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遊びのルールづくりから、ルールメイキングについて考えた

今回は、子ども達と一緒に遊んだ「すごろく」から、ルールメイキングについて考えたことを書いてみたいと思います。


エルマーのぼうけんすごろく

年末年始、実家に帰省しました。実家には、4歳と7歳の姪っ子がいるのですが、帰省したときは、この姪っ子たちと全力で遊ぶことにしています。

今回は、以下のすごろくをお土産に持っていきました。

私は、この『エルマーのぼうけん』シリーズが大好きで、子どものころ、ボロボロになるまで読みました。飼い犬の名前を「エルマー」にしたくらいです。

姪っ子たちが自分で読む本としては、まだちょっと早いので、次に会ったときに読んであげようかなあと思っていたところ、たまたま、このシリーズのすごろくを発見し、即買いして姪っ子たちと遊ぶのを心待ちにしていました。

盤面は、エルマーが訪れた「みかん島」と「どうぶつ島」の地図になっています。コマを進めていくと、ところどころ、ストップポイントがあり、そこに全員が止まって「冒険カード」を引きます。「冒険カード」には、「1回休み」のような指示ばかりでなく、

  • ゴリラの真似をして、みんなの周りを一周する

  • 次の順番が来るまでチューインガムを噛む真似をする

など、『エルマーのぼうけん』のストーリーにちなんだ指示が書かれていて、冒険を追体験できるようになっています。

姪っ子たちは、『エルマーのぼうけん』の内容を知らないのですが、『エルマーのぼうけん』好きの大人たちが、カードに書かれた指示に、本気で従っているのを見るのが楽しかったらしく、すごろくにどハマりしました。(意外にも、子どもの方が恥ずかしがって、カードに書かれている指示を隠れてやったりするのです)

新しい指示を考える

何回かやって、ルールがわかってきたところで、「冒険カード」を新しく作ろうと姪っ子たちに提案しました。カードの裏面が白紙になっているものがあったからです。姪っ子も大ノリで、一緒に、カードの裏に書く指示を考えることにしました。

何回かゲームをやっているので、すでに指示のサンプルはあります。あとは、みんなが楽しめるオリジナル指示を考えていけばいいわけです。ただし、参加者は80代のばあばから、おじさん、おばさん、パパ、ママと4歳児まで、幅広い年齢層の人が対応できるものにしなければなりません。

A4の紙にアイデアを書き出していきました。7歳の姪っ子は、小学校1年生で、この1年間でとても綺麗な文字を書くようになっていました。書くのが大好きなので、書記は、7歳児にお任せすることにしました。

7歳児は、思いついたアイデアをどんどん紙に書いていきます。4歳児も「これは?」とジェスチャーなどでポーズをとりながら、アイデアを出します。私は、「いいね」「それ、おもしろい」と言ってるだけです。姪っ子たちの発想の方がおもしろいので、私の出る幕はありませんでした。

予想では、もっととんでもない指示が出るかなと思ったのですが、実際に自分たちもその指示に従わなければならないので、出てきたアイデアは納得できるものばかりでした。家族内でしか通用しないような適用範囲が狭いものは、「それって、みんなできる?」と問いかけると、「これはダメ」と自ら却下していました。

最終的にまとまったものは、以下のようなものでした。

  • ハイハイでみんなの周りを1周する

  • みんなの前で変顔をする

  • 神様のポーズを4回する

  • 女の子の絵を描く

「神様のポーズ」というのは、4歳児からの提案で、あぐらをかいて、印を結ぶ仏像のポーズのことを指すようです。

次に、まとまった指示を白紙の「冒険カード」の裏に書いていきます。「冒険カード」は、3×3cmくらいの小さいものなので、流石にここに文字を書くのは無理だろうと思い、私がボールペンで清書することにました。

しかし、7歳児が「私も書きたい」というので、大丈夫かなと思いつつ任せてみることにしました。すると、とても丁寧に、綺麗に、小さな字で指示を書いていきました。完璧です。初めから任せるべきでした。本当に大人は余計なことをします。

指示がバグる

実際に、姪っ子たちが考えたカードを加えて、ゲームをしてみました。素直に指示に従う大人たち。姪っ子たちは、既存の指示は恥ずかしがって隠れてするのに、自分で考えた指示は参加者の前でちゃんと披露します。

しかし、ここで一つの指示がバグります。「神様ポーズ」の指示です。

1回目、このカードを引いたのは、おじさんでした。おじさんは、印の結び方を変えて、4種類の神様ポーズを披露しました。

2回目、このカードを引いたのは、指示を考えた本人でした。一つ目のポーズを披露したあと、周りの大人が「あと3回」というと、本人は、「一つしか知らない」と猛反発。「この指示を考えたのはあなたでしょ」とツッコミも入り、4歳児は半べそです。

確かに「4」という数字を出したのは彼女ですが、本人の主張を聞いていると、「4」という数字に「回」とか「秒」とか「種類」のような助数詞がついた場合の意味の違い(概念)が理解できていないと感じました。

