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神域リーグに学ぶ麻雀 No.01【ダマテン満貫以上のリーチ判断(リーチ判断編1/渋谷ハル)】

【0.はじめに】

初めまして.江山(えやま)と申します.初めてのnoteです.
麻雀歴は3年ほどで,雀魂をそれなりにやり込んでいます.神域リーグはパブリックビューイングに複数回行くくらい好きです.

・本シリーズは,神域リーグの牌譜を題材として,一般的な麻雀戦術を抽出することを目的としています.天鳳プレイヤーののみや・美馬さん(私の雀力を高めてくれた命の恩人です.以下ではMさんと表記します)の意見をベースとした構成になっています.
・選手の打牌を批判する意図は全くありません.麻雀の選択には必ずメリットとデメリットがあるため,選手の選択も尊重しつつ,あくまで一般的なケースでの最適戦術を導き出すことを意図しています
・各選手の意志の籠った打牌が織りなす牌譜から,何か私たち神域リーグファンの麻雀上達に生かせることがあったら嬉しいという気持ちで書いています.

【1.題材となる神域リーグの場面】

今回は,ダマテンでも満貫以上ある手において,立直するかしないかの判断基準をまとめてみたいと思います.

チームアキレスの応援配信のようす(或世イヌ視点).三人とも空前の好配牌に酔いしれていた.この手は東・ドラ3の4翻が確定しており,4mが出ると満貫,1mが出ると三色同順もついて跳満となる.

神域リーグ第4節・第10試合,チームアキレス・渋谷ハルの視点です.東発で朝陽にいなから跳満を直撃してリードで迎えた東2局1本場.6巡目にして14mの両面テンパイが入りました.安めの4mでロン和了しても満貫,高目の1mでロン和了すると跳満になります.
渋谷ハルはここでダマテンを選択.リードしていることを踏まえたとても良い選択だと思いますが,チームアキレスの控室では,多井隆晴プロ・白雪レイドが「これリーチでも全然悪くないよね」と言っていました.
さて,ここではリーチとダマテンのどちらが良いでしょうか?

【2.このテーマについて書いた動機】

ダマテンだと満貫に届かない手,特にダマで1300(親:2000)~3900(親:5800)のテンパイが良形・愚形に関わらずリーチ寄りであることは一般に広く知られており,データ本などでもリーチ有利という記述があります.
一方,今回の場面のような高打点(特にダマテン5翻以上)のケースは,リーチとダマで意見が分かれることが多いです.
統計学のマージャン戦術(みーにん著)」では,ダマテン5翻・6翻のケースにおいて,リーチとダマの局収支が巡目ごとに比較されています.ただし,本noteで扱う,点数状況や場況等を加味した判断については特に触れられていません.一方で,「新科学する麻雀(とつげき東北著)」は,点数状況に応じた判断基準の表も載せられているという特色がありますが,そこで出ている結果は統計学のマージャン戦術と異なるものが多かったです.

したがって,私は「ダマテンでも高打点の手をリーチするかどうかについて,点数状況や場況も含めた一般的な基準を整理したい」と思っていました.私自身の話ですが,これまで良形の高打点テンパイをダマテンにしたら,Mortal (麻雀AI:解説記事はこちら) の評価が著しく低くなったという経験があり(後述),意外と今回の渋谷ハルのような手牌でもリーチはアリなんじゃないかなと思い,Mさんに聞いてみました.

【3.題材における選択例(Mさんの意見)】

題材となる場面の再掲(上に掲載した図と同じです)

私自身は,雀魂玉の間/天鳳特上卓・鳳凰卓のようなラス回避ルールや,雀魂王座の間のような連帯取りルールにおいては,ラス抜けや連帯の確率を大きく上げるダマテンが有効だと考えていましたが,神域リーグのようなトップが偉いルールにおいては,

  • まだ東2局だし,点差も圧倒的ではないので,できるだけたくさん稼いでトップを盤石のものにしたい

  • まだ序巡であり,周りがオリた場合にツモれる残り巡目が多い.

という理由により,リーチも有力な選択肢ではないかと考えていました.

Mさんは,


「神域リーグルールにおいてもダマテン寄りかな.
リーチするという人がいてもいいけど,
現状トップ目で,跳満になる高目の1mが出やすいならダマで狙いたい.」


という見解でした.ある程度のリードがあってダマテンで跳満の出和了りが狙えるなら,ルールに関係なくダマテンが有力な選択肢になるということでしょう.

【4.題材の場面が平場だった場合は?】

続いて題材の場面を平場(東1局,全員が原点)に変更し,少しずつ条件を変えた3つの立体図 (①~③) について質問しました.①は題材の場面から立体図はそのまま点棒をフラットにしています.②は①から場況を変化し,③は②から高目になる牌を変えています.

 点数を操作して平場にしただけで,盤面はそのままです.
 ①に加えて河を変更し,14mの場況をめちゃくちゃ良くしました.14mは山に居てツモれそうであり,一方でダマテンにしても特に高目の1mが出てきそうです.
 ②から自分の手牌を変更し,高目になる牌を1mから4mに変えました
なお,手牌との整合性を考慮し,上家の5pを6pに変えています.

