”僕”の起業の物語  ラットレース

前回は↓

相変わらず忙しい。
ついに日曜日まで出動し始めている。

求人広告だしても、人は集まらない。
たまに来ても全然続かない。

横のつながりで応援を頼むしかない。
かなりの日当を持っていかれるが
いたしかたない。

だましだましやるしかなかった。

そして2年目の決算を迎えるころ年収で
一千万円に届いた。

若い頃から一千万を目標にしていた。
一千万いけば楽になると思っていた。

ところがいざ到達すると余り変わってない。
増えた分税金、健康保険、年金で持っていか
れた。少し贅沢出来る程度だった。

しかも忙しい。
日中の業務を終えても、請求書やら経理やら
で家でも仕事だ。まだ事務員を雇えるほど
の会社ではないから仕方ないのだか…
サラリーマン時代よりも忙しくなっている。
漫画喫茶で引きこもる事を考えたらもちろん断然いいのだが。

家に帰るともう子供は寝ている。
(最近遊んでないなぁ)
寝顔しか見てない。

「あんた、すーちゃん(娘)が立った時も
いなかったし、かなり成長を見逃しているよ。
もう2度と無い瞬間なんだから。
社長なんだからもうちょっと早く帰れないの?」

(社長だから帰れないんだよ!)

反論したかったが言わない。
奥さんに口で勝ったためしがない。

しかもごもっともだし…。

少し疲弊してきた。
体力的にも、精神的にも。

日々の業務をこなし、帰ったら事務仕事。
税金と給料払って、また朝起きて仕事…

(あれ。これってラットレースじゃん。)

起業したからラットレースは抜けたと思い込んでいた。

(やばいな…)

経済的な自由を獲得する。ラットレースから
抜け出して。
想像以上だった。ラットレースの重力は。

こいつから抜け出すにはおそらく莫大な
エネルギーが必要になる。
まるで地球の重力を振り切って飛び立つロケットのように。

そんなエネルギーが僕にあるのだろうか。

答えはわかっていた。

潜るしかない。

深海に。

自分の潜在意識という深海に潜るしかない。

そしてぼくのマグマ、僕のコアとなる部分に
アクセスする必要がある。そこには無限のエネルギーが存在しているはずだ。

何がしたいのか。自分は何をしている時に
没頭できるのか。

それからずっと考えていた。
仕事しているときも、家族でいる時も。
意識していなくとも、僕の潜在意識は常に検索し続けている。

やがて絶望的な事実に気づく…

(ああ、僕はこの仕事が好きではないんだ。)

かれこれ15年も続けていた。
でも一度でも楽しいと思ったことはなかった。
いつも早く終わらせて帰りたかった。
仕事がきついとため息ばかりついていた。
でも、仕事しなきゃ給料もらえない。
起業してからは、仕事しなきゃ給料払えない。
少し変わっただけだった。

(廃業する?)

そう考えたら胸がドキドキしてくる。
生活費はどうする?
従業員はどうなるのか?
借金だけが残るけど、返していけるのか?

すぐにはもちろん止められない。
だがいずれやめるだろう。

僕が原因だったのだ。僕が無意識に会社の発展に
ブレーキをかけていたのだ。
好きでもない仕事をしている人の元でだれが
働きたいだろう。発展したくないと思っている
経営者の元でだれが働いてくれるというのだ。

きっと辞めていった従業員たちは何かを感じ取ったの
だろう。

従業員が増えないから、僕は現場に出ずっぱり。
社長が変化を起こせないから会社は発展しないまま。
負のループができつつあった。

そして相変わらず仕事の依頼がバンバンはいってくる。
なにか僕に変化させない為のように思えてくる。

引き戻そうという力が働いている。
にわかには信じがたいが、これは偶然ではない。

とりあえず僕は求人広告を打つのをやめた。
最高で5人まで増えた従業員たちでしばらくはやっていこうと
決めた。おそらく、僕がブレーキをかけているうちは
いくら募集したところで意味がない。

そんな時、まさに求人を止めたとき、
大手のゼネコンから見積額600万円以上の依頼があった。

(これは、もう確実だ。)

引き戻し現象だ。
もしこの仕事を受ければ、確実に年収があがるだろう。
だが、ますます忙しくなって、僕はただの作業員に
なるだろう。
目先ではうるおう。が、おそらく僕はラットレースを
抜けられぬまま、歳をとっていくだろう。

決断は早かった。
「弊社多忙のため、今回の見積もりは辞退させて頂きます。」
メールを打つ。

送信。

600万円が消えた。

不思議ともったいないなと思わなかった。

今思うとここが人生の岐路だった。

僕はおそらく正解を選択できた。

この一瞬の選択をするために成功法則を勉強
してきたといっても過言ではない。

それだけ大事な一瞬だった。

あとはエネルギーの源泉、わかりやすくいうと

「自分の好きな事」

を、探し出し、その力でラットレースからの
重力を振り切るだけだ。

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