お前が嫌い(2022/05/09/20:52)

一定のモチーフを見ると、「お前はこれが好きだろうな」とお前のことを思い浮かべてしまうからお前が嫌いだ。
わたしだって自分として、そのモチーフを愛好していたのに、お前と出会ってお前を知ったせいで、「お前もこれが好きだった」と一つ思考に段階を挟むようになってしまった。
わたしのほうが、お前に干渉される前から、自分として、それが好きだったのに。
だからムカつく。お前がとっても嫌いだ。
わかったような顔で、きっと好きだと思って、と差し出してきたそれはお前が好きなだけで、好きなモチーフが共通していてもわたしのセンスではない。ちょっと違うなと思って、そのときは笑って受け取ったけれど、今は虚しく安堵して睨めつけている。
違うことにかなしんだりなどしない。むしろ一安心だ。お前とわたしは全然違う。わたしはお前が嫌いなのだ。


本当は、人を嫌うことなどもうしないはずだった。
憎悪の感情は疲れるし、好意の反対は無関心というようにただ干渉せず忘れていけばよかったのだ。そうすれば穏やかなままだったのに。中途半端に断てない縁が、縁と言うにも煩わしいそれが、わたしに他人を嫌わせる。愚かだと思う。おとなになってきているのに、他人が嫌いだなんて、未熟だと思う。
今さら誰かを嫌うなんて、しかもこんないびつに憎むなんて、幼稚すぎて自分がかなしくなる。
昔、お前のことを好きだと錯覚していた。錯覚していたと明確に定義できるくらいに今は認めがたい。憧れは理解から最も遠い感情だとは金言だと思う。実際そうだったのだから。憧れですらも偽物だったからつくづく自分を騙すのがうまい、わたしは。すっかり呆れてしまった。
お前がとても嫌いだけれどそれをわざわざ伝える必要はないとわかっている。

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