具体的なバイオセキュリティプロジェクト(中には大きなものも)
ここで挙げるのは、長期主義的観点から見たバイオセキュリティープロジェクトのリストです。 これらのプロジェクトのほとんどが、現在のレベルに対して(相対的[1]な意味で)1%以上、あるいはそれ以上の割合で破滅的なバイオリスクを軽減することができると私たちは考えています。これらの各分野で取り組むべき重要な活動があるとは思いますが、個別の道筋に対する私たちの確信度は大きく異なり、それぞれのアイディアの特殊性については十分に調査されていません。
それでも、これらの分野はバイオセキュリティのインフラにおいて重要な部分だと私たちは考えており、その進捗を確認していきたいと思います。ご参加いただけるプロジェクトに関しての最新情報を受け取りたい方は、こちらのGoogleフォームをご記入ください。
早期発見センター
生物学的に脅威となるものを早期に発見することで、その対応に使える時間は長くなります(例:適した対策を練る、防護具を使う、シェルターに入る)。しかし、新しい病原体に対する早期警戒アプローチは、現時点において、ほとんどないものと言っても良いでしょう。現状、特に観察力の鋭い医師が異変に気づいたうえで、他のすべての検査が陰性となることが必要となるでしょう。また、現在のシステムは、既知の病原体に焦点を当てていますが、未知の病原体を検出することができる既知の病原体に依存しないシステムを使えば、もっとうまくいくはずです。
具体的な目標として挙げられるのは、少人数のチームが世界中のボランティア旅行者からサンプルを収集し、危険だと思われるものをメタゲノムで完全にスキャンするというシンプルなものです[2]。1日にわずか100個のサンプルをランダムに収集し分析するだけでも、シナリオによっては大きな違いが生まれると考えられます。というのも、世界の人口の大部分が感染する前に、事態を把握することができると期待できるからです。、適切なチームがいれば、既存の技術とほぼ同じような方法を使い、年間5,000万ドル(約6.6億円[3])以下でこのようなことが実現できるでしょう[4]。
ボトルネックとなる要素は少数で、この問題はさまざまな方法で分解できます。分解した小さな問題に着手するために、チームメンバーの一人(Ethan)がリストを作成しているので、この記事にバックリンクしておきます。
スーパーPPE
個人用保護具(PPE)の多くは、十分な性能を備えているとは言えません。 マスクやスーツは適切に装着するためのトレーニングが必要であり、再利用性に欠け、一般的には最も過酷な状況というよりは日常的な用途向けに設計されています。 極端な用途のために設計されたごく少数のPPE(BSL4スーツや軍事用PPEなど)は、かさばり、制約が多く、数も十分ではないため、必要であれば何百万人もの医療/製薬/必要不可欠な労働者に簡単に着せることができる、というようなものではありません。優れた材料科学と製品設計によって、極端なケースでも高い効果を発揮し、使いやすく、長期にわたって信頼性があり、安価で大量の次世代PPEを開発することは十分可能だと思われます。
具体的な商業目標の1つは、重度の免疫不全者が比較的普通の生活を送ることができるように設計されたスーツ(および付随するシステム)を、米国政府が戦略的国家備蓄(Strategic National Stockpile)用として1億着購入するのに十分な低コストで製造することです[5]。もう一つの目標は、例えば炭疽菌の直撃を防ぐなど、そのスーツが軍事級の仕様にも同時に対応できるようにすることでしょう。
PPEは、ワクチンや多くの医療対策とは異なり、脅威が何であるかを知る前に備蓄することができるため、真に「病原体にとらわれない」という利点があります。 また、物理的な障壁は病原体工学技術によって簡単に突破されることがないため、「防御的に安定している」(これに対し、多くの医療対策は、独創的な方法で手を加えることで破られる可能性がある)といえるでしょう。この点については、カール・シュルマンの投稿を参照してください。
PPEの問題に着手するために、チームメンバーの一人(Ethan)が、今後PPEについて詳しく説明したものを公開する予定です(バックリンクは近日公開)。
医療対策
破滅的なバイオリスクに対する医療対策(例:ワクチン、抗ウイルス剤、モノクローナル抗体)には、数多くの欠点が存在します。 大抵の場合、これらの対策は既存の病原体(例:天然痘ワクチン)に合わせたものであり、新規の脅威には役立たないでしょう。また、多くの対策は意図的な工学的攻撃に対して堅牢だとはいえません(例えば、抗生物質は薬効範囲が広いものの、耐性が獲得されることで克服されてしまう)。
地球規模の破滅的バイオリスク級の脅威に対する医療対策を抜本的に改善する機会が、いずれ訪れると考えています。1)特に深刻な脅威に対する標的型対策(または一群の脅威に対する広範な対策)、または、 2)意図的な敵対者に対しても信頼できる保護を備えた、迅速に対応できるプラットフォームの構築。
しかし、医療対策分野のプロジェクトの多くは、不注意によるリスクと隣り合わせであり(例えば、ウイルスベクターを使用するプラットフォームは、ウイルス工学技術を加速する可能性がある)、大規模プロジェクトにおける重点分野として医療対策を推奨するには至っていません。 もし、この分野での研究に興味があれば、こちらのGoogleフォームにご記入ください。より適切なアドバイスを差し上げることができるかもしれません。
生物兵器禁止条約の強化
生物兵器を禁止する国際条約である生物兵器禁止条約(BWC)は、現在、わずか4人のスタッフで運営されており、いかなる検証も行われていません。 この条約を強化するための独創的な方法(内部告発の賞など)や、新しい二国間協定の締結、お役所仕事による弊害を回避するなどの余地がまだまだあると私たちは考えています。 さらに、公開されている情報(例:出版物の記録、職務内容、機器のサプライチェーン)をくまなく調査するチームがあれば、研究室が悪い研究をしておきながらその罪から逃れるような事態を防ぎ、それによって条約を強化できる可能性があるでしょう。
