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あらゆるメンタルヘルスのフェーズに応じた最適な「相談」が、受けられる社会を形成したい。ー株式会社e-ful CEO 青木 純也

心の中にモヤモヤを抱えつつ、生きる人が多い昨今。
しかし、その心の中のモヤモヤを吐き出せる場は、未だ少ないのが現状です。

株式会社e-fulの代表 青木純也さんは「あらゆるメンタルヘルスのフェーズに応じた最適な相談を受けられる社会を形成したい」という想いから、「相談」に特化したスキルシェアサービスをスタートさせました。

今回は日本社会におけるメンタルヘルスの現状から、心理業界が抱える問題。そして、青木さんがe-fulでもたらしたい未来についてお伺いしました。

青木 純也(あおき じゅんや)プロフィール

株式会社e-ful CEO

1999年兵庫県宝塚市生まれ。2017年4月1日京都大学総合人間学部入学に心理学を学ぶ。2020年4月7日株式会社e-fulを創業し、あらゆるメンタルヘルスのフェーズの人々に寄り添う「相談」に特化したスキルシェアリングサービスをスタートさせる。

ゆくゆくは臨床心理士を医師や看護師と同等くらいの社会的地位に持っていきたい。

ー青木さんはなぜ、e-fulのサービスを作ろうと思ったのでしょうか?

大学で様々な心理学を学び、その中でも研究者ではなく、臨床家としての心理職を進路として考えた時に、あまりに改善の余地があると感じて。それを解決するために、e-fulのサービスを作ろうと思ったんです。

ー改善の余地、というと?

主には、心理学部や心理専攻の学生の就職率の低さと、心理職の労働環境の悪さですね。

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ー心理学部を目指す学生や、心理職になる人が少なくなった場合、どんな社会的損失があるのでしょうか?

人々のメンタルヘルスが悪化し、それが重症化すると、精神科や心療内科へ通わざるを得ない人が増えてしまいますよね。もちろん良いお医者さんもおられますが、そこで受けられる治療は、投薬が主になってしまうことが多く、患者さんは薬に頼らないと生きづらくなってしまうんですよね。自分の悩みを自由に吐き出せる場。その場を作る専門家が減ってしまうと、重症化を未然に防ぐことができなくなるのではと考えています。裏を返せば、家族でも恋人でも友人でもない第三者の専門家に、秘密を守ってもらいつつ話す場があるだけで、重症化を防ぐことができて、象徴的な現象である自殺も大きく減らせるのではないかと推測しています。

ーそもそも青木さんは、どうして心理学を学ぼうと思ったのでしょうか?

中高生の時から人と対話するのが好きで、高校卒業後の進路を考えた時に、漠然と「将来は人の相談を受けて暮らしていきたいな」と思っていました。
あとはたまたま数学の先生で心理学を勉強してらっしゃる方がいて。前に勤めていた高校の学年便りに自分の考えを書いて投稿していたそうなんです。それを自分だけに見せてもらったりしていて、背中を押してもらったこともありしました。

ーそこで心理学を学んでプロになろうと思った時に、この業界の問題を発見した、と。

まさにそうですね。心理職分野で就職しようとすると、非常勤の多さと、給与水準の低さが一番大きな問題なんです。常勤の募集があったとしても応募者が殺到するので、なかなか難しい。仕方なく非常勤になっている感じなんですね。決して非常勤が悪いというわけではないんですが、例えば看護師と比較してみると、キャリアプランを選べず、相対的に非常勤の給与水準が低くなっているのが特徴です。心理カウンセリングへのハードルが高く、受けている人が少ないということ関係しているんじゃないかな、と。
最近も有名人の自殺報道が相次いだりしていますが(取材時2020年10月)もし、社会のインフラとして深く話すことのできる第三者の存在が提供されていたとすれば、自殺を回避できたんじゃないかとも思います。報酬を払い治療契約を結んだ上で、絶対に秘密が守られて、自分の本心を語れるという場を設けられただけで、人は救われると思うんです。でも、多くの人がなかなかそれを享受できていないと言うのが現状なんですよね。

