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あらためて「災害時医療情報閲覧機能」

0.大規模災害時に患者が覚えておくとよいこと

大規模災害時において、一部の避難先を含む医療機関・薬局では、設備が動いていれば、マイナカード・スマホ・保険証・お薬手帳が全てなくとも過去に薬局で出た薬の情報などが分かるようになっています。
普段から電子処方箋に対応している医療機関や薬局を利用していれば、薬の情報はより正確になります。(※処方箋は紙のものを使っていても大丈夫です)


今年も大雨、台風の季節が来た。そして地震の可能性も・・・
もしもの場合に備え、医療機関・薬局の方にはオンライン資格確認等システムの「緊急時医療情報・資格確認機能(災害時医療情報閲覧機能) 」について確認していただきたく、以下に情報をまとめておきます。

1.災害時にデジタルは医療の役に立つか論争はもうよいのでは

確かに、災害で停電したりネットワークが止まれば、その施設ではマイナ保険証による資格確認はできません。なぜならばオンライン資格確認システムが使えないから。でも、その状態なら紙保険証でも正確な資格確認はできないですし(そんな場合でもないですし)、以下のような特例措置があります。

保険証がなくても医療機関等を受診できます|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
被災に伴い保険証を紛失又は自宅等に残して避難している方は、
次の事項を医療機関等にお伝えいただければ、保険証がなくても保険医療を受けることができます。
1.氏名
2.生年月日
3.連絡先(電話番号等)
4.加入している医療保険者が分かる情報(※)
(※)被用者保険の場合は事業所名、国民健康保険の場合は住所及び組合名、後期高齢者医療制度の場合は住所

そもそもそんな状況で医療そのものの提供が難しいこともある一方で、避難先で医療を提供することもありますし、現地でも設備が動いているならできることの幅が広がって困ることはありませんよね。

「もしもの時もお薬手帳を持っていれば十分でしょ」
そうですね。
でも、そうでない時のことも考えないといけませんね。

2.災害時医療情報閲覧機能開放までの流れ

まず、災害時に多数の者が生命又は身体に危害を受け、又は受けるおそれが生じた場合等に災害救助法が適用されます。
これまでの適用状況は以下の通りです。
災害救助法の適用状況 : 防災情報のページ - 内閣府 (bousai.go.jp)

災害救助法の適用を受け、厚生労働省からオンライン資格確認実施機関(支払基金・国保中央会)にオンライン資格確認(オン資)の緊急時医療情報・資格確認機能(災対モード)をアクティブ化する指示が出ます。
(事務連絡「令和〇年〇月〇日からの〇〇にかかるオンライン資格確認等システムにおける「緊急時医療情報・資格確認機能」 アクティブ化する医療機関・薬局の範囲・期間について」)

これにより実施機関は対象地域にあるオン資に対応した医療機関・薬局すべてに対し、災対モードを開放します。開放されると医療機関等向け総合ポータルサイト等で通知されます。コールセンターへの電話は不要です。
原則として対象は災害救助法適用地域、期間は基本的に1週間です。

しかし、能登半島地震では避難者のことも考慮してか、災害救助法適用外地域の石川県野々市市と能美郡川北町が追加されました。また、期間も被害の状況を見て一部地域で延長されることもあり、能登半島地震では1週間の延長×2→1か月の延長→2週間の延長→1週間と小出しで延長されました。(最初のほうの期間のばらつきは行政側の混乱を感じます)
さらに、避難が長期化したこともあり、個別の施設からの申出により対象外地域からの開放要請にも応じており、ようやく運用が固まってきたのかもしれません。
(参考)(更新)【お知らせ】令和6年能登半島地震にかかる対応における災害時医療情報閲覧機能の開放期間の一部延長について(第5報)

3.災害時医療情報閲覧機能の操作方法

詳しくはこちらの厚労省の簡易版資料支払基金のマニュアルを確認しましょう。
・電カルやレセコンではなくオン資の資格確認端末から操作
・医療情報閲覧アカウントまたは管理アカウントでログイン
・患者の保険情報が分かる場合はそちらで、分からない場合は氏名や生年月日等の四情報で検索
・薬剤情報等の閲覧については本人の同意が必要
 ※患者が意識不明等により生命・身体の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときは、同意は必要ありません
・情報はPDFファイルで取得
 ※これを印刷して患者に渡す運用が考えられます
・実施機関でログを取っているので、不適切な検索をすると怒られます

