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高齢者施設での一幕
マジシャンは人を驚かせる職業です。
でもマジシャンを続けていると、こちらが驚かされることも度々あったりします。
今回お話しするのは、僕がまだ駆け出しのマジシャンだった頃のお話です。
春も中盤に近づいてきた頃、僕は初めて高齢者施設でのマジックショーに挑みました。
当時大人数にお見せするステージマジックが苦手だったので、得意の至近距離・少人数に特化したテーブルマジックショーを行いました。
テーブルマジックはお客様との距離が近い分、コミュニケーションが重要となります。
いつものようにお客様である高齢者さん達の反応を伺いながらマジックを進めます。
が、反応がないっ!
特に目の前に座っているお爺さんは視線すら定まらない様子。
目隠しをされてマジックをしている気分になり、まだ暑くもないのに大粒の汗をかきながらマジックを進めました。
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しかし、コインが増えるマジックに入った時、先ほどのお爺さんの瞳に光が戻りました。
「コインが重なってて薄くなってるのかと思ったけど、違うんだよなぁ」
先ほどとは全く違う反応です。
反応がある!こんな嬉しい事はないっ!
僕は水を得た魚のような気分でマジックを進めます。
マジック終了後、そのお爺さんが過去に見たというマジックを生き生きとした口調で教えてくれました。
古典的日本奇術の名作、お椀と玉をかなり正確に説明してくれました。
僕がマジックを見せたことによって、遠い記憶が蘇ったのか、脳が活性化されたのか……。
マジックには不思議なだけじゃない、何か特別な“チカラ”がある事を実感した瞬間でした。
高齢者施設で演じる事はとんとなくなってしまいましたが、この時期になると思い出す高齢者施設での一幕でした。
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