アジカンおじさん

最近放送されていたアニメの影響なのか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの名を目にする機会がまた増えてきたように思う(もちろん今までもよく聞いていたが)。

ところで皆さんの学生時代に、よく年上のおじさんとつるんでる女の子っていませんでしたか?あれは、私です。

ネット上では「同年代の男にモテずに若さだけでおじさんにチヤホヤされてる芋女だろ」「性格に難がある」「家庭環境が悪かったんじゃないの。父性を求めてて可哀想」などの辛辣な意見を見かけて、その度にちょっと辛い。同意はしないが、そう考える人が多いのは理解できる。自分がそのどれに当てはまるのかは考えたくもないが、私は学生の頃から同年代の異性との接触を避けながらも(同級生の男の子に話しかけられてもほとんど喋らないので、私に話しかけてワンセンテンス以上引き出せたら勝ちというゲームが勝手に開催されたこともあって、その屈辱は未だに忘れらない)、一回り以上年上の男性に対しての忌避感はなかった。

大学生になりアルバイトを始めた私は、そこで一人のおじさん(と言っても30代半ば。今はそう思わないが当時の私からするとおじさんだった)と親しくなった。彼はASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチに激似で、アジカンのファンで、それが激似だったから親近感が湧いたのか、単にたまたまなのか今でも考えることがある。そのアジカンおじさんは気弱で優しく、私のためにアジカンをはじめとした邦ロックの名曲を選んでipodに入れてくれたり、私が好きな本を読んで感想を教えてくれた。私が落ち込んでいるといつでも駆けつけてきて、「アジカンで一番好きな曲は『君の街まで』って言ってたよね。僕はいつも会いに来る時はあの歌を思い出しながら電車に乗るんだ」と微笑んだ。

アジカンおじさんは私に好意を抱いているようだったが、そういった関係は望んでいないしあり得ないと伝えていたので、彼も良き友人のように接してくれて有難かったのを覚えている。彼の好意を利用している自覚があったので、「いつか就職したり結婚したりして疎遠になっても、僕がオススメした曲を聴いたりした時に、たまにでいいから思い出してくれたらいいな」という彼の口癖を聞く度に、ほっと胸を撫で下ろした。私は、私のことを好きな男性に対してはいつも卑怯で冷酷だ。

それでもやはり実らない好意はエスカレートして暴走するものなのか、次第にアジカンおじさんの行動が怪しくなってきて、遂に、私の自宅の最寄駅で待ち伏せをするようになった。「『君の街まで』を思い出しながら電車に乗るんだ」と微笑む彼の顔が浮かんだ。あの歌は気持ちとかの話じゃないのか。本当に私の街まで来るなよ。そこから何かをしてくる訳でもなかったが、さすがに少し怖くなった私は兄に相談し、次にアジカンおじさんが来ることがあれば兄がなんとかしてくれるということになった。

そして、その日はきた。
アジカンおじさんがニコニコしながら私の最寄駅に立っているのを見た瞬間に、兄に連絡してアジカンおじさんの写真を撮って送信する。兄は駆けつけてくるとそのままアジカンおじさんに一直線に向かい、
「あの、アンタ、知ってますよ。うちの妹から話聞いてます。良くしてもらってるみたいですけど、こういうのはおかしいんじゃないですか。」
と詰め寄った。私はそれを近くの建物の物陰からこっそり見守っていたのだが、身長が低めでガリガリに痩せているアジカンおじさんが10個以上も年下の兄に凄まれておどおどしている姿は、もう目を逸らしたくなるくらい物哀しく、なんだか罪悪感が湧いてくるほどだった。やりすぎだったかな・・・とモヤモヤしていると、アジカンおじさんの震えながらも毅然とした叫び(ちなみに声はアジカンのゴッチに全然似ていなかった)が聞こえてきた。

「それでもっ、僕は好きを諦めない!!!」

えっ…
この状況で、そんな少年漫画の熱血主人公みたいなセリフ?!

兄も呆気に取られたのか、「…いや、ま、じゃあ、そういうことで、頼みます。次に同じようなことあったらケーサツ行きますから…」と呟き、隠れていた私の手を引いて帰りを促した。アジカンおじさんは私に気づくと、謎にキリッとした顔を見せてきた。え、なんでだよ、今の状況わかってるのか?普段ビッグコミックの暗めの漫画に出てくるサブカル男みたいな感じなのに、なんでそんな週刊少年ジャンプ王道主人公の表情ができるんだ。いや、できるのは良いけどTPOとかあるだろ。どういうこと?

「好きを諦めない」ものの節度は守ろうと思ったのか、アジカンおじさんが待ち伏せをしてくるようなことはそれ以降なくなった。そして私がアルバイトを辞めると共に疎遠になってしまったが、未だにASIAN KUNG-FU GENERATIONを聞くと、アジカンおじさんが「僕は好きを諦めない!」と叫んでいた姿が脳裏をよぎる。発せられた状況はさて置き、良い言葉だ。「僕がオススメした曲を聴いたりした時に、たまにでいいから思い出してくれたらいいな」という彼の口癖通りになっている。これを知ったらきっとアジカンおじさんも喜んでくれるだろう。


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