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福島智『ぼくの命は言葉とともにある』・福島令子『さとしわかるか』

「盲ろう者として世界で初めて大学教授となった」東京大学の福島智さんの実話を小雪さん主演で映画化した『桜色の風が咲く』を見て、ぜひ読んでみたいと思ったのが、お母さん(福島玲子さん)の書かれた『さとしわかるか』でした。

9歳で失明してから、18歳で耳が聞こえなくなり、「指点字」という独自の会話法を編み出すまでの苦難の日々を、母親である令子さんが初めて綴った感動の子育て、闘病記。

書籍紹介より

福島さんと意思疎通をとろうと、偶然にお母さんが生み出し、福島さん(そして、盲ろう者の方々の)新しいコミニュケーション手段となった「指点字」。『さとしわかるか』は、その「指点字」で初めて話した言葉がタイトルとなった、心揺さぶられる母の体験記でした。

そして、『さとしわかるか』を読んでみると、やはりご本人の著書が読みたくなって、『ぼくの命は言葉とともにある』へ手を伸ばしました。この書籍が素晴らしかった! 凄まじい読書量に支えられた示唆に富む内容で、綺麗ごとではないご自身の体験を語る中で、人間が豊かに生きていくための新たな視点を与えてくれる濃厚な読書体験でした。

私がおかれている状況、つまり「光と音のない世界」でどう生きるかということは、戦場などのある種の極限状況におかれた人間がそこでどう生きるかということと共通する部分があるのではないかと思います。
もっとも、私の場合、生きて命ある限り、その戦場での戦いは終わりません。光も轟音も硝煙の臭いもない、暗く静かな、しかし途絶えることのない戦闘状態が日夜続いています。
(略)おそらく人間は、全員がいつも何かと闘っているのです。究極の敵は自分です。私にとっても敵は自分自身です。これはすべての人に共通することではないでしょうか。自分の中にすべての答えがあるのです。

本書の根っこにあるメッセージは、「自分がいかにちっぽけな存在で、つまらなくてくだらないものか」、「自分の非力さ、無力さ、怠惰さ」を認め「どん底まで落ち込んだところで」それでも「どんな人にも生きる意味がある」というものでした。ただ生きていることの大切さ、そこに至るまでの福島さんの思索が素晴らしいので、ぜひ本書を読んで頂きたいです。

また、「物質的に孤立するだけでなく、心理的に孤立することこそが、より深刻な孤立」であり、「コミュニケーションが水や空気や食べ物のように、生きるうえで絶対に必要なものだなと私は痛感しました」と語る福島さん。盲ろう者となり、宇宙空間の中にたった一人だけおかれて窒息しそうな時、最初に空気を供給してくれたのが、お母さんの指点字「さとしわかるか」であり、友人の「しさくは きみの ために ある」という言葉だったといいます。そして、「真っ暗の宇宙にたった一人漂う私に再び光を当てて」くれた「コミュニケーションはぼくの命」であり、「ぼくの命は言葉とともにある」というタイトルへと繋がっていくのです。

広範囲にわたる様々な引用も心揺さぶられるものが多く、読みどころばかりなのですが、最後に引用されていた福島さんご自身の平成19年の「東京大学入学式(学部)の『祝辞』」の全文に心震えました。東京大学のHPにも載せられていましたので、ぜひ読んでいただきたいです。(八塚秀美)

式辞・告辞集  平成19年度入学式(学部)祝辞