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大日本報徳社『報徳』への寄稿 第2回

大日本報徳社の『報徳』2023年9月号(九月一日発行)に2回目の投稿を掲載していただきました。
今回は、信用金庫で取り組んだ経営改善支援の事例から、経営者の経営改善努力に感じた報徳思想「積小為大」「分度と推譲」「遠きをはかる」などについて書き綴ってみました。
 
初回の「地域金融機関による事業者支援の現状」に対して「筆者は何者か」という問い合わせがあったようで、事務局から相談いただき、肩書きを「中小企業診断士」といたしました。
 
地域金融機関の事業者支援と報徳
第二回 事業者支援の具体的事例と報徳精神

前回、地域金融機関の中小事業者支援の現況について寄稿したところ、大日本報徳社の事務局から連続投稿のお勧めをいただきました。私がご提供できる話題は、地域金融機関での勤務と中小企業診断士としての経験から得られた知見が中心となりますので、「地域金融機関の事業者支援と報徳」を共通のテーマとして、再び投稿させていただきました。
今回は、二〇一〇年から勤務した信用金庫で経験した事業者支援の具体的な事例と支援活動に際して感じた報徳精神について振り返ります。
 
地域金融機関による事業者支援
私が信用金庫に入庫して最初に担当したのは、事業者支援業務でした。
当時はリーマン・ショック(二〇〇八年九月)に端を発する世界的な不況の下、地域金融機関は、二〇〇九年十一月に成立した「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(略称「金融円滑化法」)に沿って、貸出金の元本返済猶予を含む条件変更や返済負担軽減のための借換えに広く応じることで事業者への資金繰り支援を行いました。
この間、経済産業省では、中小企業診断士や税理士などの専門家を無料で事業者に派遣して経営改善をサポートする事業を整備していました。地域金融機関はこの事業による専門家派遣を活用して、事業者の経営改善計画の策定と実行において、事業者の本業支援にも取り組みました。
私の勤務した信用金庫でも、借入金の条件変更や借換えに対応した事業者の中から、経営改善の可能性がある事業者を「支援先」として選定し、派遣する専門家と協力して経営改善計画の策定と実行を支援しました。

支援先へ専門家を派遣した具体的事例
例えば、ある会社(以下では「A社」)の社長は、前社長から事業承継したばかりのタイミングで、リーマン・ショックの影響を受けて売上減少により借入金返済が滞り、借入金の条件変更(一定期間の元本返済猶予と返済期限の延長)を行いました。信用金庫は、A社を支援先に選定し、中小企業診断士X氏(以下では「X診断士」)に専門家派遣事業による支援を依頼しました。
A社の社長は、借入金の条件変更を迫られたことで自社の財務状況の悪さに気付いたのですが、その時点では売上高に比べ過大な借入金の返済負担の圧力を感じ、経営者としての自信を失っていたようです。「こんなボロ会社、継ぐんじゃなかった」といった愚痴も聞こえてきました。
X診断士の支援を受けて三か月ほどで完成した経営改善計画では、実現可能な売上高を基に、採算管理と営業活動の強化、経費抑制により早期の黒字化を実現、借入金返済を進めて十年後には内部留保を蓄えて強固な財務基盤ができるというストーリーを描くことができました。
A社の社長は、具体的な方策を盛り込んだ経営改善計画を策定したことで、自社の経営改善が実現できるという自信を取り戻しました。数年後には計画を上回る経営改善を進めたばかりでなく、地域活動や業界団体の活動にも積極的に参加し、地域に欠かせない事業者として周囲の信頼を得るようになったのです。
 
具体的事例から感じた報徳精神
A社の社長は、採算ラインを踏まえた受注獲得のための営業活動と効果的な経費支出の管理に地道に取り組み、計画した経営改善のストーリーを実現していきました。「至誠と勤労」「積小為大」に通じる行動です。支援先の中には、地道な改善活動を継続できず、借入金の条件変更や借換えを繰り返すケースも目に付いただけに、順調に業績を回復させた社長の経営手腕は記憶に残るものでした。
また、信用金庫がX診断士との関係を構築していたこと、X診断士が社長の信頼を得るに十分な力量を備えていたことは幸運でした。社長が経営意欲を高めたのは、経営改善計画により、将来に希望が持てたからです。ここには、「遠くをはかるものは富み、近くをはかるものは貧す」という言葉に通じるものがありました。
経営改善計画の策定は、「分度を立てる」ことでもあります。それにより経営改善を実現して地域活動や業界活動に力を注いだ社長の行動は、「推譲」と言えるでしょう。
事業者の経営改善の取組みにおいては、「至誠と勤労」「分度と推譲」「遠くをはかる」といった報徳精神の実践が重要であることを認識することができました。これは、事業者支援業務を担当しなければ得られなかった知見です。
 
むすび
今回取り上げた事例には、『報徳』本年五月号で三戸岡道夫先生が紹介されていた岡田佐平治による豊田郡深見村の復興に共通するものを感じます。報徳の精神は当時も今も、地域に生きる人々に力を与えてくれるのです。
今後、中小企業診断士として事業者支援に取り組む中で、今回の事例とそこから得られた知見を支援機関・支援者や支援を受ける事業者に広く伝えていきたいものです。
(中小企業診断士)
 

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