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あの夏

四季がある日本は美しい。

春・夏・秋・冬
これだけでどこかかっこいいなと思える日本に生まれたことがただただ嬉しい。
世の中には四季を知らない人だっている。
そう考えると「誇り」と言ってもいいのかもしれない。

「四季」とは言っても、
実際に一年を四つの季節で、
きれいに四等分しているかと言われると、
そうでもない。

では、どの季節が一番長いのかと考えてみると、
なつ!
という選択肢しか浮かばなかった。
(地域によるのかもしれませんが、わたしの場合。)

実際に暦で見てみても、(天文学的にはまた異なるが)
2020年
立春 2月4日…から立夏まで91日
立夏 5月5日…から立秋まで94日
立秋 8月7日…から立冬まで92日
立冬 11月7日…から立春 (2021年)まで88日
どうやら長いのは一番長いのは夏で、一番短いのは冬のようだった。

結論として、一番長いのは夏で一致はしたけれども、
この日数のあまりの僅差に納得がいかない。
というのも、8月7日は暦上では秋かもしれない、
けど、実際、8月頭を秋という風にとらえる人はどれだけいるだろうか。

小学生は、夏休み真っ盛り
セミが勢いよく鳴き
スーパーには大きなすいかが並び
プールや海には人だかり
夜には、浴衣を着て花火大会

どこをどのように切り取っても
そこには定番すぎる夏が広がっている。
9月頭くらいまで、夏なのではないかと考えることもある。
(実際大学生は夏休み真っ只中)

年々、夏は長く長くなっていっている。そんな気がするのは、はたして地球温暖化のせいなのか。わたしが年を重ねるごとに、夏の思い出が積み重なり、長く感じているだけなのか。そんなことはどうでもいいのかもしれない。

長いだけに、夏といっても、そこには、いろんな夏がある。
初夏、梅雨、夏至、七夕、小暑、大暑...。
思い出は人それぞれでキリがないかもしれない。

年々長くなりゆく夏のなかで、
わたしにとって「夏といえば!」がどこの部分かは正直わからなかった。
ただ、陽が照る中、アスファルトがゆらゆらとする陽炎のように、
夏を思い浮かべるときのイメージもまたぼんやりとしているのかもしれない。

そんな、ぼんやりとした夏を思い浮かべるときには脳内で勝手に

ちゃららららんららん
Summer - 久石譲

が流れてくる。

誰もが一度は耳にしたこのメロディー、
そこに歌詞はなく、
聴き手と久石譲さんの間に共通点もない。
でも、彼の表現に、だれもが、自分の夏の風景を思い浮かべるに違いない。
不思議なのは、初夏に聴くSummerと晩夏に聴くSummerは同じ音色でありながら、異なる感情を、異なる風景を思い起こさせてくれる。
一つの音色はいくつもの思い出に、風景に寄り添い、
どこか、心おどらせながらも、
きゅっと引き締められ、
ことばにあらわせなかった感情がそこにあることに気がつかせる。
そして、ふと、そのなんとも言えない感情を
Summerは見事にあらわしてくれたのだなと気づく。

表現について学ぶものとして、
この音色を聴いたときに彼は本当に天才だと思ったのは言うまでもない。

そこで、なぜ、この音色は、こんなにも多くの人に寄り添えるのかを考えてみた。
…………
わからなかった。
それが理解できたらわたしも天才だ。
無論、天才でないわたしには、お手上げ状態である。

そして、この音色は、一体わたしのなにに寄り添っているのかを考えてみた。
………
やはりわからなかった。
というのも、陽炎のごとくゆらゆらするわたしの夏の思い出は、けして、まとまったものでもなければ、たったひとつでもないからだ。

スイカをがむしゃらに頬張ったあのころ
休まず通ったプール教室
自転車で駆け上がったあの坂
一人たそがれ、心踊らせ待ち続けた教室
花火が打ち上がる瞬間、静まり返る夏祭り
友人と別れたあの交差点

どれも、わたし個人の夏であり、いいものもあれば、悪いものもある。
そしてそのどれも良くも悪くも過ぎ去りし夏であり、
二度と帰ってこない、二度と戻ることができない夏。

そのとき、ふと気がついた。
「もう戻れないあの夏」にこの音色は寄り添っているのかもしれない。
あなたとわたしには同じ思い出はないのかもしれない。
けれどもあなたにもわたしにも、あの夏があり、
あなたもわたしも、あの夏にはもう戻ることができない。
あの夏にそれぞれ、
どのような感情があるのかはわからないけれども、
確かなことはあなたにもわたしにも
「もう戻れないあの夏」があるということ。

あの夏が、また今年もやってくる。
そして、今年の夏がまた、「もう戻れないあの夏」になっていく。

だれもが確かに重ねていく「あの夏」、
戻れないあの夏を重ねれば重ねるほど、
この音色はより聴き手に寄り添うのかもしれない。

どこまでも夏をいろどる音色に、
こころをおどらせながら、
今年はどんな「あの夏」になっていくのかと
脳内で再生されているBGMとともに
胸が高鳴っていく。

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