『共犯関係』を目指して:エンタメ考察01

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はじめまして、ETCP(EntameTech Consulting Partners、エンタメテック・コンサルティング・パートナーズ)の吉見です。

音楽、芸能、ゲーム、コンテンツ配信業界の数々の現場を経験。実務的なアドバイスから権利問題まで幅広い領域をカバーしています。そんな僕の考えていることを書いていきたいと思います。

『共犯関係』とは何か。それは「送り手」(=演者、クリエイター、アーティスト)の発するメッセージを、「受け手」(=ファン)が積極的に理解しようとする関係のことです。演劇(芝居、舞台)というエンタテインメントは最も『共犯関係』の度合いが濃いエンタテインメントとなります。

例えば、舞台上に何も置かれていなくても、そこはニューヨークである、そこは海の底である、という設定を「送り手」が提示したら、「受け手」はその設定を受け入れて鑑賞しなくてはなりません。またモノローグという演出方法、ある登場人物が話しているセリフは他の舞台上の登場人物には聞こえていないという演出ですが、「受け手」は前もってこの演出の意味を理解していないと芝居そのものの意味が理解できなくなります。目で見えているもの、耳から聞こえてくるものをそのまま受け取っていては演劇鑑賞は成り立ちません。

ただ、「送り手」が「受け手」に強制的に理解させようとするとエンタテインメントではなくなります。両者がお互いに寄り添って、協力しあう『共犯関係』になることが必要なのです。

一度、この『共犯関係』に陥るとなかなか抜け出せません。劇場という隔離された世界で繰り広げられる「送り手」と「受け手」の濃密な関係は、劇場の外では味わうことの出来ない、一般生活では感じることの出来ない気持ちをひき起こしてくれます。

これは演劇以外でも同じことが当て嵌まります。例えばライブならば「お約束」と呼ばれ特殊なコールアンドレスポンスが『共犯関係』の一つでしょう。映画ならば、監督が繰り出す「お馴染みの演出」を探し出す行為が『共犯関係』となります。「送り手」と「受け手」の濃密な関係はファンの気持ちを上げる大事な要素なのです。

でも、この『共犯関係』には大きな問題が三つあります。一つは「受け手」にそれなりの能力と経験が必要になることです。積極的に理解しようとする心構え、豊かな想像力、それなりの知識、といったものが無いと十分に楽しめないのです。そのため『共犯関係』にあるエンタテインメントは強力な固定ファンを獲得出来ますが、その反面、新規のファン獲得には苦労することがあるのです。もう一つは既存「受け手」が新規「受け手」をブロックするケース。一種の嫉妬ですね。最後は「送り手」が既存「受け手」を贔屓している、しているように見えてしまい、新規「受け手」がつかないパターンです。今更ファンになっても面白くないと思われたら、新しいファンをつかないですよね。

この問題を打開するには、「送り手」と「受け手」が、つまり演者サイドとファンが手を組んで、つまり『共犯関係』で新規「受け手」獲得活動をすることが有効です。「送り手」はもっと有名になりたい、「受け手」はもっと有名になって欲しい、その両者の気持ちがシンクロする雰囲気を作り出すことです。ハードルを下げて、新規「受け手」を受け入れる機会を、余地を作るのです。

ただ、ずっとハードルを下げたままだと、既存「受け手」としての満足度が下がるので逃げてしまうかもしれません。また新規「受け手」を優遇しすぎるのも危険です。「送り手」としては程よい調整が必要となります。

まずは『共犯関係』を使って手堅い「受け手」を獲得して、その後『共犯関係』で徐々に大きくなっていく。このスタッフワークがこれがこれからのエンタテインメントの勝ちパターンの一つなのです。

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