殺菌技術
物理的な原理(例:放射線)や広義の防腐性(例:過酸化水素、漂白剤)を利用する殺菌技術は、分子の詳細に依存する殺菌技術(例:グラム陰性菌に有効な抗生物質)と比べ、広範囲に利用可能で、抜け穴を工作するのが難しく、デュアルユース (平和と軍事、両方の目的で使用できる)における否定的な側面が小さいという利点があります。
物理的に殺菌をする既存の技術(例:紫外線、抗菌表面の材料科学)は、コスト、利便性、実用性の面でそれぞれ限界があり、予防・対策目的の開発において未開拓の領域であるといえるでしょう。この分野には不確定要素が多く残されているものの、調査する価値は高いと考えます。
避難所
既存のシェルターはかなりの保護機能を備えていますが、破滅的なパンデミックから身を守るために特別に設計された避難所(例:病原体に依存しない広範なテストを行いながらいくつかのチームを定期的に入れ替え、「文明再起動パッケージ」を追加し、さらには保護された空間から生体対策を開発・配備する能力も有する)を作成する余地があるのではないかと考えています。このようにして、人類の一部が常に、効果的なやり方であらかじめ隔離できることになります。
以下のような捉え方もあります。火星に自立した居住地を作ればバイオリスクを大幅に軽減できると考えている人は多くいます(私たちも基本的にはそう考えています)。もしそうであるなら、地球上に全く同じインフラを設置した方がずっと安く済むでしょうし、ほぼ同じ量の防御を得ることができるでしょう。
この次のステップは、必要な設備を備えた避難所を実際に建設するのに必要な運営、物流、請負業者との関係を専門にする組織を作ることです(チームメンバーのASBが行った簡単な調査によると、外注した場合、シェルターあたり約100億〜400億円程度になる見積もりましたが、ASBは物流に関する専門知識や、深く調べる時間を持ち合わせてなっかことを断っておきます)。後日この記事にバックリンクする予定ですが、さしあたってご興味がありましたら、このフォームをご記入ください。
結論
特に強調しておきたいのは以下の点です。
全体として、これらのプロジェクトは、かなりの工学的技術や経営の才能、多額の資金を必要とする可能性があります。経営の才能は他の人材や資源を効果的に配備するために必要であるため、最大の制約は経営陣を見つけることになるかもしれません。
最も有望な介入策の多くは、生物学や生物工学の技術的専門知識がボトルネックになっているわけではありません。バイオ分野での活動を希望する技術志向のEAメンバーは、他の工学分野での研修を検討すべきです。一般的に、生物学の知識を得ることだけに集中するのではなく、ジェネラリストとして工学や問題解決能力を身につけることに目を向けるべきでしょう。
これらのプロジェクトは、(少なくとも長期的な介入策の多くと比較して)良好なフィードバックループを持ち合わせているため、この分野はメタEA介入、特に起業家活動あたりの介入策としても有望な実証の場となっています。
バイオセキュリティの介入策は有望で拡張性が高いと考えていますが、必ずしもバイオセキュリティが長期主義的な取り組みの中で、現在よりも大幅に大きな割合を占めるようになるべきだとは思っていません。 純粋に長期主義的な視点に立てば、たとえバイオセキュリティ問題を解決する方がAIを解決するよりも(おそらく何十倍も)容易であるとしても、バイオセキュリティよりもAIの方が10倍から100倍ほど重要だと考えています。バイオセキュリティ分野は、長期主義的でない理由による課題領域としても魅力的です。完全に文明を滅ぼすには至らないものの、恐ろしいほどの大災害(例:10-100倍のCOVID)を防ぐことの重要性を考えると、現在世代へのインパクトに重点を置く人々にとっては、相対的により魅力的な分野となり得るでしょう。
重なりますが、このフォームに必要事項をご記入いただければ、最新情報を送らせていただきます。
脚注
E.g. if biorisk was 1% in the next century, each of these interventions would cut the absolute risk of catastrophe by at least 0.01%
This version of a ‘sentinel system’ is going to be neglected by traditional public health authorities and governments because they won’t be searching for engineered threats designed to elude pathogen-specific detection tools.
2022年12月30日時点のレート(1ドル = 132円)で計算しました。
Another discussion of this idea, a ‘nucleic acid observatory,’ can be found here.
One possible downside risk is that adversarial countries might interpret such a huge bulk purchase of PPE as being evidence or preparation for strategic biological warfare, leading to an arms race dynamic. The company should therefore be cautious about how it messages and should also liberally sell this equipment everywhere in the world to signal defensive intent.