4.災害時医療情報閲覧機能で取得できる情報

詳しい内容は支払基金のマニュアルに載っていますが、以下です。
手術情報、薬剤情報、診療情報
 閲覧可能期間
  →診療年月の翌月から 36 ヵ月間
 提供開始時期
  →診療年月が 2021 年 9 月の情報から
処方・調剤情報
 閲覧可能期間
  →処方情報は交付日から、調剤情報は調剤日からそれぞれ 100 日間
 提供開始時期
  →交付日、調剤日が 2023 年 1 月の情報から
つまりレセプト由来のものは3年分、電子処方箋管理サービス(管理サービス)由来のものは100日間と、いつものオン資で取得できる情報と同じです。
弱点についてもレセプト登録までの期間や管理サービスに登録されない情報は載らないこと、そしてレセプト由来の院内処方情報には用法が記載されないことが挙げられています。院内処方の詳細情報は管理サービスの院内処方対応を待つしかなさそうです。

5.災害時医療情報閲覧機能の活用状況

例えば能登半島地震では2/26時点で延べ29,600人の診療・調剤において本機能が活用されたと厚労省は公表しています。
最終的にのべ32,000人との報道(朝日新聞MEDIFAXweb)も。

その他、以下のように取り上げられてもいます。
【無料公開】広域避難者の服薬継続でオン資に「脚光」 | PHARMACY NEWSBREAK(ファーマシーニュースブレイク) - 薬局・薬剤師のためのニュースメディア (jiho.jp)
【無料公開】処方にタイムラグ、避難所からアクセスできず… | PHARMACY NEWSBREAK(ファーマシーニュースブレイク) - 薬局・薬剤師のためのニュースメディア (jiho.jp)
避難先の医療機関・薬局で患者の薬剤情報等を活用電子処方箋の活用・運用の取組
例えば管理サービスへの日々の調剤結果データ登録が後からどこかで役に立つ、というのは医療DXの目指す形ではないでしょうか。

一方、機能が利用できるのはあくまで医療機関・薬局(厳密にいえばその患者に診療・調剤を行う医療機関・薬局)に限定されるので、記事にある通り、避難所や話題になったモバイルファーマシーとの連携(物理的にも制度的にも)をどう考えていくかは今後の課題と思われます。

6.その他

Q.災害救助法が適用されてない地域で設備が損傷したがどうするのか?
A.被保険者資格申立書を利用するほか、復旧後にオン資の障害時モードを利用して確認を行えます。
障害時モードの利用にあたってはオン資コールセンターに事前に電話連絡して開放を受けることが必要なこと、確認できるのは保険情報のみで、過去の医療情報は閲覧できないことが主な相違点です。
障害時モードの詳しい操作方法は厚労省の通知を確認してください。

Q.そんなに役立つ機能なら常時全国に向けて開放しておけばいいのでは?
A.役立つ情報である一方で重要な個人情報なので、平時は鍵がかかっており、マイナ受付による本人確認及び同意をすれば医療機関等に提供できます。災害時に役立つ情報は平時にももちろん役に立ちますし、飲み合わせの悪い薬が出ることを防げますので、電子処方箋対応施設を利用し、マイナ受付×情報提供の同意をぜひ。

Q.普段からマイナ保険証も電子処方箋も使っていない人には関係ないのでは
A,保険診療を受けるすべての人に関係ありますし、電子処方箋を使っていなくても、電子処方箋に対応した医療機関や薬局を利用している人は何とかなる可能性がより高まります。

Q.電子処方箋管理サービス由来の情報は電子処方箋非対応の施設では見られないのでは
A.災害時医療情報閲覧機能を利用することで入手できる情報は電子処方箋管理サービス由来の情報も一つのPDFファイルにまとめられているので、オン資端末さえあれば電子処方箋非対応施設でも閲覧可能です

Q.こちらには「災害時モード等を利用するためにわざわざコールセンターに電話をしないといけません」とありますが?
A.国からのお知らせ等にある通り、災害時モード(災害時医療情報閲覧機能)は対象地域にあるオン資対応の医療機関等に対し一律解放され、オン資コールセンターへの連絡は不要です。
災害時はこのように不正確な情報が飛び交いますので、業務に支障が出ないよう、そして適切な医療が提供されるよう、普段から正確な情報を確認しておきたいですね。