自動車教習所のDXについて考えてみた

私が経営する大町自動車学校は2021年6月1日に教習原簿のデジタル化について、発表しました。(詳細は下記リンク)

自動車学校は、教習原簿といわれる文書に教習の進捗を記録することが義務付けられています。この紙の教習原簿についてデジタル化が進まなかった大きな理由は3つあると思っていました。1つ目の大きな要因は公的な文書であるため行政に認められなければ実現ができないこと。2つは全国で書式がばらばらであること。そして3つ目の理由は、1つ目と2つ目があるが故に業界の経営者たちが「そんなことできるはずない」と思い込んでいることだと考えていました。

行政の問題に関しては、デジタル化の風向きが変わりつつあった2019年に大町自動車学校が西日本豪雨で水没した際、衆議院議員の古川康先生に相談したところ、うまく交通整理して下さり、実現に向けて大きく前進をしました。

2つ目の3つ目の要因については、私が少し問題を整理して、全国指定自動車学校協会の長期ビジョン研究会の発表会の中でプレゼンをしています。


前段が長くなってしまいましたが、ここまでで申し上げたいことをまとめると、経営者がやる気を出せばたいていのことは実現できるということです。

さて、この記事の本題は自動車教習所のDXについてですが、教習原簿をデジタル化したことが教習所のDXかというと、私の答えはノーです。しかし、DXを推進するうえで基幹となる業務が紙ベースだったことは、DXの大きな阻害要因で、それを取り除いたという意味では、今回の取組でDXの下地の一部構築できたと考えています。

さて、ではDXとは何でしょうか?いろいろ定義がありますが、私の考えるDXは、デジタルを活用して画期的な問題解決を実現して顧客体験を大きく変えることです。

例えば、①免許を取る過程で自動車学校への申し込みから免許センターで免許を受け取るための不要な待ち時間や書類の記入が全てなくなったり、②AIなども活用して、自身の習熟度が定量的に見える化されたり、③インストラクターからのフィードバックがそれと整合していて納得感ある教習体験ができる、などといったことの実現が教習所のDXの例だと考えています。

大町自動車学校は現在、②③に関してオープンイノベーションで模索をしています。①に関しては、自動車学校単独での実現は難しく、行政にもいろいろと検討をしていただかなければなりません。特に、申し込みをマイナンバーで行えるようにしたり、修了/卒業証明書・仮免許証のデジタル化は必須の取組で、こういったことは今後働きかけていくつもりです。そういったことにつなげるための教習原簿のデジタル化だったりするわけです。

一方、昨今のデジタル化の波は「デジタル化すればなんでもいい」といった風潮も感じており、それは少し危険だと思っております。DXとは顧客体験を向上させることであり、自動車学校は教育サービスであることを踏まえた最上の体験に寄与するものでなければなりません。教育効果に疑問符が付くような解決策を行ってしまったり、本来なら人がやるべきことを機械に置き換えることによるサービスレベルの低下は本末転倒でしょう。

そういった文脈で1つ懸念しているのは、オンライン学科教習に関する昨今のトレンドです。長い目で考えると学科教習もオンライン化が進むとは考えています。しかし、本来、オンラインの良さを生かしたオンライン授業を実施するには、オンラインに最適化した教育方法を検討しなければなりませんが、今回はそれを抜きにして教室で行うことをそのままオンラインに置き換えるだけ、これでは、学習効果はあまりあがらないでしょう。

オンライン学科での顧客体験で考えるべきは、ライブであれオンデマンドであれ、第1は動画に最適化したコンテンツです。ライブであればインタラクティブ性のある授業となっているか、オンデマンドであればいIPC(Information Per Seconds)が退屈させないようなよいテンポ感になっているかなど、よいコンテンツとなる要因を検討しなければなりません。そうすると、1コマを50分で考えること自体がナンセンスです。またオンライン学習の本質は自習であることから、学習時間ではなく習熟度によるメジャーで考える発想の転換が求められます。学習が得意な人にもそうでない人にも一定の水準まで学習させるということが自動車学校には求められることを考えると、苦手な人へのフォロー策もしっかり考えなければなりません。大町自動車学校が今回オンライン学科教習に取り組むことにしたのは、この様なオンライン学科での課題を洗い出して解決策を見出していくため、つまり、本来あるべき学科教習を実現していくためです。しかし、昨今の動向を見ていると効率性を上げるためだけの思想のない安直なオンデマンド学科教習への移行が目についており、この流れは業界を悪い方向に誘導するのではと少し懸念をしております。

さて、皆さんのDXの考え方はどの様なものでしょうか?私と異なるような考え方もあっていいとは思いますが、「顧客体験の向上」を目指す仲間が自動車学校業界に増えることを願って、今回の記事を締めたいと思います。

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