ーなるほど。まだまだメンタルヘルス業界全体に認知不足を感じますよね。

広告宣伝が浸透していない業界なんですよね。そもそも資本主義の悪い影響でメンタルヘルスの問題に陥っているというのが根底にある。だから、業界全体であまり稼ごうってならない雰囲気があるんです。自分は心理カウンセリングも医療と同等のものだと思ってますが、まだまだ医者や看護師と違い軽視されてるように感じますね。なので、僕はゆくゆくは臨床心理士を医師や看護師と同等くらいの社会的地位に持っていきたいんです。そのためにはみんながカウンセリングに受けに来てくれるよう、まずは”敷居を下げる”ことが大事だな、と。

ーそこでe-fulように、アプリとかで予約できると定期的に相談する文化が根付きそうですね。

そうなんです。カウンセリングって一度も受けたことがない人が多いと思うんですよね。だけど、実際受けてみると、今まで抱え込んでいたことが軽くなって、自然と涙が溢れてきたという話もよく聞きます。まずは体験として、どんなメンタルの状況の人でも受けてみてほしいんですよね。カウンセリングの敷居を下げるために、心理面以外での相談もできることが必要だと考えています。カウンセリングとなると症状が起こってからというイメージかもしれませんが、心が健康だと思っている人も、コーチングなどを受けることで、心も健康を維持することにもつながるんです。だから、心理カウンセリングだけでなく、その人のメンタル状況に合わせた相談という意味で捉えてもらえると、敷居が下がるんじゃないかなと思ったんです。
例えば、日本ならすでに慣れ親しんでいる占いなどのスピリチュアル分野から広げていくのもいいかなとも思っていて。占いと心理療法って相容れない感じだと思いますが、どちらにも一定の効果があると思いますし、二つを並べたサービスはなかなかないので一緒にしてみたいな、と。心理療法をそれくらい気軽なものにすることで、心理カウンセリングそのものの敷居を下げていきたいです。

ーe-fulを通して、欧米に匹敵するくらい「相談」への敷居が下げられると、心理業界の未来がひらけてきますよね。

そうですね。中長期的にはもっとコンサルティングやコーチング等も含める予定です。そうするとだいぶ市場規模からしても大きくなるかな、と。心理カウンセリングだけだと市場規模が350億円しかないですが、コンサルティングなどと組み合わせられると、どんどん市場規模が広がっていくんじゃないかな、と。いろんな分野の相談できる選択肢が増えると、自分のフェーズに合わせてコーチングやコンサルティングなどに振りわけて相談できるようになります。それも利用者にとっては大きなメリットですよね。

ー例えば最近だとHSPの認知が広がってきていてますよね。「もしかしたらそうなのかな?」くらいのレベルで相談できるようになると世の中的にすごく良いことですよね。

そうですね。そもそも診断をして病名をつけるのは精神科や心療内科の「医者」の仕事なんです。でも、病気か病気じゃないかというよりは、どれくらいその傾向が強いかっていうレーダーチャートにしてもらう方法がより良いのではないかと思ってます。診断を受けないと自分の個性を表せないというか、人に伝えられないで不便だし、毎回毎回いろんなところで診断を受ける必要があり面倒だと思うので。そのレーダーチャート一個持っていれば、その人がどんな人かもわかるわけです。個人的にはそのレーダーチャートを広めたいなと思っています。

ー今では事業を手伝ってくれる方も増えたと伺いました。青木さんのビジョンに共感される方々なんですか?

そうですね。自分が心理学をやりたいと思ったのも、苦労したりいろいろ考えたりしたことが背景ですが、特に思春期の頃なんかは、意外とみんなも同じように悩んでいるんですよね。その中で、みんなは目指してないけど、自分は心理学を目指したっていうのはやっぱり問題を見つけてしまうと、それを放ってはおけないみたいな性格はあるのかなと思います。みんなは何かしら、考えすぎてもしょうがないかなとか割り切って大人になっていくんだと思うんですけど(笑)
例えば自分は少年鑑別所でインターンシップをさせていただいたんですけど、その中で入所している子と卓球をする機会があって、みんな非行少年っぽくないというか、本当に普通の子なんですよ。もう少し本人や親が相談できるような社会になっていれば食い止められたなっていうか、ここに来なくてよかったなっていう子が多いと感じました。だから、それもe-fulで相談をしてもらえる社会を作れれば良いと思ってます。

