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同時通訳演習に向く素材

授業の時は教材も自分で探すのですが、同時通訳演習に向く素材探しにはなかなか苦労します。次のような条件で選びます。

1) 構文の複雑さがレベルにあったものかどうか:初心者の段階では単文が多いものにし、関係代名詞や分詞形容詞やofの重なりで後から名詞を修飾する語句が多いものは避けます。また、長い複文など、込み入った構文を使っているものは初心者のうちは避けます。

2) スピード:話者の話すスピードが極端に速いものは避けます。Youtubeなどでは再生速度を変更できますが、スピードを落としたら極端に音質が変わってしまうものもあるので注意。また、文と文の間にポーズが少ない話し方をする話者も避けます。

3) 内容が興味深いものか:スピードや構文が条件にあっていても、内容が面白くなければ勉強への意欲が湧かないものです。なので、できるだけ受講生の興味関心にあうものを選びます。

4) 訛りが少ないもの:初心者の段階では、できるだけ訛りの少ないものにします。上級になってきたら、色々な発音の癖、アクセントやイントネーションに対応できるように、訛りのある話者の素材も増やしていきます。ただ、内容が興味深く構文的に平易であれば、訓練開始から間もない段階でも少々訛りのある話者のものも選ぶようにしています。

5) 録音の音声条件がよいもの:上記の4つの条件が揃っていても、録音状態が悪いために断念せざるを得ない素材も多いです。例えば、マイクが遠かったりとか、ノイズが入っていたりとか。逐次通訳の場合は多少ノイズがあっても許容できますが、同時通訳の教材の場合は条件が厳しくなります。一瞬の瞬発力が問われるため、ノイズが注意力を削ぎ集中力が落ち、ひいては体力も早めに消耗するためです。

6) 適切な長さがあるもの:これはクラスで学習する時のみ発生する課題ですが、受講生全員が平等に課題に取り組むことのできる長さであることが必要になります。私のクラスは同時通訳に初めて挑戦する人のためのクラスなので、長くてもクラスの人数x2分くらいでよいのですが、上級クラスになると、30分以上長さがあったほうがいいでしょう。

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半年完結のコースで同時通訳を教えていますが、前期はユヴァル・ノア・ハラリのインタビューを取り上げて好評でした。内容が興味深いという意見が多かったです。

ということで、7月から始まった今学期の後半も知識人のスピーチやインタビューを取り上げたいのですが、なかなか難航しています。

ハラリの他に、自分が興味のある知識人・著名人の素材を検討してみました。

ジャレド・ダイアモンド:『危機と人類』『銃・病原菌・鉄』などの著者でUCLA教授。テーマ的には、ハラリと共通するものがあります。調べてみたところ、講演の冒頭にはアメリカン・ジョークみたいなものが多い(笑)。スピードも若干速め。PBSのインタビューにいいものがあったけれど、7分とちょっと短い。

オードリー・タン:おなじみ台湾のデジタル大臣。民主主義はじめやや抽象的なテーマが多い。リモート出演が多いので、音声のよいものが少ないのがネック。

スコット・ハートリー:『FUZZY-TECHIE(ファジー・テッキー) イノベーションを生み出す最強タッグ 』の著者。文系出身でGoogleで働いていた経験などから、イノベーションを生み出すためには技術だけではなく文系の発想が必要なこと、また同時に理系的な発想をビジネスに活かすことの重要性を説いている。Googleでのインタビューなどがあるが、ちょっとスピードが速い。

マルクス:ガブリエル:29歳でボン大学の教授に就任した気鋭の哲学者。「コロナ前の世界に戻ることは不可能であり、コロナ前の日常に戻りたいという願望は間違いである」など、非常に刺激的な発言が注目を集めています。テーマ的にはやや難解でありつつ、挑戦する価値はあるかなと思っていましたが、ドイツの方のせいか構文的に難しい(=関係代名詞で名詞をどんどん修飾する傾向が見られる)。

…ということで、ハラリ以外に日本で有名になった知識人の講演・インタビューを使えないかと検討中ですが、なかなか条件に合うものがなく難しいです。今期もやはりハラリで行くか、『ライフ・シフト』のリンダ・グラットンなどを調べてみるか検討中。みなさんも、なにかお勧めのスピーカーや動画がありましたら教えてください。

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