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突然の怒り -トロピカ〜ル恋して〜るの男

まだ5月だというのに最高気温は25℃を超えて、もはや既に夏だ。これから訪れる真夏日、うだるような暑さのことを考えると気が滅入る。

夏といえば聴きたくなる曲がある。『トロピカ〜ル恋して〜る』だ。

『トロピカ〜ル恋して〜る』は2000年にデビューした元ハロプロアイドル「あやや」こと松浦亜弥のセカンドシングルで、「恋人に海外旅行に誘われちゃった!嬉しいしドキドキするけど、どうしよう!」という不安まじりの期待を歌ったなんともキュートなハウス系ビートの曲である。作詞作曲は つんく♂。

【追記】YouTubeのアップフロントチャンネルでMVが公開された。有難い…

※U-NEXTだと2002年に開催されたライブ映像が見られます。とてつもなく歌が上手くて天才的に可愛い。

聞いているだけでテンションが上がる。この曲は恋人からかかってきた旅行の誘いの電話口でのセリフから始まり、「ついOKしちゃったけどパパとママになんて説明しよう?」などと続く。そしてサビの入りはこうだ。

はしゃいじゃってよいのかな?

いいに決まってんじゃん!はしゃいじゃお!水着買うよね?海入るんだったらマスカラ不安だし、まつパおすすめだよ〜、てかヘアアイロンとかって持っていっても海外で使えるんだっけ?え、何気に準備大変じゃね笑 私も旅行誘われてて、まあ海外じゃないけど、色々揃えたいしこれから一緒に買い物行かない?!

気分は完全にあややの女友達である。実際の私の青春時代には異性の恋人との旅行などというイベントはなかったのだが、親友と駅前のドトールで何時間も興奮しながら語り合った日々に戻ったかのようだ。私の心の中で、大好きな女友達(あやや)と過ごす青春劇場が幕を上げる。いつも頭の片隅から離れない仕事のあれこれや、やらなきゃいけない面倒な家事のことも、この時ばかりは舞台袖に引っ込む。私とあややの独擅場だ。くだらないことでお腹が痛くなるくらい笑い合って、一生こんな日が続くんだと信じていた、無敵に楽しかった時の気持ちが蘇ってくる。

ところで、私は突然キレる人間である。

キレると言っても誰かに怒りをぶつけたりする訳ではない。ただ頭に浮かんできた考えや事象に対して、内心で「こんなことがあって良いんでしょうかねぇ!」と怒りを募らせるだけである。怒りの対象が目の前に存在する訳ではないので完全なる一人相撲だ。この"突然キレる"というのも、自分でもその予兆が分からず、妖精か何かが飛んできてするりと私の脳内に侵入してきて怒りのスイッチをパチン、と入れてしまうような感じなのだ。そうすると私は脳内で難癖をつけ続ける、怒りのオートマタと成り果ててしまう。

『トロピカ〜ル恋して〜る』を聴いている時に、この怒りの妖精が現れた。ちょうど間奏での、恋人からの電話口でのあややのセリフを聞いている時だ。

「うん、うれしいよ…うれしいけど…
 ちがう…嫌いとかそんなんじゃなくって…
 すきだよ…すきだけど…」

この時の怒りは「そんな男やめとけ!!!」というものである。
一見恋人たちのたわいもないやりとりに思えるが、なぜ私はこんなにキレたのか。このセリフ部分について、歌の中では恋人の男性側の発言は書かれていない。だが、私が想像したのはこんなやりとりである。

(想像上の)男:「パスポートもうとった?え…まだ?もしかして乗り気じゃない?旅行、嬉しいでしょ?早く決めて準備しないと…」
あやや:「うん、うれしいよ…うれしいけど…」
(想像上の)男:「俺とは行きたくない?なに、俺のこと嫌いなの 」
あやや:「ちがう…嫌いとかそんなんじゃなくって…」
(想像上の)男:「じゃあいいじゃん!それに亜弥、海好きでしょ?すっごい綺麗らしいよ!」
あやや:「すきだよ…すきだけど…」

いやいやいや。あやや、不安がってるじゃん。そうやって強引に押し切ろうとするのどうなの。というか、自分のことが好きなら〇〇出来るはずとか、お願いが聞き入れられなかった時に「私/俺のこと好きじゃないの」って言うとか、相手の好意を盾に脅す行為って最低だと思う。そういうのモラハラっぽいし本当に無理。恥を知れ。

しかもあややは「パパやママにどうやって説明しようかな?」「パスポート取らなくちゃ」「自分じゃちょっと気づかない様な変な癖 もしあったならどうしよう」とも歌っている。

つまり、おそらく

  • あややはまだ両親の下で暮らしている(学生か社会人なりたて?)

  • 海外旅行にしばらく行っていない、もしくは初めて

  • 恋人とも半同棲状態や、日常的にお泊まりをする仲ではまだない

ということである。この状態で急に海外旅行は、ちょっと、どうなの。気持ちはわかるけどさ、ちょっと色々と急ぎすぎじゃない?海外旅行に一緒に行くにしても事前にあややのご両親にも挨拶しておいた方が良いと思うけど。せめて連絡先は教えておいたら。海外で何かあった時に責任とれんの。ていうかさぁ、いつもそうやって、俺のこと好きでしょ?とか言ってあややに無理させてるんじゃないの?!

男のセリフ部分は私が勝手に(こう言ってるんじゃないか?)と想像しただけだし、そもそも歌詞に対してなぜこんなにもキレてしまうのか。歌は「明日の朝 出発ね」と締めくくられており、あややは無事、恋人との旅行の準備も終えたようだ。もう懸念事項も不安もなく、あとは浮かれた期待しか残ってないだろう。私の怒りは無駄でしかない。

多分私の中の許せないことリストに「女友達がモラハラっぽい人間に振り回されて精神的に健やかではない状態になること。また、そうさせた相手」があるせいで、過敏に反応してしまった。当人同士の問題だし余程のことがない限り口を挟まないようにしようと思っている分、内心での怒りが募りやすい。

好きなら受け入れて!とか、好きだから許して!みたいなエゴが嫌いなのだ。そういえば綿矢りさ原作の映画『勝手にふるえてろ』の中で、「私のこと愛してるんでしょ?!こうやって野蛮なこと言うのも私だよ、受け入れてよ!」と叫ぶ松岡茉優演じるヨシカに対して、渡辺大知演じるニが「いくら好きだからって、相手に全部むき出しでしなだれかかるのは良くないよ」と返していた。本当にその通りだ。

ここまでキレてしまったが、私が想像を暴走させて理不尽に文句を言っているだけという自覚もあるし、大分冷静になってきた。冷静になって聴くと、やはりとても可愛くてワクワクする歌だ。

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