ーやっぱり何かしら精神的に苦労した経験や生きづらさを感じた経験がある人がほとんどですよね。

そうですね。でもそれって言い出しづらいですよね。だから、そういうのを言える場があるだけでも安心すると思います。
あと、そこではお金を払うことも結構重要なポイントだと思っています。クライアントの方はお金を払わないと、お返ししないといけないみたいになったり、話しにくくなったりするんですね。だけど、お金を払うことで何かを返さないといけない、ということは無くなるので、安心して話せるんです。
「なぜカウンセリングでお金を取るのか?」って理由は大学とかの臨床心理学の授業でも学ぶことなんですけど、金額設定とかは大して理由がないんです。何かを仕入れて売ってるわけでもないので、値段はあまり関係なくって。
無料で自分ばっかり話聞いてもらうのは本能的に気がひけるんですよね。でもお金払っていれば不思議とどんどん話せちゃうんですよ(笑)

ーe-fulのサービスの話をした時に、周囲からはどんな声をもらいましたか?

「青木さんにしかできないことなので応援してます」とよく声をかけてもらえますね。それは多分、僕が自分の話を積極的にするからだと思うんです(笑)自分は別に「絶対に臨床心理士になろう」と思って21年間生きてきたわけじゃないんです。大学1年生の頃はスタートアップの方に傾倒していて、シリコンバレーに行ってきたりとかもしていました。だから、スタートアップを広めようという活動をしていたわけですけど、実際自分がプレイヤーとしてやってみたいなとも思っていました。
あとは高校生の時から友達から相談をよく受けていたことも大きな要因かなと思います。別にカウンセリングじゃなくて、どっちかというとコーチング的な要素が多かったりしていましたね(笑)。自分の人生の中でいろんなメンタルヘルスのフェーズを経験しているからこそ対応できるというか、そういう関わり方ができるようになったと思います。だから、このサービスも自分としてもいろんなフェーズに対応した相談が提供できるんじゃないかな、と。

定期的に他者と深い対話をすることは何よりも大きな自己投資になる。

ー今後の青木さんの目標を教えてください。

歯科検診や美容室に行くような感じで、皆が定期的に「相談」を受ける社会になれば、各人が納得した上で人生の選択を行っていけるようになると思うので、そういう社会を作りたいですね。
誤解してもらいたくないのが、「相談」は何も精神的な悩みを抱えている人だけに必要なものではなく、あらゆるメンタルヘルスのフェーズに属する人に必要なものなんです。

例えば、上司とのコミュニケーションが上手くいかず、1日中日の当たらないオフィスで仕事をしてうつ病になってしまった32歳、年収600万円のシステムエンジニア、というペルソナで考えてみると、

①彼はまず精神科か心療内科を受診し、投薬も受けるかもしれないが、運が良ければ3ヶ月でうつ病の症状が軽くなってくる。
②その後、薬の量を減らしていき、心理カウンセリングを定期的に受けつつ、休職から半年後に職場へ復帰する。もしくは、新たな就職先を見つける。
③定期的な心理カウンセリングのおかげで自己肯定感も育めれば、次はコーチングを受け、より建設的なマインドセットを学べる。その結果、パフォーマンスを高めることにより社内で良い業績を上げて年収が720万円に上がる。
④エンジニアのメンターに技術的にも精神的にも支えられ、引っ張られつつ、メンターが新たに立ち上げた会社の創業メンバーとしてCTOに35歳で就任。自分らしい働き方を実現する。

①〜④が上手くいった例として考えられますけど、実は①から④で必要とされる「相談」はそれぞれ異なるものなんですよね。

ーなるほど。

なので、僕はe-fulを広めることにより、各フェーズで最適な「相談」を受けられる社会を形成したいんです。みんなが当たり前に定期的な「相談」を受ける社会になれば、例にあげたシステムエンジニアはうつ病の兆候に事前に気づき、重症化を未然に防げるようになるはずですよね。その場合でも、様々な「相談」は必要になってくるし、定期的に他者と深い対話をすることは何よりも大きな自己投資になると思うんです。

これから急拡大するであろう「相談」業界を支えるインフラになるべく、人々の「相談」する権利を守ることならなんでもやっていきたいですね。


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