜産動物のアニマルウェルフェアの水準を押し上げるために直接働きかけることに加えて、一部の資金提供者は、代替たんぱく源の研究開発に投資することで、集約畜産と闘うこともできます。こうした製品は事業化可能だということで、プラントベースの肉や牛乳、卵製品の開発に取り組む企業は投資家から何十億ドルもの資金を調達してきました。ビヨンド・ミート(Beyond Meat)は上場を遂げ、2020年11月時点には百億米ドルの時価総額を有していますし46、インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)とイート・ジャスト(Eat Just)はそれぞれ14億米ドル47、2億2,200万米ドル48を調達してきました。「培養肉」は実験室環境で培養された動物細胞からできた代替たんぱく質ですが、培養肉製品の開発を目指す企業は投資家から少なくとも5億米ドルを調達してきました。49

この資金プール内でも他の問題と比べて見過ごされている度合いが相対的に高い問題があります。例えば、代替魚製品への投資は少ないものでした。50 動物製品に十分置き換わることができる代替たんぱく質開発によって集約畜産を本当に減らすことができるかどうかには論争の余地があります。51 この論争は極めて専門的で、不確定要素も多いため、様々な代替たんぱく質が広く商品化されることを期待するのが妥当かどうか、またそれがいつなのかについて、私たちは現在のところ確信を持てずにいます。 

2.最良の解決策は何か? 

近年、アニマルウェルフェアの問題には、期待の持てる進歩の兆しがありました。企業キャンペーンや政策キャンペーンが企業慣行を変え、何十億の動物の生活を改善する可能性については、現在、最も楽観的な見通しをもつことができます。そうしたキャンペーンは典型的には、複数のアニマルウェルフェア団体から成る連合が主催し、企業に圧力をかけたり、消費者に呼びかけたり、政治家にロビイングを行ったり、企業慣行を改善するために企業と協働したりすることで、企業の行動に影響を与えようとします。

こうしたキャンペーンは近年、驚くべき成果をあげています。2020年11月時点で、既に2,000社以上の企業がケージフリーシステムの実装を約束してきました。52 もしこの約束が果たされるなら、11億羽の鶏に影響があります。53 EUでは、ケージフリーの雌鶏の数は、2011年から2019年の間に約50%増えています。54 活動家たちはロビイングを通じて法制度を変えることに成功してきました。例えばヨーロッパのアニマルウェルフェア団体の連合はロビイング活動を通じて仔牛用のクレートや採卵鶏のバタリーケージ、母豚を閉じ込めるストールの禁止に成功してきました。55


図7:ヨーロッパのケージフリー採卵鶏の数(百万羽)

出典:Lewis Bollard, “Political Opportunities for Farm Animals in Europe,” Open Philanthropy Farm Animal Welfare Newsletter, September 25, 2020, https://mailchi.mp/257cf436777e/political-opportunities-in-europe

ファウンダーズ・プレッジの企業キャンペーンに関する報告では、アニマルウェルフェア団体によるキャンペーンが、企業からこうした誓約を勝ち取る上で重要な要因となっていることが示唆されています。56 企業のケージフリー宣言は何億もの鶏の生に影響を与えるため、キャンペーンは極めて費用対効果の高いものでありうるのです。費用対効果分析の結果によれば、寄付金1ドル毎に、10羽から160羽の鶏の生が影響を受けています。57

総括 

寄付者は以下の点を考慮することで、畜産動物のアニマルウェルフェアを向上する上で費用対効果の高い寄付先を、最も高い確率で見つけることができると私たちは考えています。

  • 肉用鶏、採卵鶏、魚をターゲットとする介入策に焦点を当てる。これらの動物種は地球全体でとてつもない数にのぼり、かつ最悪の虐待を受けていると考えられます。

  • 他の資金提供者たちには比較的見過ごされている国々、特にアジアの国々で働く団体を支援する。

  • 民間企業には見過ごされている、代替たんぱく製品の開発研究に資金を提供する。

  • 今述べた考慮事項が、アニマルウェルフェアに関する最優先事項です。しかしこれはこの領域の他の問題に取り組む、インパクトの大きい資金提供先が他に存在しないという意味ではありません。 

3. ファウンダーズ・プレッジが推薦する寄付先はどこか? 

我々の通常のアプローチとは異なり、畜産動物のアニマルウェルフェアに関しては、最もインパクトのある寄付先を特定するために提案されている様々なソリューションを独自に、トップ・ダウン式で評価することはしませんでした。その代わり、この問題領域で、最も費用対効果の高い寄付先を決めるため、弊団体は Farmed Animal Funders のスタッフや一部のメンバーと提携を組みました。同団体は動物保護活動のための助言を行う主要な慈善団体です。本研究のために、ファウンダーズ・プレッジのアプローチと多くを共有する同団体の諮問委員の方々と共に働けたことを嬉しく思います。

  • 多くの団体が、畜産動物のアニマルウェルフェアを推進するために優れた仕事を続けています。あらゆる団体を精査できたわけではありませんが、ともかくも弊団体が調べられた範囲で推薦するトップの団体はこちらです(アルファベット順に並べています)。

    • Albert Schweitzer Foundation は、ドイツに拠点を置く動物保護慈善団体です。アニマルウェルフェア運動の内部でも、見過ごされた課題領域に特に力を入れており、企業活動を改善するよう農業企業を相手取って訴訟を提起しています。

    • Compassion in World Farming USA はとりわけ残酷な畜産実践を排斥するキャンペーンを行う団体で、畜産動物の福祉基準を向上するために企業と協力しています。また、タンパク源を多様化し、肉の生産と消費を地球規模で減らす企業の取り組みを促進しています。

    • グローバルフードパートナーズ(Global Food Partners)は優れたアニマルウェルフェア・ポリシーを実行し、アニマルウェルフェアの取り組みを改善できるようアジアの食品企業〔やホスピタリティ企業〕、農家と協働するシンガポールのコンサルティング会社です。

    • The Good Food Institute 世界中の政府や企業、科学者と協働して、プラントベース・ミートや培養肉を使った製品の開発を加速させようとしています。同団体は消費者の要求を満たし、集約畜産による種種の好ましくない帰結を回避することによって、産業動物の肉に置き換わることができるような製品の開発を目指しています。

    • ザ・ヒューメイン・リーグ(The Humane League)は世界中の工場式畜産農場で生きる動物たちの生活条件を向上しようと働きかけています。そのために同団体は地球上の主な市場ごとに存在する国際支部やオープン・ウィング・アライアンス連合のメンバーを通じて、より高いアニマルウェルフェア基準を実装するよう企業に圧力をかける手法をとっています。


脚注

  1. 本文中の注に関しては原文を参照してください。

  2. 公益社団法人畜産技術協会から令和2年に公開された「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針」では、「鶏1羽当たりの飼養スペースについては、死亡率を調べた海外の知見等からは、430~555 ㎠とすることが推奨される」(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-46.pdf, p. 9)とあります。また2022年10月24日現在、農林水産省がパブリックコメントを求めた「採卵鶏の飼養管理に関する指針(案)」(2022年5月23日0時0分受付開始~2022年6月21日23時59分締切)でも、「鶏1羽当たりの望ましい飼養スペースは、死亡率等との関連を調べた国内外の知見等からは、飼養密度について鶏1羽当たり 430~555 ㎠とされている。」(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000235992, p.9)とあります。飼育密度と死亡率が関係するのは、密度が高いと鶏の身動きが取れなくなるため、攻撃的な行動が減るからです。

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