Mさんの意見は以下の通りでした.


①③はリーチしたい.②は微差であり自分はリーチするが,高目の1mがかなり出てきそうなのでダマテンもあり.なお,高目安目なくどちらもダマテンで跳満あるならダマテンにする.」


このことから,平場の高打点良形テンパイでは,巡目が遅くなければ

  • ダマテンで跳満が確定しない場合は基本的に即リーチが有力

  • 高目の方が出やすい,かつ高目のみダマテンで跳満の場合は,リーチもダマテンもどちらもあり

  • ダマテンで跳満が確定する場合はダマテンが有力になる

という風になると考えられます.

【5.別の牌姿:私の実戦譜より】

ここまででは,点数がリードしている場合および平場の場合における,良形高打点のリーチ判断についてまとめました.本項では,私の実戦譜をテーマに,点数が劣勢の場合,および愚形高打点テンパイの場合についての判断もまとめていこうと思います.

私が雀聖3の頃に玉の間で打った牌譜です.三色・ピンフ・ドラ1の4翻が確定しています.

この図だとリーチとダマテンどちらがいいでしょう?


おそらく皆さんにとっては3,4項の復習になる問題だと思います.このようなダマテン良形で跳満に満たない手は,平場ですらリーチ寄りという結論だったのですから,劣勢であり点数が欲しい本図においては,もっともっとリーチ寄りになると考えるのが自然でしょう.

私は,玉の間がラス回避ルールであることを意識し,「この高打点は確実に和了りきるのが大事.少なくとも下家と上家は確実に和了り牌を切ってくれそうだ.」と考えてダマテンにしたのですが,Mさんは以下のような見解でした.


「ラス回避ルールでも,特に上家からのロンやツモだとラス率がある程度残るから,リーチして稼ぎに行きたい.ましてや,神域リーグルールなら『鉄リーチ』レベル.なお,本図では14pの場況が良いが,良形なら判断に場況の良し悪しはあまり関係ない.


さらに,ラス回避ルールが前提であるAIのmortal・NAGA超リーチ寄りという結論でした.mortalは99.99対0.01レベルで鉄リーチとの見解であり,NAGAもビックリマークは出ていなかったものの85:15くらいでリーチ有利との結論でした.

mortalの出力結果.何もそこまで言わなくても()

さて,点数が劣勢の場合は,良形ダマテンで4~5翻ならリーチ有利ということが判明しました.それなら,劣勢の場合で,以下の場合はどうなるでしょうか?

  • ①良形ダマテン6翻

  • ②愚形ダマテン4~5翻,③同6翻

上の牌図を少し操作(ドラを5pから3枚持ちの5sにする or 14p待ちをカン3p待ちにする)して,ラス回避ルール前提のNAGAで解析を行う他,Mさんにも見解をお伺いしました.

①良形ダマテン6翻の場合

良形ダマテン6(7)翻.ラス回避ルールだと少しダマテン寄りになるようです.

NAGAだとややダマテン寄りになりました.Mさんの見解は,


どっちでもよさそう.自分はリーチするかも.


とのこと.私個人としては,ラス回避ルールでこの解析結果なら,神域リーグルールではリーチが有力になるかなと思いました.

②愚形ダマテン4~5翻の場合

良形ダマテン4(5)翻.NAGAはダマテンにしたいそうです.

NAGAだと結構ダマテン寄りの結果になりました.ところがMさんは,


カン3pの場況がこれくらい良ければ,リーチしてツモによる爆発的高打点も見たい
なお場況が悪い場合はダマにする.場況が悪いと,リーチした場合山に少なくてツモ和了に期待できないし,待ちの良い人に押し返されると勝ち目が薄いので,たまたま手牌から溢れた人から拾いたい.


という見解でした.つまり,愚形ダマテン4~5翻の場合,点数が劣勢ならば良い場況の待ちはリーチの選択肢もありということになりそうです.

③愚形ダマテン6翻の場合

愚形ダマテン6翻の場合.流石にダマテンっぽいです.

リーチのバーが一切伸びていません.Mさんもこう話していました.


最早リーチしたい感じもあるけど,流石にこれはダマテンにするかも.


つまり,愚形ダマテン6翻なら点数が劣勢でも基本的にはダマテンで良いということになりそうです.この結論は神域リーグルールでもおそらく変わらなそうかなと思います.

【6.まとめ】

1.点数が優勢の場合

  1. 良形でダマテン4~5翻あれば,ダマテンにしておいて問題ない.

  2. 良形ダマテン6翻,愚形ダマテン4翻以上はほぼ無条件でダマテン寄りになる.

2.平場の場合

  1. 良形ダマテン4~5翻は基本的にリーチする.ただし,安目高目があり,出やすい方が高目で跳満になるならダマテンも有力.

  2. 良形ダマテン6翻確定はダマテンでよい.