これは、どちらかというと彼女の提案を翻訳をした私に問題があったようです。「神様のポーズをしながら4つ数える」という指示文にしたら、誤解は起きなかったでしょう。

そこで、「じゃあ、神様のポーズをしながら、1,2,3,4と数えるのはどう?」と提案すると、本人も納得し、無事指示がクリアできました。

神指示が生まれる

実は、姪っ子たちの考えた指示の中で、不評の指示もありました。それは、「女の子の絵を描く」というものです。

これを考えたのは7歳児ですが、彼女は、絵を描くのが大好きで、将来は「絵の先生になりたい」と言っています。そのときは、女の子の絵にハマっていました。(ちなみに、私も彼女の指導を受け、アドバイス通りに女の子の絵を描いてみると、とてもかわいらしい女の子に仕上がりました。恐るべし、7歳児の言語化力)

ただ、みんなで楽しむゲームの指示カードとして「女の子の絵を描く」というのは、指示を考えた本人に有利に働くわけで、不公平感は否めません。また、ゲームを中断して絵を描くのは、時間がかかりますし、絵を描いている様子を眺めていてもあまり楽しくありません。

まあ、子どもが考えたものだし、と大人は素直に受け入れていたのですが、ゲームの途中で7歳児から、「いいアイデアを思いついた!カードの指示を変えてもいい?」という申し出がありました。そこで、一旦ゲームを中断して、彼女がカードに新しい指示を書き加えるのを待ちました。出てきた指示が以下です。

  • いちばんの人と順番を交換できる

そのとき、いちばん先頭にいたのは、私だったのですが、この「冒険カード」が加えられたことで、一気にゲームの展開が見えなくなりました。誰がそのカードを引くのか、一発逆転があるのか、もう全員がドキドキです。単に動作をおもしろがるだけの指示ではなく、ゲームの展開を変えるような指示が考え出されたことに、正直ちょっとびっくりました。

ルールメイキングに必要な要素

今回の遊びのルールづくりを通して、ルールメイキングについて改めて考えてみました。最近、学校の校則を生徒自ら変えていこうという「ルールメイキング」が話題になっています。学校から一方的に押し付けられる「校則」ではなく、生徒が中心となって、先生や関係者と話し合いながら、校則を見直していこうという活動です。

関係者全員が納得できるようなルールを作るというのは、時間や手間がかかる面倒くさい活動だと思います。そして何より、生徒に校則づくりを任せても大丈夫なのか、と大人側は不安に思うのではないかと思います。

しかし、今回、4歳と7歳という学校教育の経験が浅い姪っ子たちと一緒にルールづくりをするという体験をして、子どもは、非常に合理的な判断をするなあと思いました。サイコロの目に従って進むというシンプルなルールで作られた「すごろく」ですが、ルールによって、つまらなくなってしまったり、より楽しめるゲームになったりするのです。ルールづくりを通して、子どもたちはそれを理解したように感じました。

今回の経験を通して、ルールメイキングに必要な要素がいくつかあると思いました。箇条書きにすると以下のような点です。

  • 参加者(当事者)自らがルールを作成する

  • 目的を共有する人による安心安全な場が醸成されている

  • 良質なルールのサンプルがある

  • うまくいかなかったとき、合意の上で変更できる

まず、ルールを作った人が、ゲームの参加者であるという当事者性です。「冒険カード」には、もともと用意された指示もありましたが、姪っ子たちは、恥ずかしがってなかなか人前で披露できませんでした。しかし、自分で考えた指示に対しては、ごまかすことなく、その指示に従いました。自分自身もルールに従わなければならないという当事者性が、無理のない、納得できるルールにつながったのだと思いました。

しかし、自分の考えた指示によって、ゲームの楽しさが損なわれると、今度はルール立案者としての優位性を捨て、全員が楽しめるルールに変更するという判断をしました。参加者全員がゲームを楽しもうとする共通の目的を共有していたからこそ、自分の都合より、場の「楽しさ」を優先させたのだと思いました。さらに、変更を申し出ても受け入れてもらえるだろうという安心感があったことも大きかったと思います。

もう一つ、ルールを作るときに重要だと思ったのが、良質なサンプルがあることです。そもそも「エルマーのぼうけんすごろく」自体がおもしろいゲームとして成立しており、ルールを作る前にそのおもしろさを体験していました。さすがにゼロからルールや指示文を作るのは難しかったと思います。良質なサンプルがあったことで、新たな指示文を作りやすくしたのではないかと思います。

一方で、ルールを言語化する難しさも感じました。曖昧な表現であったり、言葉の意味を取り違えたりすることによって、誤解が生まれる可能性もあります。そのとき、参加者全員が言葉の意味をすり合わせ、共通認識を持つ必要があると思いました。

今回のエピソードは、「すごろく」という遊びの中で生まれたことですので、「校則」と同じ文脈で考えられない点もあるかと思います。それにしても、遊びを通してルールづくりを学ぶことになるとは思ってもみませんでした。改めて「遊び」って奥が深いなあと思いました。そして、子どもの持つ可能性ってすごい、と改めて感じたのでした。

ということで、今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!