学校辞めたら学校サボれないよ

仕事辞めたい!

今の業務内容自体は割と好きで勉強も楽しいのだが、はっきり言って私は本当に働くのに向いていない。仕事に必要な根回しとかも苦手だし(そもそもコミュニケーション能力に問題がある)、面倒な仕事も断れなくていっぱいいっぱいになってしまうし、後輩の女性が偉いおじさんに厳しいこととかを言われた時のフォローにも気を遣うし、要領よく出来なくて落ち込むし、それに何より、決められた時間に決められた事をするのがストレスだ。

思えばずっとそうで、学生の頃もかなり不登校気味だった。
そもそも私は色んなことにうまく馴染めなかった。仲良くしてくれる友人はいたが、毎朝同じ時間に登校して、教室にいる集団の中に入って行くということが苦痛だった。学校に行くよう努力はしていたが、耐えられなくなって保健室に行ったり、駐輪場でうずくまっていることがほとんどだった。そんな日々を過ごす中、私と同じように保健室で過ごすことの多い同級生の女の子と仲良くなった。彼女とは本や漫画の趣味が合って、よく一緒に保健室で小説を読んで感想を語り合った。

いつものように、登校したものの教室に行く気になれず、駐輪場で野良猫を眺めながらぼんやりしていると、彼女が自転車(彼女の自転車はメタリックな緑色で、我々はそれを玉虫号と名付けていた)を押しながらやってきた。私に気付くと、ニヤニヤしながら近づいてきて「どうせ保健室行くんやろ?このままサボってチョコレートパフェでも食べに行こうやあ」と誘ってきた。

そのまま2人でのろのろと自転車を漕いで学校から少し離れた喫茶店に行き、チョコレートパフェを頼んだ。バニラアイスにかかったチョコレートシロップがてらてらと光っていて、口に入れると冷たさと甘さが脳に突き刺さった。ぼんやりとしていた脳が覚醒してきて、私は彼女に「私ほんまに学校辞めようかと思ってんねん」と伝えた。

それは当時ずっと私が考えていたことだった。私は勉強は良くできて、学校を辞めたとしても高卒認定を取って大学に受かることは容易いと分かっていた。彼女は止めるだろうか、まあ好きにしたらええんちゃう?とか言うんだろうなと思いながら反応を待っていると、彼女は少し考え込んでから、
「学校辞めたら、もう学校サボれへんで?」
と言った。意図が分からず黙り込んでいると、
「サウナに入るのは、サウナ後の水風呂が気持ちいいからや。運動するんは、汗かいた後に飲むアクエリが美味しいからや」
と続けた。そうなの?
「まあ知らんけど。私が言いたいのは、今食べてるのは『学校をサボって食べるチョコレートパフェ』で、普通のパフェとは違うねん。だって絶対材料は市販のやん。でもなんかめっちゃ甘くて美味しいやろ?それは学校サボって食べてるからやねん。クソだるいしほとんど失敗するけど登校チャレンジいつも私らなりに頑張ってて、それをサボって食べてるから美味しいねん」
そうかもしれない。
「だからまあ好きにしたらええけど、学校サボりチョコパフェは、学校辞めたら食べられへんということ」
なるほどなあ。私は納得してパフェを食べ、そのまま2人で本屋さんに寄ってからまたのろのろと自転車に乗って帰った。

結局私は学校を辞めず大学に進み、そのまま就職した。そして、仕事辞めてえなあ、と思う度に「学校を辞めたら学校をサボれない」という言葉と、彼女と食べたパフェの味を思い出しながら、チョコレートを食べる。

今のところまだサボったことはないが、仕事をサボって食べるチョコレートパフェの味を想像して、うっとりする。いつかそれを味わうために、もう少し仕事を続けてもいいかもな、と思いながら働くのだ。

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