  3. 愚形ダマテン4翻以上はダマテンでよい.

3.点数が劣勢の場合

  1. 良形ダマテンで跳満に満たない場合はほぼ無条件リーチ.

  2. 良形ダマテン6翻は,どちらの選択肢も有力.神域リーグルールの場合,ラス回避ルールよりリーチ寄りになる.

  3. 愚形ダマテン4翻~5翻は,特に場況が良い場合はリーチする選択肢もある.

  4. 愚形ダマテン6翻はダマテンでよい.

※ここまでに扱った題材は6巡目前後であり,以上の判断も序~中巡(1~12巡目辺り)を前提とした記述になっています.データ本などで一般的に示されている傾向ですが,終巡に近づくにつれてダマテンが有利になります.例えば以下の理由によるものと思われます.

  • リーチをしてオリられた時にツモれる回数が少ない

  • 他に副露やリーチで注目を受ける人がいる際に,ダマテンにしているとどさくさに紛れて出る可能性がある

【おまけ(神域オタク文章)】

高目の1mは山に4枚で誰も使えない形.即座に朝陽にいなが掴んでツモ切り.12000の放銃でハコ下に沈んでしまいました.......
しかしまあ,なぜこんなにもグラディウスばかりが悲惨な目にばかり遭うのでしょうか....... 自分はパブリックビューイングに参加していましたが,会場からも和了による歓声というよりはグラディウスに対する同情の声が上がっていました.
それでも個人配信で気丈に振舞う朝陽にいなやグラディウスのチームメイト達の姿は,とても立派だと思いました.これについて後藤プロが記事を書いているので,ぜひ読んでみてください.普通に読んでて涙が出てきます.

回線切れにより切るつもりがなかった8pを勝手にツモ切られ,渋谷ハルに18000の放銃となった朝陽にいな.しかし,何一つ回線切れについて不平不満を言うことない姿勢は,本当に尊敬できるものだと思います.

とはいえ,渋谷ハルの本半荘での打ち回しは見事であり,ゆうせーのランキング動画でも白を対子落としした打点意識の高さが取り上げられている他,白鳥翔プロも千羽黒乃の応援配信でトップ目からチャンタを駆使して安全を確保しつつ加点を狙う手組みを大絶賛していました.
私自身も,パブリックビューイングにおいて首を傾けたり逆立ちしたりしながら()全員の手牌を追う中で,他の選手ももちろんですが,渋ハルの手組みがめちゃくちゃレベル高いと思っていました.自身の地道な座学や,チームメイトのたかちゃん・レイドの教えの賜物だと思います.やはり,FPSにおいてもそうであったように,渋ハルは「ゲーム全般を上手くなるのが上手い」と思います.
特にこの切り抜き動画で示したような「ウザク本赤をもう2周した」という方法は非常に理にかなっています.ウザク本は典型的な問題が多いので,完璧にしておくと応用がかなり効きやすく,牌効率の力がかなり向上すると思います.

さらに,初心者の或世イヌが麻雀でつまづいている際も,渋ハルは「あ~俺もここは分からなかったんだよな~~」と共感することが多く,そこが素敵だなと思います.

例えば,アキレスファンにとっては馴染み深いシーンですが,第1節で初登板のイッヌは,5mを切った直後にこんもこのリーチを受け,2mを切れることに気付かずに,さっき切ったばかりの両無筋の5mを間違えて切ってしまい,58mへの放銃となりました.

応援配信は当然ながらブーイングの嵐.
レイド「あ゛あ゛あ゛〜〜!!」
渋ハル「バカー!!!」
たかちゃん「なんで打っちゃったの!?」
渋ハル「見事に……」
たかちゃん「見事に初心者出たね〜w」
レイド「さあ来たぞ!俺たちの或世イヌが!凹むぞ〜これwww」

しかしこの後の渋ハルの言葉が印象的でした.

「わかる〜俺も初心者の頃『スライド』に気づかなかったんだよね〜.」

このセリフから,渋ハルが一見センスありそうに見えて,実は初歩的な内容にも一つ一つぶつかって,それを地道に克服してきたということが分かります.私自身も,麻雀に限らず,受験勉強など何事にも不器用なタイプで,簡単な内容でつまづきながらも一つ一つ積み上げてきたタイプなので,渋ハルのチームアキレス内におけるこうした「或世イヌの理解者」という立ち位置が好きだし,そういう自分のつまづきを包み隠さず話して或世イヌをフォローする正直な姿勢にもとても好感が持てます

チームアキレスは,表向きはネオポルテらしく初心者のイッヌを完膚なきまでにいじめるスパルタチームに見えますが,こういう優しさが垣間見えるし,何よりチーム全員が勉強熱心です.第5節の時点ではポイントで優勢となっていますが,ただの運だけではないと思います.この調子で頑張って欲しいです.

渋ハルのとても理にかなった勉強法に,千羽黒乃も大絶賛です.レイドも,「渋谷ハルは打ってれば雀聖にはなれる」と,力量を認めています.


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